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3-3

 3-3


 食後の休憩を挟み、午後の川辺でジニーとアポロが俺に鍛錬を要求してきた。


「コータス兄ちゃん、鍛錬を付けて」

「そうです! コータス義兄様、久しぶりに鍛錬を」

「よし、それじゃあ、あの川辺で追いかけっこをしろ。水場での足腰を鍛え、水の抵抗を最小限に動く鍛錬だ」


 俺は、遊びながら鍛えられる鍛錬方法を提案すると、俺の意を汲み取りペロが川に飛び込み、チェルナがその後を追い掛けて川に滑空して着水する。


「ペロとチェルナとの水中鬼ごっこだ。行ってこい」

「わかった。コータス兄ちゃん」

「はい、義兄様!」


 そうして午後の水遊びが始まり、ペロたちを追って、ジニーとアポロも泳ぎ始めた。

 雨季の大雨では、大水の河川ではあるが、夏場は流れの穏やかな川は、牧場町の子どもたちの遊び場の一つである。

 俺やレスカ、ヒビキ、護衛の自由騎士は、川辺の木陰で休み見守り、ジニーと契約した火精霊のミアは、水の中に入れないために不機嫌そうに一番熱い石の上で寝そべっている。

 そんな川でジニーもアポロもずぶ濡れの中、レスカがおやつ時であることを告げてくる。


「おやつの時間ですから川から上がって下さいね」 


 レスカの声に我先にとペロとペロの背中に掴まるチェルナがレスカの元に掛けてくる。

 そして、レスカの前で止まったペロは、全身の水気を払うように体をぶるぶると振って水気を払う。


「きゃっ!? ペロ! 水が飛びます!」

『『わふっ!』』


 俺やレスカは、ペロが飛ばした水気で濡れてしまうが、ヒビキがちゃっかりと結界を前面に張って弾いている。

 俺は、そんなペロを迎えるようにタオルを広げて、ペロの体をわしゃわしゃと吹き始める。


「ペロ。ちょっと落ち着こうな」

『『わふっ』』

「私は、チェルナの体を拭きますね」

『キュイ!』


 俺は、ペロを。レスカはチェルナの体を拭き、遅れて上がってくるジニーとアポロは、ヒビキからタオルを受け取り、髪や顔を拭いていた。

 服は、この暑さで着たままでその内乾くとそのまま太陽に熱せられた石の上に腰掛ける。


「今日のおやつは、スイカですよ。お塩を少し振り掛けると甘みが増しますよ」


 朝、畑で採れたスイカを養殖所の親父さんのご厚意で井戸水で冷やさせて貰ったスイカがおやつとして出てくる。


「スイカ! いただきます!」


 綺麗に切られた真っ赤な果肉を持つスイカを皆が一切れずつ、手に取り、塩を僅かに振ってジニーが真っ先に齧りつく。

 シャリッとした食感の音がこちらに響き、スイカの甘さと冷たさに目を細める。

 続いて、アポロやヒビキたちも手に取り、ペロとチェルナは特別に四角くカットされたスイカを食べている中、俺もスイカに手を伸ばし食べる。


「甘くて瑞々しいな」

「美味しいですよね」


 揃ってスイカを一切れ食べ、二切れ目に手を伸ばす。

 ジニーとアポロは、水辺で泳いだがまだ気力があるのか爛々と目を輝かせて俺を見ている。


「コータス兄ちゃん、他の鍛錬!」

「そうです。足腰の鍛錬の他にも剣の鍛錬!」


 俺に教わろうとするジニーとアポロだが、そんな俺を見て――『ぐぅ、私もヒビキお姉さんと慕われたい!』と歯噛みしているヒビキを見る。


「はいはーい。ちゅーもーく! ヒビキお姉さんが特別に魔法が上達する方法を教えてあげるわよ!」


 そう言って、ジニーとアポロの視線がヒビキの方に向くが、ジニーの視線はどこか胡散臭そうな物を見る目であり、アポロは困惑している。


「今からちょっとしたゲームをしましょう」

「ゲーム?」

「そう、私が魔力の玉を作るから二人は、その魔力の玉に自分の魔力を伸ばして、私から魔力の玉を奪い合う」


 そう言って、ヒビキは、青白く光る可視化した魔力の玉を生み出し、掌の上に浮かべている。


「それをする意味はあるんですか?」


 アポロが訝しげにみる子供騙しのような遊びだが、歴代の賢者が積み重ねてきた魔法の鍛錬法の一つである。


「これは、魔力の玉は、相手の魔法に見立てて魔力制御を磨きつつ、相手の魔法に干渉する能力も磨ける遊びなのよ。上達すれば、相手から放たれる魔法に干渉して軌道を反らすことができるわ」

「ヒビキ姉ちゃん、本当?」

「ええ、本当よ。コータスも上手いわよね、と言うか、コータスの魔力制御が変態的過ぎて一度も勝てないわよ」

「魔力制御や魔力の干渉って意味だと、小手先技能の《練魔》やそれを昇華した戦技の《練魔刃》なんかは、相手の体内魔力に干渉して乱すからな」

 俺に魔力の玉の奪い合いの遊びで負けた文句を言ってくるヒビキに、他にも学ぶことで得られる有用性を俺から伝える。

 アポロは、俺への尊敬の視線を向け、魔力の玉の奪い合いの鍛錬にやる気を見せる。


「それじゃあ、始めるわよ。私から奪うことができたら、ご褒美に、アイスをまた食べさせてあげるわ!」

「「……アイス」」


 ジニーとアポロの口元に僅かに垂れる涎を幻視し、ヒビキの魔力の玉を奪おうと手を突き出して、うんうんと唸っている。


 俺は、そんなジニーとアポロをヒビキに任せて、レスカの隣に腰を下ろす。


「コータスさん、お疲れ様です」

「いや、大丈夫だ。それより、レスカも泳いだりしないのか?」


 暑そうに手で風を送っているレスカは、困ったように微笑み、ぽつりと呟く。


「私は、いいんです。その、あの……えっと……」


 いつもよりも歯切れの悪いレスカの言葉に首を傾げながら、答えてくれるのを待つと、レスカは、上目遣いでこちらを見てくる。


「コータスさん、笑いませんか?」

「笑わないと誓おう」


 俺が合間を置かずに答えると、逆にそれが不審に思われたのか、小さく唇と尖らせて怖くない表情で睨んでくる。


「その、ですね。……私、金槌なんです」

「……そうか。泳げなかったのか」


 まぁ、泳ぐと言うのは、特殊技能だ。騎士として冒険者としては、道なき道を進む時に必要と泳ぎ方は学んでいるために不思議ではない。


「けど、ジニーは普通に泳げているよな」

「はい。その、牧場町の子どもたちは、夏場は、この河川で泳いだりしてますから、ですけど私は、子どもたちと遊ぶより大人たちと一緒に魔物たちのお世話をしている方が楽しくて……それで」


 困ったように笑うレスカに俺は、なるほどと頷く。


「なら、俺が泳ぎ方を教えるか?」

「えっ?」

「泳げれば、水中にいる水棲魔物を見つける時に役立つかもしれないだろ」

「そ、そうですね! ぜひ、お願いします! あっ……」


 勢いで了承したレスカだが、何かに気付いたかのように自分の服装に目を落とす。


「えっ、あっ……どうしましょう」


 ジニーやアポロのように子どもなので着衣のまま川の中に入るのは別に良いのかも知れないが、レスカの場合は、どうだろうか、と悩んでいるようだ。


「あー、レスカちゃんの水着も用意してるわよ。私も川で遊ぶかもと思って下に着込んでいるから」


 ジニーとアポロ相手に魔力の玉の奪い合いをしているヒビキは、自身のシャツを捲り上げる。

 普段の過ごしやすいシャツの下に厚手の生地の水着を着込んでおり、それを真っ正面から見たアポロは動揺し、咳き込み、魔力制御が途切れる。

 図らずもアポロへの精神攻撃になっていた。


「はい。レスカちゃんの水着は、青と白のチェック柄の奴よ」

「ななな、なんでヒビキさんが持ってるんですか!? と、言うか、言わないで下さい! 恥ずかしいですから!」

「はいはい、抵抗しないでレスカちゃんも着替えちゃいなさい」


 ヒビキが取り出した紙袋をレスカに投げ渡すと、レスカはそれを受け取る。

 その後、ヒビキがパチンと空いた手で指を鳴らすと、指先から黒い靄が現れ、レスカの周りを覆い始める。


「レスカ! 大丈夫か!?」

「だ、大丈夫ですけど、ヒビキさん! これは何なんですか!?」


 慌てるレスカの声にヒビキは、首だけこちらに回して答えてくれる。


「女の子が着替えるための暗幕よ。ほら、コータスも大人しくレスカちゃんが着替えるのを待つの。レスカちゃんも無駄な抵抗は止めて着替えなさい。って、うわっ、ジニーちゃんの方に引かれてる!?」


 そう言って、話ながら魔力の玉を維持するヒビキだが、魔法を習得してから3ヶ月ほどの異世界人である。

 魔力制御は、ジニーの方が高いが、魔力の玉を維持するという性質上、ヒビキ側が有利である。

 だが、それにも負けず、ジニーが必死に魔力の玉に干渉し、じりじりと魔力の玉を引き寄せていた。


 そして、俺は暗幕の向こう側でスルスル衣類が擦れる音を聞きながら、レスカが出てくるのを待つ。


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