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1-3


 振り返った先には、見知った二十代と十代の二人の男性が不揃いな木の枝を縛った束を肩に担いで立っていた。


「お前ら、何やってるんだ?」


 俺より先に左遷された先任騎士のバルドルが聞いて来て、牧場町一番の牧場主の息子であるオリバーがその後ろで俺たちを見ている。


「バルドルさん、こんにちは。私たちは、オガクズの買い付けに来たんですよ。そちらこそ、どうしましたか?」


 レスカもバルドルに聞き返すと、バルドルは、答えようと口ごもるが、すぐに後ろに立つオリバーに説明を任せる。


「オレ様は、親父の代わりだよ! 親父も魔物襲撃の時に怪我しちまったし、バルドルさんは、騎士団の駐在所が壊れて泊る場所がないからうちに泊って牧場の手伝いしてもらってんだよ」


 そう言って、胸を張って答えるオリバー。

 確か、オリバーの親父さんは、Bランクの魔物に進化する前の一回目の襲撃の時に襲われて、足を切られて今は療養中らしい。

 バルドルも怪我をしたが、リハビリとして住み込みでオリバーの親父さんが欠けた牧場の手伝いをしているようだ。


「二人はなんでここに来てるんだ? それに、その木の枝は?」

「あん? 見りゃわか……らねぇか。いいぜ、オレ様が直々に教えてやる」


 オリバーが肩に担いでいた木材を下ろし、その中から一本の木の枝を引き抜く。


「こいつは、近所の果樹農家から貰った果物の枝だ。こいつを燻製の香り付けに使うチップにするために来たんだよ」


 そう言って、木材所の作業員に頼んでオリバーは木の枝を渡していく。


「オレ様の家の牧場は、何種類か飼育しているからな! そこから採れるもので燻製を作ったりするんだよ。それに食肉系の牧場主たちとも物々交換して今夜、燻製とバーベキューだ! 怪我した親父に精を付けてもらうためと牧場町の士気向上のためだ!」


 俺たちは、風車の動力を革製のベルトで伝達して回転する木材の粉砕機に投入される果樹の枝を眺めながらオリバーの説明を聞く。

 バリバリと音を立てて風車の動力で回転する刃にここは注意しないと危ない場所だと感じる。

 また、レスカも近くの作業員に頼み込み、注文をするとオリバーたちの燻製のチップ用とは別の更に細かな刃の付いた粉砕機に掛けられた木材がサラサラの砂のように削られたオガクズが床に落ち、それを袋に詰められていく。


 その間もオリバーの牧場自慢を聞き流しながら、木材加工所の観察を続ける。


「オガクズは、かなりの量が必要なんだな」

「そうですね。リアカーに載せるにしてもロープで固定した方が良いかもしれませんね」


 二つの大きな袋に詰めるのは、リスティーブルの寝床に敷く細かな敷材用のオガクズ。もう一つは、オリバーたちの燻製用のチップより細かいがオガクズよりも荒い粉砕された木だ。


「なぁ、レスカ。あっちの荒い方は、牛舎の敷材には使えないよな」

「あれは、コマタンゴを増やすために必要な削りかすなんですよ」

「コマタンゴ? あの餌なし、管理不要だった?」

「基本的に管理の手間は少ないですけど、定期的に新しい苗床の元になる細かな木材を与える必要があるんです」


 そして、レスカの注文したコマタンゴ用の細かな削りかすは、敷材用のオガクズのような均一なものでもないし、燻製用のチップでもない。形も大きさも不揃いであるためにあとは、燃やして燃料にするくらいしか使い道のないものを木材加工所から掻き集めて格安で買い取っているという。


「まるで無駄がないな」

「はい。そこが牧場町のいいところなんですよ。自分たちの食べる分の生活は、やっていけますから」


 そう言って、俺に微笑むレスカだが、そんな俺たちを邪魔するオリバー。


「ええい、左遷野郎! オレ様が折角、町一番の牧場の素晴らしさを語っているのに無視するな!」

「ああ、まぁ、親父さんの怪我早く良くなるといいな」

「へへっ、すまねぇな。気を使わせちまって……じゃねぇよ!」


 オリバーのノリからのツッコミに後ろで待っていたバルドルは、ヤレヤレと言った感じで首を振っている。


「そのバーベキューと燻製パーティーにレスカも参加しないか? 今日、ブラックバイソンの肉やボア種の肉や、鴨肉も出るぞ! もちろん、左遷野郎、おめえは来んな」


 しっし、と手で追い払うようなポーズを取るオリバーの言動に逆に清々しさを感じるので、どこか憎めない自分がいる。

 そして、レスカの反応は――


「じゃあ、行きません!」


 きっぱりと断るレスカだが、口元は非常に緩んでおり、お肉食べたい、と顔にでかでかと書かれている。


「くくくっ、オリバー。素直に二人とも招待しろ。あと、レスカは諦めて別の娘でも口説け」

「う、うるせぇ! バルドルさんだからって、オレ様に指図すんじゃねぇ!」


 肩に載せられた手を振り払うオリバーは、ビシッと俺に指差して来る。


「左遷野郎! おめえもバーベキューに来やがれ! やる場所は、オレ様の家の牧場で夕方から開始だ! オレ様の健啖っぷりを見せてやらぁ!」


 なんか、喧嘩腰のまま燻製のためのチップの入った袋を受け取るオリバーはそれを背負って木材加工所から出ていく。


「これってつまり?」

「バーベキューに参加してもいいってことじゃないでしょうか」

「あと、健啖っぷりを見せてやるってことは、俺は大食い勝負を挑まれたのか?」

「多分、そうだと思います」


 そう言って、しばし呆然とする俺とレスカだが、オガクズの準備が終わり受け取ったので、とりあえず、ロープで干し草とオガクズが落ちないように縛り付けて、レスカの牧場まで戻って来る。


「牛舎の敷材のオガクズは倉庫に片付けましょう。干し草は、リアカーを軒下に置いて載せたままで明日に少しずつ運び出しましょう」

「コマタンゴのための荒めのオガクズはどうする?」

「それは、袋を開けておいておけば、勝手に運びますよ」


 俺はレスカの指示を受けて整理をしていく。

 牛舎用のオガクズを運んでいる間にふと目を離した隙にコマタンゴたちが荒い敷材の袋に集まり、牧場隅にあるコマタンゴの菌床が地面に埋まっている場所の近くまで運んでいるのを確認してから母屋の方に移動した。


「コータスさーん! バーベキューにお呼ばれしているので、お土産を持って行きましょうか!」

「ああ、分かった」


 俺は、一通りの作業を終えて、一度井戸前で身嗜みを整えてから母屋の食堂に顔を出す。

 そこでレスカは、バスケットに幾つかの食べ物を用意していた。


「うちの牧場からも提供できるものをお土産にしたいと思います」

「それがこれか?」


 並んでいるのは、リスティーブルのミルクから作られた自家製チーズと手足を切り落として収穫したコマタンゴが入っていた。


「折角だから、これも燻製にしてみんなで楽しみましょう」

「……それは、レスカが楽しみたいだけじゃないのか?」

「ちち、違うからな! 他の牧場のチーズと自分の牧場のチーズを食べ比べることができるとか! キノコの燻製ってどんなのだろうって好奇心とかじゃないから!」

「本音駄々漏れだから。それとまた口調がおかしくなってる」

「はぅ……」


 俺に指摘されて言葉を詰まらせるレスカ。

 少し意地悪が過ぎたか、と内心後悔しながら、レスカの再起動を促す。


「早めにオリバーの牧場に向かうなら、戸締りやリスティーブルを牛舎に戻してから行く必要があるな。俺はリスティーブルの方をしておくな」

「お願いします。私も準備します! ペロも一緒に行きましょう。今日は美味しいお肉が食べられますよ」

『『ワン!』』


 これからバーベキューに行けるので上機嫌なレスカと楽しいことが始まると分かって尻尾をブンブンと振っている双頭の魔犬を見ながら、外に出てリスティーブルを牛舎に誘導する。

 ここ最近、ストレスを特に感じないのか突発的な突撃を仕掛けることが減った大人しいリスティーブルを撫でながら、牛舎にちゃんと戻ってくれたことに安心し、牧場の戸締り等を終えて、オリバーの牧場に向かった。


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