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水浴びから戻ると、母屋の食堂では、レスカと親父たちが和やかにお茶を飲んでいた。
「おっ、戻ってきたな。レスカちゃんとヒビキちゃんからお前のこれまでのことを色々と聞かせて貰ったぞ」
「……親父、何を聞いたんだ?」
俺がそう尋ねると、親父はニヤニヤとした笑みを浮かべ、アルテナさんはあらあらと言った感じで微笑み、アポロはキラキラとした目を向けてくる。
俺が助けを求めるようにレスカとヒビキに目を向けると、レスカは困ったように微笑み、ヒビキは外行き用の猫を被った笑みでいる。
「はぁ、まぁ、なんでもいいよ」
「そう溜息吐くな。実際、これは家族としての聞き取りだけど、騎士団としての聞き取りでもあるんだよ」
そう言って、先任騎士のバルドルの方を指差せば、そちらでも聞き取りはしているのだろう。
俺は、レスカに勧められて養父たちと対面するレスカの隣に座る。
だが、何を話せばいいのか分からず、俺と親父が困るところで互いに隣に座るレスカとアルテナさんが話すように脇を突いて促してくる。
「その、色々大変だったな。左遷されて」
「いや、むしろ左遷されて良かったと思ってる。重装騎士団にいた頃よりも充実して過ごしている」
「そりゃ、綺麗な姉ちゃん二人と同居して、女の子を一人鍛えてるって生活は、楽しいだろうな」
親父のからかいに俺は口を閉ざし、睨み返すと、おお、怖いと大袈裟に返してくる。
親父に取って俺のこの鋭い目付きの顔は、やっぱり子どもの睨みと変わらないようだ。
「まぁ本来なら、騎士団の入団試験を自力で突破したなら、コータスをうちの自由騎士団のところに入れるべきだったと後悔してたんだが……」
自由騎士団は、発生する魔物のスタンピード現象や繁殖力の高い魔物の討伐、他の騎士に多種多様な魔物の対策を教導するため、冒険者からスカウトされた人材が中核となって設立された騎士団だ。
その性質上、半傭兵のような立ち位置で必要ならば、いつでも騎士を辞めて冒険者に復帰できたりする。
俺は、その自由騎士団の団員たちから様々な分野のスペシャリストから色々なことを教わった。
――とは言え、それぞれの基礎であったりするので、中歩半端ではある。
「自由騎士団は、俺を身内みたいによくして貰ったからな。逆に身内ばかりで甘やかされそうだったから別のところに振り分けられて良かったさ」
「いやいや、本当ならお前は俺のところに来させるつもりだったし、シャルベルたちも楽しみにしてたんだぞ!」
シャルベルさんは、自由騎士の副団長で元は家督のない貴族の子息が冒険者になり、Aランクの実績を得て子爵位を賜爵された人だ。
主に、平民を中心とする自由騎士団の交渉役だったりする。
「お前が騎士団に入団した当時、騎士団内部での様々な不正の話が上がってたんだ。それの調査のために分かりやすい囮としてお前が重装騎士団の方に配属されたんだよ」
「そう、だったのか?」
「ああ、下手な新人を死亡率の高い重装騎士団に配属したら不正が見つかる前に、訓練で事故死されかねない。むしろ、以前から不自然な事故による怪我が多発していた。その点で言えば、お前は【頑健】の加護があるから他人より丈夫なんだが……」
親父は、俺が左遷される前のことを話して言い淀む。
多分、俺には思い出したくないだろうことの配慮だろうが、構わないと目を向ける。
「はぁ……騎士団内での賄賂による優遇、平民出身の騎士への私刑、特定鍛治師との癒着と不法な装備の販売、公文書の改ざん、職務怠慢、一部貴族派閥の財務官との癒着による騎士の給与の横領と見つかった」
「そんなに、問題があったのか?」
俺だけではなくレスカやヒビキは、それほどの不正が横行していたことに驚いている。
「問題があったな。それにコータスには私刑の件や不法装備の販売、本来は隊での持ち回りの書類仕事や厩舎の世話を押し付け、騎士への給与の横領とお前はこれだけの被害を被っていたわけだ」
「…………はぃ?」
流石に、俺も首を傾げる中、レスカとジニー、ヒビキたちが俺の方をじっと見つめる。
平民出身の騎士への私刑は、多分、一体多数だとか連続での打ち込みだろう。
特定鍛治師との癒着と不法装備の提供とは、騎士団からの紹介の鍛冶店での統一装備を購入したが、それが罪人捕縛に使われる【グラド重鉱石】が使われた偽物だった件。
書類仕事や厩舎の世話は、煩わしい人間関係から解放される数少ない楽しい時間だった。
騎士への給与の横領だけは、俺は知らない。
俺が一通りのことに関して、そう伝えると、レスカたちから悲しそうな目で見られた。
「お前……そこは普通気がつくところだろ。お前は昔から鈍いところがあるけど、なぁ」
絞り出すような親父の声に、とりあえず、すまない、と頭を下げる。
「いや、まぁ、俺もコータスに伝えずに勝手に囮捜査みたいなことを了承したのは悪かった」
お陰で、コータスが左遷された後、アルテナとアポロにバレて怒られた、とぼやく親父。
その左右では、相変わらず微笑みを浮かべるアルテナさんとその時のことを思い出して不機嫌そうにするアポロを見て、大分堪えたのかもしれないと思う。
「けど、コータスも違和感を感じ取って俺たちに相談すると思ってたんだが……」
「だが?」
「俺たちが魔物討伐の遠征に出ている間に、お前が囮であると気付いたやつらが不正の証人にならないようにお前を辺境に左遷しやがった! しかも、お前もお前で素直に受けやがって、帰ってきたら、いつでも不正を正せるように準備してたのに肝心の証人がいなくなってやがったんだから!」
吠えるような親父の言葉に、俺は再度頭を下げる。
「本当に心配掛けて、申し訳ありませんでした」
「いや、お前は、ホント昔から弱音を吐くとか頼ることをしないからなぁ。制度としては、左遷された騎士は最低数年しないと戻せない決まりだから余計に困ったんだが……」
そう言って疲れたように溜息を吐き出す親父。
「ホント、お前が左遷された直後は、自由騎士団の中でもアラド王国に仕えるのは辞めて冒険者に戻ろうとする奴らもいたから、引き留めるのが大変だったぞ。シャルベルが」
「シャルベルさんが、かよ」
「いや、俺ももう面倒臭かったから名誉貴族の位を返上して、一家でお前を追い掛けて辺境で農家でも始めてもいいかもと思ってたしな」
「いや、親父が率先して辞めようとしてるだろ!」
思わぬ告白に頭が痛いと俺は抱え、レスカも苦笑いを浮かべている。
「まぁ、その後は、コータスがこの町に送られた後、Bランク魔物が出現したって話を聞いた時は、自由騎士の面々連れて討伐しに行こうと思ったくらいだが……」
「まだ、あるのか?」
「俺たちに話が伝わってきたのは、お前が魔物を倒してから二週間は経ってた。それに救援依頼を断った代官や貴族派閥の文官が情報封鎖していた件が明るみになってな。流石にこれに関しては、王室は完全にブチ切れていたぞ」
そう言って、手刀で首を斬るような動作をする親父。
救援依頼断った代官やその情報を上げなかった貴族派閥の文官は、役職を外され閑職に回されたのだろう。
この辺境の牧場町は、王国の直轄領でエルフの里との交易を密かに行なっているので王室の大事な財源の一つだ。
あまり大っぴらにしていないが、それほど大事な場所なのである。
「仕舞いには、この国の守護竜であるアラドに認められて契約し、真竜の雛の守護者になるとか聞いた時には、俺も頭を抱えたぞ、意味が分からん、って」
「まぁ、非現実的だよな。あと、守護者と言うより保育者に近いかな」
そう言って俺がレスカの膝の上に抱えられたチェルナを見ると、なに? といった風に
小首を傾げるので俺は、その頭を優しく撫でる。
アポロからは、俺に対して尊敬の眼差しを向けられるが、なんともむず痒く感じる。
「まぁ、そんなこんなで今まで不正を正そうとした人間以外にもコータスという騎士が注目された結果、多方面で過去の経歴が探られたわけだ」
「その結果は?」
「逆に、重装騎士団の内部不正が明らかになった。お前の証言なしでも綺麗に内部の膿を吐き出せるほどにな」
その結果、重装騎士団内部では、不正者は騎士を剥奪され、放逐。それに関わった人間も重い軽いに応じた罰が与えられるなど、後処理で時間が掛かったようだ。
「お前の活躍を聞いて、自由騎士団のやつら、自分のことのように喜んでいたぞ。ほんと、元冒険者だけあって刹那的に生きてるよ」
「あなただってそうでしょ?」
ニコニコと微笑みながらそう付け足すアルテナさんに、親父は恥ずかしそうに笑う。
それにしても思わぬ意趣返しが遠くで起こっており、当人の俺は困惑するばかりだ。
「ほんと、どうでもいいんだがな。俺は、レスカたちとの生活が楽しいし幸せだし」
その呟きに食堂が静まり返る。
「えっと、コータスさん、それってどういう意味ですか?」
「ん? レスカたちと過ごす牧場町の生活は、楽しいし幸せとそのままの意味だが」
親父との話し合いですっかり冷めてしまったお茶を啜る一方、レスカは恥ずかしそうに顔を赤らめ、口をパクパクとさせていた。
そして親父は――
「あはははっ、最大の仕返しは。相手以上に幸せになることか! そりゃいいな!」
親父が大笑いする中、なおもレスカが恥ずかしそうに縮まっている。









