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5-5

モンスター・ファクトリー1~3巻が発売中です。

書店で見かけた際には、ぜひ手に取っていただけたらと思います。

また、Web版第4章は、毎日投稿の予定です。

改めてよろしくお願いします。

 5-5


 午前の見回りで自警団の門番と話をして異常はなかったが、やはり、何事も問題とは唐突に起きるようだ。


「バルドルたちは……集まってるな」


 俺は、東の平原に出ていたが、身体強化も併用して全力で走ってきたためにすぐに辿り着く。


「コータス、来たか!!」

「バルドル、何があった!?」

「南の街道でヒッポグリフ2体が荷馬車を襲撃中だ! 今は、護衛と乱入した鳥の魔物が争って被害は――『被害は軽微!』――だそうだ!」


 リアカーには、対空魔物用の道具が載せられていく


「道具は、揃ったな! 人数居ても邪魔になる! 自警団から十人付いてこい! 俺とコータスで一体ずつ仕留める。お前たちは、荷馬車を守るために来い!」

『『『――応っ!』』』


 討伐に赴く自警団の面々は、リアカーを引いて魔物が襲撃されている地点まで移動を始める。

 そして、しばらく移動し、街道でヒッポグリフに上空から襲われている荷馬車を見つけた。

 地上では手の届かない上空でヒッポグリフが羽ばたき、空中で静止し、眼下の荷馬車や商人、護衛たちを威嚇している。

 そんなヒッポグリフの周りには、先程急降下していたダーダル・スワローたちが飛び交い、荷馬車に近づけないように、牽制している。


「あれは、さっきの……なんで助けるんだ?」

「分からん! だが、幸いに荷馬車に被害はないようだな!」


 最初の急降下の一撃で列をなしていた荷馬車の屋根の帆がヒッポグリフの爪で引き裂かれていたが、致命的な破損にはなっていない。


「間に合ったか。だが、魔物同士の縄張り争いでもないよな」


 下から上空を見上げるだけでは分からないが、こうして間近で見上げ、ヒッポグリフという比較対象がいるためにダーダル・スワローの大きさがよく分かる。

 体調は、70~80センチほどで翼を広げれば、二メートルほどの大燕の魔物がヒッポグリフ3体の周りを跳び回り、牽制しているのだ。


『ピギィ――ッ!』


 ヒッポグリフが鳴き、目の前を飛び交うダーダル・スワロー目がけて爪を振り下ろすが、ダーダル・スワローは紙一重で避ける。

 美しい軌道を描き、代わる代わるに背中や頭部に嘴や爪で攻撃を加えて、離れるを繰り返している。

 ダーダル・スワローたちは、こうして自分たちより体格に優れた相手を追い返しているのか、と思う一方――


「ちっ、被害は広がらないけど、手が出しにくい」


 バルドルが武器のミスリルのスコップの先端をヒッポグリフの一体に向けて、《闘刃砲》を放てるように構えるが、ダーダル・スワローたちを巻き込みかねないために放てない。


「自警団の半数は、護衛たちと協力して荷馬車を守れ!」

『『『――了解です!』』』


 バルドルの指示に自警団の半数がヒッポグリフに怯えた馬を落ち着かせて、守りを固める。

 狙っていた荷馬車がより手が出しにくくなり、邪魔するダーダル・スワローたちにヒッポグリフが苛立っているように見える。。


『ピギャィィッ!』


 甲高い鳴き声と共に、空中を飛び交うダーダル・スワローの一体に向けて苛立ちげに爪を振り下ろす。

 今まで紙一重に避けていたダーダル・スワローの一体が爪で引っかかれ、空中に羽根が散り、地面に落ちてくる。


「落ちてくるぞ!」

「コータス、意識を逸らすな!」


 バルドルに叱責された直後、仲間が傷ついたことで動きが鈍り距離を取るダーダル・スワローたちの隙を突き、ヒッポグリフたちが急降下して強襲してくる。

 慌てて、体当たりや爪で引っ掻くなりして急降下を辞めさせようとするダーダル・スワローたちだが、ヒッポグリフの体格に逆に弾かれ、浅い傷だけでその勢いは止まらない。


「それを待ってた! ――《闘刃砲》!」


 バルドルの構えるスコップの先端から闘気の赤いオーラが収束し、刃の形となって放たれる。

 先頭のヒッポグリフは、僅かに体を傾けて避けようとしたが、片方の翼を打ち抜かれ、バランスを崩して地面に墜落する。


「――《重圧の魔眼》!」


 バルドルは、地面に倒れて起き上がろうとするヒッポグリフに、圧力を加えて動きを封じるが、もう一体のヒッポグリフが迫ってきている。


「――《ブレイブエンハンス》! 《デミ・マテリアーム》!」


 ミスリルの長剣を引き抜き、身体強化魔法を使い、更に半物質化した魔力の籠手で両腕と長剣の表面を覆う。

 そして、小回りの利かないヒッポグリフの軌道を読み、その進路に入り込み、長剣を置くように構える。


「そこっ!」


 俺は、迫る巨体を下から上に突きを放つ。

 ミスリルの刀身がすっと首に吸い込まれ、腕を振るう。

 ヒッポグリフの首の半ばまで断ち切られ、途中で力が抜けるように倒れて、急降下の慣性のまま地面を進み、そして、遅れて首の断面から血が溢れ出す。


『『『うぉぉぉぉぉっ!?』』』


 襲ってきた2体のヒッポグリフが呆気なく倒され、商人や護衛、町の自警団の面々たちも歓声の声を上げる中、俺は、バルドルや墜落したダーダル・スワローの方はどうだ、と振り返る。

 バルドルは、《重圧の魔眼》で動きを止めたヒッポグリフの首を闘気を纏ったミスリルのスコップで斬り付けて、切り落としているのが見えた。

 切り落とす時の角度や向きなどを調節して、返り血を浴びないように調整しての倒し方は手慣れているように思う。

 墜落したダーダル・スワローの方は、着地の際に翼を広げて、着地したようだが、背中にヒッポグリフのひっかき傷が見える。


「おう、コータスの方も終わったか?」

「首を掻き切って、致命傷を負わせた。これからトドメを刺す」

「なら、気をつけろ。手負いの獣は怖いぞ」


 俺は、分かっていると頷き、か細い息を繰り返し、血を溢れさせるヒッポグリフの方を見る。

 せめて、苦しみが続かないように一太刀で、と思う俺が近づく。


『ピギャィィッ!』


 ヒッポグリフは、甲高い鳴き声と共に、立ち上がり、駆け出す。 

 直感的に、危険だと感じた俺とバルドルは、狂乱したヒッポグリフを倒すために動き、剣を振うが、間に合わず、首ではなく片翼を切り落とすだけになってしまう。

 また、バルドルも《重圧の魔眼》で動きを封じ込めようとするが、勢いづいた死力の魔物の勢いを弱まらせるだけだ。


「お前ら! 避けろ!」


 バルドルが怒号を響かせるが、ヒッポグリフが倒されたことに安堵して、武器を下ろしている自警団や商人の護衛たちがすぐさま反応ができなかった。

 自警団や護衛たちは、突撃に慌てて左右に避け、荷馬車の前まで道を空け、狂乱したヒッポグリフは、目に付く荷馬車に向かって体当たりをしていく。


 そして――


「なっ!? さっき打ち落とされたヤツか!」


 ヒッポグリフの爪を受けて、地面に落ちていたダーダル・スワローが低空で飛び、ヒッポグリフの横腹に体当たりをしていた。

 互いに縺れるように横に倒れる中、ヒッポグリフの蹴りがダーダル・スワローに当たり、周囲に羽根を散らしながら、大きく蹴り飛ばされる。


「今だ!」


 その一瞬の妨害で追いついた俺は、今度こそヒッポグリフの首に当て、ミスリルの長剣で切り落として討伐した。


「何故、あのダーダル・スワローは、商人を助けたんだ?」


 ヒッポグリフの爪と蹴りを受けて、地面に蹲るダーダル・スワロー。

 他の群れの仲間は、そんな地面に蹲るダーダル・スワローの周りを跳び回っていた。

 だが、起き上がれず、飛べないと見ると、上空へと飛んでいき、綺麗な編隊を組んで北へと飛んでいくのを見た。


「お前ら……怪我人がいないか確認と手当だ! 無事なヤツは、商人の移動と町への伝令頼む!」


 バルドルは、自警団に次々と指示を出し、後処理に入る。

 自警団たちは、ヒッポグリフの突撃を避けた際、転んで擦り剥いたり、足首を捻ったりしたが、軽傷者が数人いるだけで全員無事で俺とバルドルは、安堵する。


 だが、軽傷者と言えど、俺が初撃で仕留め切れなかったばかりに被害を出してしまったことについて、後悔する。


「俺が一撃で倒し切れれば……」


 そんな俺の呟きに、バルドルが俺の頭に拳骨を振り落としてくる。


「……痛いぞ」

「コータス。お前のその考えは、自分一人でなんでもやるべきだ。って傲慢な考えだ。そんな考え捨てろ」


 俺は、バルドルに叱られ、自分がそんな風に思っていたのか、と愕然する。


「お前が一撃で倒し切れるか、どうかなんて問題じゃない。俺たちの第一目標は、死傷者や怪我人を出さないことだ。だから、襲ってきた魔物を倒す必要はない。極論、追い返すだけでいい。後の討伐は、冒険者や町の狩人に任せれば良い」


 バルドルの言葉に俺だけではなく、後処理をする自警団の面々は、俯き、話をしっかりと聴き入る。


「魔物は、他の生き物より生命力が強いからコータスが仕留めきれないのは仕方がない。だが、俺が訓練した自警団なら、Dランク程度の魔物の襲撃なら追い払えるはずだ」


 そのバルドルからの信頼の言葉に多くの自警団の面々が感動したような視線を向けているが――バルドルの表情がニヤッと悪い顔になる。


「今回は最悪だな。倒したと思って油断と慢心して、つまらない怪我をした。次の訓練は厳しくする」


 バルドルは、そう言い切ると、自警団の面々は、肩を落とし、のろのろと襲撃してきたヒッポグリフの死骸の回収と運搬、町への伝令、行商人の護衛などを手伝う。


 そんな中、俺とバルドルの所に助けられた行商人の男性が近づいてくる。


「助かりました。お陰で積み荷を失うことがありませんでした」

「いや、こちらも町の傍での魔物の襲撃だ。見過ごすわけにも行かない」


 バルドルがそう話す一方、行商人は、ちらりとヒッポグリフの爪と蹴りを受けて倒れるダーダル・スワローに目を向ける。


「すみませんが、あの魔物は、この先の町の牧場で飼われている魔物ですか?」

「あー、いや、野生の魔物だ。たまたま上空を飛んでた渡り鳥なんだが……」

「では、何の関わりもない私たちを助けてくれたのですか……」


 俺たちが辿り着くまでダーダル・スワローたちがヒッポグリフを牽制していたお陰で、荷馬車は無事で、商人やその護衛たちも大きな怪我を負うことはなかった。


「野生の魔物で群れからも見捨てられた。普通なら、このまま捨て置くが……」

「できれば、助けてあげてください。我々を助けたために死んでしまうのは不憫でならない。」

「だが……」

「私のエゴだということも分かります。治療費は、私が出します」


 そう申し出る商人にバルドルが困惑し、俺も――


「バルドル、俺からも頼めないか?」

「コータスもかぁ……って、お前らもか」


 バルドルの指示で後処理をしていた自警団の面々も作業の手を止め、バルドルを見つめていた。

 なぜ、ヒッポグリフを牽制したのか分からないが、それでも結果的に、この場にいる多くの者は、倒れるダーダル・スワローに助けられたのだ。


「ああ、わかった! なら、ヒッポグリフの死骸の回収は後回しだ! その渡り鳥の魔物を牧場町まで運べ! リア婆さんも呼んで治療だ!」

『『『――了解!』』』


 生き生きと作業する自警団の面々。

 彼らは、魔物牧場を継げない次男や三男坊が多いが、それでも魔物好きな人が多い。

 手持ちの道具でダーダル・スワローの傷を応急処置して、リアカーの後ろに慎重に載せて運ぶ。

 その際、野生の魔物なのに、暴れたり、混乱する様子もなく素直に治療を受けているために、やはり妙に人慣れした魔物のように感じる。


「野生と言っていたが、もしかしたら以前、誰かに調教されていた魔物か?」

「かもな。トレント牧場みたいにある程度育ったら野生に帰した個体かもしれん」


 俺の呟きに、バルドルがそう答える。

 俺たちは、襲われていた行商人を助けた後片付けに奔走に、行商人たちも運び込んだ積み荷やヒッポグリフの爪を受けた後方の荷馬車の様子を確かめていた。

 まだ襲われたことで荷馬車を牽く馬たちが怯えているので、馬たちの養生や一部痛んでいる荷馬車の修理に少しの間、滞在して再び行商に旅立つ予定らしい。


 こうしてヒッポグリフの襲撃は、終わり、また新たな出来事の始まりでもあった。




【魔物図鑑】


 ダーダル・スワロー【討伐ランクE】


 大燕系の魔物。

 雨季の南風に乗って北上し、夏場は海辺の岸壁に巣を作り、子どもを産み育て、秋頃の雨と北風に乗って、南下し、温かい地域で冬過ごす魔物。

 風を読み、長い距離を飛行する能力が高く、非常に知的な魔物として知られている。

 また長距離を飛行するために、体自体が軽く、食用に適しておらず、また羽根などの価値は低い。

 夏場に岸壁に作る巣は、海藻などを唾液で練り上げて作られるために、北方海岸の珍味とされている。

 特定の地点を往復する習性を利用して、ダーダル・スワローの群れが滞在する地域では、人慣れさせたダーダル・スワローに伝書を括り付けて、遠方との連絡方法が存在する。



 ヒッポグリフ【討伐ランクD-~D+】

 鷲の頭部と馬の体を持ち、グリフォンと雌馬との間に誕生したことが起源の魔物。

 上空からの急降下で襲いかかり、鋭い前足で獲物を仕留めに掛かる。

 飛行能力を持ちつつ、地上では馬の脚力で移動することが可能であるために、空と地上に適用した騎乗魔物として有名である。

 卵から育てた場合、刷り込みにより非常に従順であり、多くは扱い易く調教師に人気の魔物である。

 ただし野生のヒッポグリフは、血肉の味を覚えているので非常に獰猛になりやすく、危険であり、多くは家畜を狙う害獣扱いされる。


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モンスター・ファクトリー
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