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4-4

モンスター・ファクトリー1~3巻が発売中です。

書店で見かけた際には、ぜひ手に取っていただけたらと思います。

また、Web版第4章は、毎日投稿の予定です。

改めてよろしくお願いします。

 4-4


 荷物を母屋に置く際、チェルナも昼寝の時間となって眠そうにするので、ペロに預けて、俺たちは、レスカの牧場の一角に集まる。

 そこでレスカとコマタンゴ・リトルフェアリーのマーゴ、ジニーと火の中級精霊のミアが対峙する。


「俺が審判を務める。形式は、決闘魔物同士による試合に準じ、変則ルールとして、範囲攻撃の禁止を加える」

『ワカッタ』

『ニャッ!』


 マーゴとミアが闘志を溢れさせ、短く返事をする。


「まさか、こういう調教師として初めて戦わせる魔物がマーゴで。相手がジニーちゃんだとは、夢にも思いませんでした」

「なんか、レスカ姉ちゃん、ごめん」

「いえ、いいんですよ。この状況を一番穏便に済ませる方法ですし、なによりちょっと楽しんでいる自分もいるんです」


 互いに使役している魔物や精霊が闘争心を剥き出しなのに対して、レスカとジニーは、和やかな会話をする。


「レスカちゃん、ジニーちゃん。お姉さんがばっちり、結界張っといたからその範囲内でなら好きにしていいわよー!」


 マーゴとミアを囲うように半球状の結界が張られ、薄らと色付き、その外側からレスカとジニーが指示を出すらしい。


「勝敗は、どちらかの体が大幅に損傷、もしくは消滅した時点で勝敗が決まる」


 マーゴの場合、意志表出のための菌糸の人型の損壊。

 ミアの場合、魔力で実体化した体の維持が不能。もしくは不安定になる。


 それぞれがその勝利条件に納得し、どちらが上か立場を決めようとしている。


「それでは――始め!」

「マーゴ! 菌糸の腕で拘束して下さい!」

「ッ!? ミア、上に逃げて!」


 開始直後、マーゴは、ミアを囲むように地面から六本の菌糸の腕を伸ばし捕まえようとする。

 だが、ミアは伸ばされた菌糸の腕を掻い潜り、空中を蹴るようにして菌糸の腕の包囲を掻い潜り、上空から見下ろす。


「ミア! 《ファイアボール》!」

『ウニャッ!』


 わかった、とでも言うように返事をするミアが尻尾を振って、その先に灯る炎が三つの火球に変わり、マーゴに降り注ぐ。

 これで終わりかな、と俺は内心思うが――


「マーゴ、壁! それとまだ届きますよね!」

『モチロン』


 小さく頷くマーゴは、地面から分厚い菌糸の塊が競り上がり、火球を防ぐ。

 そしてぶつかる火球は、菌糸の塊に触れて小さな爆発を起こし、周囲に菌糸の塊が降り注ぐ


「また、無茶をする。って、あれは……」


 菌糸の塊の一部は炭化しているが、その裏に隠れるマーゴは無事である。

 また、周囲に散らばった菌糸の塊が、徐々に姿をコマタンゴに姿を変え、そして地面から菌糸の腕が等間隔で並び、生える。


「マーゴ、投擲! 撃てぇぇっ!」

『ウテェェッ!』


 レスカの指示を真似するように、マーゴが指示を出す。

 それにより菌糸の腕に乗っかるコマタンゴたちが次々と上空にいるミアに投げられていく。


「ミ、ミア、全部燃や……あっ! 避けて!」


 次々と投げられるコマタンゴたちに向かって毛を逆立て、体から火の粉を吹き出していたミアだが、ジニーが思いとどまるように指示を出し、慌ててコマタンゴたちを避ける。

 投げられた無数のコマタンゴたちを燃やすだけなら、ミアの全力で全方位を燃やせば済む。

 だが、それだと、範囲攻撃禁止のルールに接触することを思い出したジニーがミアへの指示を辞めさせ、慌てて回避させる。


「ううっ、レスカ姉ちゃん、ズルいよ! マーゴの他にもコマタンゴを使うなんて!」

「ごめんね。ジニーちゃん。でもこれがコマタンゴ・リトルフェアリーって魔物の力なの」


 そう言って、次々と生まれては投げられるコマタンゴたちは、ミアは避けるが時折、掠りそうになる。

 マーゴは、膨大な菌糸を操る。

 個体にして群体の魔物であり、レスカはその特性を生かしつつ、まだまだ細かな制御や力加減を覚え切れていないミアの弱点を突く戦い方をする。


 どうやら杓子定規な魔法などはジニーの指示で再現できるが、どうしても力業になりやすいために逆に慎重な戦い方になってミアが押されている。

 次々と投げられるコマタンゴがその体に取り付き、動きを封じていく。


『ウニャァァツ!』


 取り付いたコマタンゴを払うために体に炎を纏い、燃やし、振り落とす。


『ミア!そのままマーゴに体当たり! いけぇぇっ!』


 投げられるコマタンゴを炎を纏って振り払い、そのままマーゴに突撃していく。

 だが――


「マーゴ! 菌糸魔法――《粘液分泌》!」


 レスカの指示を受けたマーゴは、巨大な菌糸の腕を生やしてミアの突撃を受け止める。

 巨大な菌糸の腕に小柄な猫精霊が飛び込んでも、軽く握られる姿が想像できる。

 だが、それでも菌糸を焼き切りながら、突き進むだろうと思ったが、違うようだ。


 何かが燃える音と火が消えるような音と共に、ミアが捕まってしまう。

 そして、菌糸の腕からじわりと透明な液体が染み出しているのが見える。


「な、なんで燃えないの!?」

「この雨季の湿った地面の水分を吸い、それをマーゴの菌糸魔法と合わせてヌメリ成分を生み出して見ました! これでミアを捕まえましたよ」


 マーゴの菌糸を操り、腕などにする攻撃以外にも、キノコの胞子を毒化する菌糸魔法が使えるが、まさか、こんな使い方をするとは思わなかった。

 ただ、ちょっとネチョネチョとした粘液に塗れたミアが可愛そうである。


「あー、あの粘り気をみていると久しぶりになめこ汁が飲みたくなるわぁ。はぁ、和食が食べたい……」

「これは、決着が付いたかな?」

「コータス兄ちゃん、まだだよ! ミア、炎の爪!」

『ニャッ!』


 ジニーのとっておきなのか、ミアが鳴くと拘束する菌糸の掌の中で赤い刃が生まれる。


「おー、まさに炎の爪! それっぽい技ねぇ」

「ああ、ほんと。爪に火属性を付与するなんて……」


 ミアの両手の爪に炎を凝縮したような爪が生え、菌糸の腕を斬り裂いた。

 ただ放出するだけの炎なら粘液で消火できただろうが、炎を凝縮した爪では消せず、斬り裂かれる。

 だが、その代償に、ミアの体を構成する魔力も不足するのか、姿が揺らめき、実体化が不安定になる。


「あれは、ジニーからの魔力供給が足りないな。もう、終わるかな」


 また、飛ぶ力もないのか、地面に降り立ったミアは、そのままマーゴにむかって駆け出し、炎の腕で斬り裂く。


「マーゴ!」

「勝者は――」

『マダ、オワッテナイ!』

『ニャッ!?』


 マーゴの体を両断したミアだが、千切れた体と体の間に粘性を持った菌糸の糸が伸び、ミアを絡め取る。


『ゼンイン、シュウゴウ、トリカカレ!』


 そして、マーゴの最後の号令として周囲に散らばるコマタンゴたちが地面に降り立ったミアにのし掛かるように集まる。


 菌糸の体を上下に真っ二つにされても、ミアに取り付くマーゴ。

 実体化が不安定になりつつ、マーゴやコマタンゴを振り払おうとするミア。


 互いが互いに泥仕合をして、騒がしく声を上げる。


 俺としては、先に実体化が不安定になったミアか、それとも体が真っ二つになったマーゴ。どちらが勝者か悩み、止めるタイミングを失っていた。


 完全な取っ組み合いの泥仕合にレスカもジニーも声を指示を出すこともできずにいた。


 片言の念話と猫精霊の鳴き声がレスカの牧場に木霊し、どちらかが力尽きるまで続くと思われたが――


『ヴモォォォォォォッ――!』

「っ!? ルイン!?」


 放牧されていたリスティーブルのルインが周囲の空気を震わせるほどの鳴き声を上げて、怒りの表情をこちらに向けていた。


「あ、そういえば……最近、雨でストレスが溜まっていて」


 レスカの呟きの通り、怒りで顰めた顔で見つめるのは、煩く念話を辺りにまき散らし、団子状態になっているコマタンゴたちやマーゴ、ミア。

 それらを標的にしたリスティーブルのルインは、後ろ足で地面を蹴ると、そのまま駆け出し――


「えっ!? 私、結界張っている……きゃっ!?」


 ガラスが割れるような音と共に、ヒビキが小さな悲鳴を上げて濡れた地面に尻餅を着く。

 ルインは、額に身体強化の魔力を集中させ、突撃の勢いでヒビキの張った結界を壊し、突き進む。

 その先には、煩くしていたコマタンゴたちの塊を盛大に蹴散らし、突き抜ける。


 ルインの突撃の勢いでコマタンゴは方々に撥ね飛ばされ、不安定になっていたミアも体を散らされ、マーゴもクルクルと上空に体が打ち上げられる。


「マーゴ!?」

「ミア!?」


 そして、走る勢いのまま弧を描くように戻ってくるリスティーブルは標的を俺に変えるので――


「――《ブレイブエンハンス》《デミ・マテリアーム》!」


 身体強化と半物質化した魔力の籠手を生み出し、リスティーブルの突撃を受け止める。

 今は、雨で濡れた地面で押し込められる距離も長く、蓄えた怒りの分だけ押し込められた距離は長い。

 それでもなんとか突撃を受け止めることに成功し、リスティーブルは少しだけ気が晴れたような表情で俺に背を向けて蹴散らしたコマタンゴたちの元に向かう。


『ヴモッ!』


 強い語気の鳴き声と共に、空気が震え、地面から新たなマーゴの体が生まれ、空中の魔力の残滓からミアが再度実体化する。

 そして、身体強化したルインがその巨体で小さな二匹の前に足踏みをすると、ズン、という腹に響く音が聞こえ、二人の目の前で地面が陥没しているのを見せる。


『ヴモッ……』

『ゴ、ゴメンナサイ、ナカヨクシマス』

『ウニャァ~』


 雨季でストレス溜まっている所に煩くして、ストレス発散も兼ねて蹴散らし、ルインが一喝入れたようだ。

 これによりマーゴとミアは、レスカの牧場の魔物たちの上下関係がハッキリしたようだ。


 オルトロスのペロが最上位で、次いでリスティーブルのルイン。そして同列にコマタンゴ・リトルフェアリーのマーゴと外部から来る新入りの猫精霊のミアに治まったようだ。


 余談であるが、真竜が背後に控えている暗竜の雛のチェルナは保護対象であるために上下関係に組み込まれておらず、ピュアスライムなどはそもそも上下関係を認識できるだけの自我や知能がないので入らないようだ。


 勝負の結果は、うやむやに終わってしまったが、マーゴとミアの不仲は、強引に解消されたようである。


【ライコウクラゲ】

 討伐ランク――G-(ほぼ無害)

 光や雷、電気などを吸収し溜め込み、夜間に発光する性質を持つ淡水系のクラゲの水棲魔物。

 体は柔らかく、すぐに千切れて死んでしまうが、水質変化と繁殖力が強い。

 光や電気を吸収する理由は、同じ水場に住む電気魔物から身を守るための耐性獲得、夜間発光により周囲の植物を生長させ、自身が隠れる草場を生み出すための共生、光で虫などを誘引し、水で溺れる虫を捕食するために生存戦略などと諸説あり、研究されている。

 魔物牧場では、ランタンの光源として使われる他に、食用としても適している。

 また、薬屋などは、ライコウクラゲの保湿成分を抽出した傷の治療薬やその応用である美容品が存在する。


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イラストレーターは、mmu様、キャラ原案は、ゆきさん様です。
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オンリーセンス・オンライン オンリーセンス・オンライン

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イラストレーターは、夜ノみつき様です。

モンスター・ファクトリー
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