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2-2


 やっと、魔の森の監視の任務を先任騎士のバルドルに引き継ぐことができたのは夕方ごろだ。

 自警団の人間は、短時間で順番に監視をしていたが、数の少ない騎士である俺はバルドルが後退するまで休むことができなかった。

 そして、交代するに当たり――


「初動二日くらいまでに異変がなければ、騎士が必要な状況は滅多に起こらないだろ。それに遭難者って女性の方も気になる。明日一日は、俺が監視しているから、お前は、一日休んで遭難者の女性の相手をしろ」


 てきぱきと指示を出すバルドルに俺だけでは無く自警団からも安堵の雰囲気が広がる。

 俺が臨時でも人の上に立つなんて、気疲れが酷いのでもうやりたくない気がする。

 そして、レスカの牧場に戻れば、夕飯の準備をして待っていてくれるレスカが居た。


「コータスさん、おかえりなさい」

「……ただいま」

「やっぱり疲れてますよね。どうします? すぐにご飯にします? それとも先に寝ますか?」

「先にご飯を食べて寝る。明日一日休める」

「分かりました」


 にっこりと微笑むレスカは、そのまま台所に立ち、夕飯の準備をするのでその後ろ姿をぼうっと眺める。

 そして、差し出された夕飯を黙々と食べる。ちょっと疲れすぎて、眠気の波が襲って来たために、何を食べているのか、どんな味だったのか曖昧だ。

夕飯を食べ終わり、温かいお茶を差し出され、口にしてやっと全てが終わった気がして、その場でカクンと頭の力が抜けて、寝そうになる。


「コータスさん、フラフラして眠いならベッドで寝ましょう?」

「……わかった」

 とりあえず、その一言だけ答えて、引き摺るように体を動かし、自分の借りている部屋に入り込み、ベッドに倒れ込む。

 着替えるのも面倒だし、何より抜けきらない疲労のまま、徹夜や慣れない話し合いの気疲れで眠い。

 そのまま、気持ちのいいベッドで深い眠りに入っていく。


 ………………

 …………

 ……


 朝がやって来る。

 あれほど疲れていたはずだが、いつもの時間帯に目を覚ますのは、もはや習慣の為せる技だろう。


「起きるか」


 一日、魔の森で見張りをしていた俺は、いつもの日課で手伝う牧場仕事を手伝うべく、外に出る。

 先に顔を井戸水で洗い目を覚ましてから、ピュアスライムの浄化水のための貯水樽に水を汲んでいく。

 その後は、訓練用の木刀がないために護身術の型を確かめつつ、身体強化の魔法で自分の体の調子を確かめる。


 加護によって体内に蓄えられている養分は、十分にあるが、疲労が十分に抜けきっていない。

 回復力を高めるように意識するが、時間の経った疲労ほど、回復には時間を要する。

 完全回復には、三日というところだろうか。


「コータスさん、おはようございます」

「コータス兄ちゃん、おはよう」


 軽く体を動かして深呼吸を繰り返していた俺に朝の挨拶をする声に振り返れば、バケツに絞り立てのリスティーブルのミルクを運ぶレスカと紙袋に何かを抱えるジニーがいた。


「もう少し寝ていてもいいんですよ」

「ああ、だが、遭難者が起きた時に対応しないといけないからな。それでジニーはどうして?」

「薬を届けに来た。お祖母ちゃんは、町の人と話し合って手が離せないから」


 そう言って、ん、と言って差し出して来る薬を俺が受け取れば、擦り傷や切り傷に対する軟膏だった。


「それじゃあ、朝ごはんにしましょうか。ジニーちゃんも食べて行ってくださいね」

「ありがとう。レスカ姉ちゃん」


 そう言って、嬉しそうにするジニー。

 そこでふとレスカの周囲に違和感を覚え、すぐにその原因を確かめる。


「レスカ。そう言えば、ペロは?」


 いつもレスカに付き従うオルトロスのペロが居ないことに気が付き、レスカは答えてくれる。


「ペロなら、運び込まれた遭難者の人の側に付いていてくれています。もしも、目を覚ました時、教えてくれるように」


 だが、それだけではないだろう。まだ成体となっていないがそれでも現状Cランク-の強さを持つ魔犬のオルトロスだ。

 保護した人が暴れたりした場合に容易に組み伏すことができるだろう。

 そして、俺たちが牧場の母屋に入り、一度部屋で着替えてから食堂のテーブルに着く。

 バルドルから休むように言われ、仲良く朝食の準備をするレスカとジニーの後ろ姿を眺める。

 料理するためにエプロンを掛けてレスカは長い髪の毛を後ろに一纏めにし、ジニーは、三角巾を頭に巻き、色違いのエプロンを身に着けている。


「ジニーちゃん、あとは私だけ居ればいいですから休んでいてくださいね」

「ん、わかった。レスカ姉ちゃん」


 そうしてやり取りをしたジニーは、眺めていた俺のところに来ると三角巾を外して、綺麗に畳んでからエプロンのポケットに仕舞い、俺の隣に座る。


「…………」

「…………」


 互いに無言でレスカの後ろ姿を見つめる中、チラチラとジニーが俺の顔を見てくる。


「悪いな。このゴタゴタが少し落ち着いたらちゃんと訓練付けてやるからそれまで待ってくれ」

「う、うん。コータス兄ちゃん、仕事だもんな。仕方がないよ」


 そう言って寂しそうに呟くので、その頭を撫でると、俺にされるがまま撫でさせてくれる。むしろ、もっと撫でろとでも言わんばかりに頭を傾けてくる。


「ジニーちゃん。お願いを頼んでいいかな?」


 レスカに呼ばれたジニーは、弾かれるように俺の手から逃れて、乱れた髪の毛を慌てて直してレスカの所に駆けていく。


「な、何レスカ姉ちゃん!?」

「お部屋で待ってるペロにこれを届けてくれるかな? ペロの朝ごはんなんだけど」


 俺に撫でられて気恥ずかしさで顔がほんのり赤くなっているジニーは、レスカからのお願いを受けてオルトロスのペロ用の朝食である生肉とミルクの皿を持つ。

 今、ペロが居る場所は、魔の森から出てきた遭難者だが、気を失っているために大丈夫だろうと俺とレスカは見送る。


 そしてしばらく経ち――


「――きゃぁぁぁっ!?」

「何だ!?」


 女性の悲鳴。それもジニーではない。となると、魔の森の遭難者の悲鳴だろう。

 直前にあった極限的な環境にいたためのパニックなのか、それとも同じ部屋に魔犬と名高いオルトロスが居たための悲鳴か。

 少し、配慮が足りなかったか、と思い俺は慌てて、寝かされていた部屋に駆け出し、扉を開ける。


「どうした! 大丈夫か!」

「きゃぁぁっ、なにこのかわいい子! それに頭二つあるモフモフワンコは!」

「――コータス、兄ちゃん、助けて」

『『わふぅ……』』


 右手にジニーを抱きしめ、左手にオルトロスのペロの胴体に頬擦りする女性に俺は、胡乱げな視線を向ける。


「あっ、あんたが私を助けてくれたの? ありがとー」

「……手を離してやれ。不審者」


 後ろからレスカも追い付いてきた。部屋の状況を見て驚く。

 流石にこの状況では、立場が悪いことを理解したのか、両手を上げて、敵意のないことを示して来る。

 その時、目を覚ました不審者から逃げるように俺とレスカの方に逃げてくるジニーとペロ。


「とりあえず、問おう。お前は何者だ?」

「私? 私は、卯ノ花・響。JKよ」


 自信満々で答える名前とジェーケーというものは分からず、俺は余計に眉を顰める。


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