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6-2


「さて、何から聞けばいいのか」


 自身の顎を撫でながらこちらを見るバルドルの表情は、無表情であり一切の感情を見せていない。

 だが、その瞳の奥には、苛立ちや困惑といった様々な色が見て取れる。


「まず聞こうか。部分発動とは言え、誰が禁術を教えた」

「俺の親父の仲間の一人に考古学好きや遺跡好きが居るんだよ。その人の話の中に出てきたものを昔再現した」

「あの技を発動させたのは何度目なんだ?」

「あれで三度目だ。使う度に大怪我を負った」

「はぁ……なら、もう他に禁術のような危険なものはないんだよな」

「話には聞いたことがあるけど、想像もつかないし、【加護】や俺の適正じゃあ再現ができないから無理だ。」


 そこで幾つも禁術を持ってる方が怖ぇぇよ。というバルドル。

 そして、大きな溜息を吐き出し、俺の使った禁術の正体を語り出す。


「文献によれば《マテリアボディ》は、超高濃度に圧縮された魔力による強化だけど、それを行なった術者の大半は、高濃度の魔力の負荷に耐えられなくて体中の組織がズタズタになる」


 例えるなら、革袋に砂を詰め込み、強度を増すのが身体強化系の魔法だとするなら、禁術は、その詰め込む砂が限界を超えて革袋を突き破るような状態だ。


「その後遺症だって生物としてか、魔法使いとしての命が断たれる」

「そうか。やっぱり、禁術って呼ばれる理由がそれなりにあるんだな」

「当たり前だ。部分的な発動とは言え、禁術だ。それに三回使って今まで生きてるなんてありえねぇよ。お前の騎士生命は普通だったら終わっている。それが、全治三カ月程度の怪我で済んでいるんだ。お前の【頑健】の加護に感謝しろよ!」


 そういうバルドルだが、多分俺の傷は今のままだと全治三カ月どころか、あと一週間程度で日常生活を問題なく送れる程度には回復する見通しだ。

 それを伝えると、呆れたように呟かれる。


「お前は、化け物か……」

「嬉しくない褒め言葉だな」

「褒めてねぇよ。ったく、なんでこいつが左遷されたんだろうなぁ! 本気で王都の奴ら見る目ねぇよ!」


 そう言って、ガシガシと頭を乱暴に掻くバルドル。

 だが、訂正しなければいけない。


「俺は、弱いさ」

「まだ言うか! お前は!」

「いや、俺は弱いさ。騎士団の中じゃ。そして人間同士の戦いだとな」


 そこまで言い、俺の言いたいことが分かったのかバルドルは、黙る。

 俺の【頑健】の加護は、傷の治りの速さや驚異的な回復力があるだけで一騎当千の力があるわけじゃない。

 Aランク冒険者やBランク級の近衛騎士のような一騎当千の強者たちと比べれば、実力の差は明白だ。

 その差を埋めるために使う禁術も長時間の発動はできず、発動後の反動で大怪我を負い、動けなくなる。

 その状態なら例え自分より格下の人間にでも易々と殺される。


 だから俺は弱いのだ。

 その後も、様々なことを話しあい、レスカとジニーが作ったおやつを食べてからバルドルが帰って行った。

 その時もレスカとジニーに食べさせて貰った時、バルドルがニヤニヤ笑っていたのは、若干苛立ちを覚えた。


 そして一週間後――


「コータスさん、もう大丈夫ですか?」

「ああ、少し腕はだるいが、動かないと体が鈍るからな。少しずつ体を慣らさないと」


 腕の固定も外し、今は元気にレスカの牧場の柵を直している。

 あのクレバー・モンキーのハグレ個体が襲って来た時の戦いに加わったリスティーブルが戦いに駆け付けるために壊した柵であり、俺がロープで木材を縛り、コマタンゴたちが新しい木材を運んでくる。

 そして壊した当人であるリスティーブルは、元気に牧草を食べている。

 それを確認して安心して背を向けた瞬間――


『ヴモォォォッ!』

「その動きは読んでいたぞ!」


 背を向けた瞬間に駆け出すリスティーブルに対して、柵のための木材を投げ捨てて、両手で構える。


 以前受け止めた時は、骨が不完全に接合した状態だったが、今度は休み、骨は繋がっている。

 衝撃を受け止めるために体全体に身体強化の《オーラ》を纏い、真正面からリスティーブルの突撃を受け止める。


「何度も、負けるかぁぁぁか!」


 出会い頭に突撃され、やられっぱなしの俺は、気合いを共に両手に魔力を集中させる。

 そして、集まる魔力が思いも寄らない輝き方を発する。


 燐光を発する魔力の青い光と浮かび上がる様に腕を覆う青白い光。

 俺が驚く間にも、力を集中した腕は、リスティーブルの突撃を完全に抑え込み、満足したのか、数歩後ろに下がって再び牧草を食べに行った。


「これは――」

「コータスさん、大丈夫ですか!? って、それは禁術!? また両腕が骨折するのか!」

「禁術っぽいけど、なんかちょっと違うぞ。あとレスカ、男の子口調が出てる」


 思わず発動した部分発動の《マテリアボディ》だが、俺の意思ですぐに消すことができた。

 そして通常の《オーラ》よりも多めに魔力を両腕に集中させることで再び《マテリアボディ》が発動する。


「なんか、大丈夫そう」


 以前使った《マテリアボディ》のように体の内部まで強化すると言うよりは、体の表面を半物質化した魔力が覆っているような感覚のために全く同じものと言う訳じゃ無さそうだ。

 効果としては、本来の禁術の部分発動の更に劣化だが、それでも《ブレイブエンハンス》より効果は高そうだ。



「完全に別の身体強化の魔法ができ上がってるな」

「そうなんですか?」

「腕に半物質の魔力を纏った魔法。《ブレイブエンハンス》に比べて防御寄りな魔法だけどな」

「こういうことってよくあるんですか?」

「いや、多くはない。けど、これに似た話はあるな」


 所謂、固有魔法の発現だ。

 生まれながらにして得た物や、とある場面で閃くことがあるその人だけ固有の魔法とも言える。

 固有魔法の形は様々で体系立った魔法とは逸脱した存在である。

 何度も異常な魔法を繰り返すことで体内に負荷が掛り、その魔法に適応するために体が特化したという説もある。

 俺の場合は、禁術というものをこれまで何度も体験し、それをよりこの常人の体に適応するために最適化して発現した身体強化系の固有魔法の一種だろう。

 リスティーブルの突撃を受け止めて思ったが、手はまるで痛みを感じなかった。

 まるで魔力で作られた籠手――


「――《デミ・マテリアーム》ってところか?」


 とりあえず新しい力を手に入れたらしいことは分かったが、この力の使い道で思い浮かぶのは、リスティーブルの暴走を素手で止めるくらいだろう。

本当に固有魔法だとするならば取得した原因は、災害級の魔物との戦闘だろう。

そして、それを戦いで利用した【頑健】の加護も固有魔法発現の要因だとするなら、この加護は何なのだろうか。自然治癒と養分貯蔵くらいしか分からない。

 改めて考えれば、俺はこの【頑健】の加護を何も知らなかった。




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