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4-2

 4-2


 リア婆さんに洗浄液の注文をした帰り際、ジニーがお願いをしてくる。


「ねぇ、お祖母ちゃん。レスカ姉ちゃんの牧場に行っちゃダメ?」

「はぁ、ダメだよ。今日は鍛錬の日じゃないから行かせられないよ」

「ち、違う! 遊びに行きたいだけ!」


 そう言ってくるジニーに、レスカは微苦笑を浮かべる。

 そんなレスカをジニーが上目遣いで見つめる。


「レスカ姉ちゃん、ダメ?」

「是非、遊びに来てください」

「う、うん! ありがとう、レスカ姉ちゃん」


 その様子に、仕方がない、と溜息を吐くリア婆さんは、奥から一つの紙袋を取り出してくる。


「はぁ、この子。あたしの所に預けられてから誰かと遊ぶってことがないからねぇ」


 そのリア婆さんの呟きに、俺は、ジニーを見つめる。


「ジニー、お前、友達いないのか?」

「う、うぐっ……そ、そんなことない……友達は、いるよ」


 そう言って、俺から視線を逸らすジニーと心配そうに見つめるミア。

 そして俺とレスカは、共にジニーの頭を撫でる。


「な、なに!? コータス兄ちゃんだけじゃなくて、なんでレスカ姉ちゃんも!?」

「なら、レスカ嬢ちゃんの牧場に行くなら、今日は泊まりで行って、明日一日過ごしてきな。

あたしは、久しぶりに他の長老衆と酒場に行くから。レスカ嬢ちゃんも頼めるかい」


 そう言って、レスカの牧場への宿泊を進めるリア婆さん。

 そういう理由なら、とレスカは快く引き受ける。


「それなら、今日はジニーちゃんのためにお夕飯を豪華にしましょうか」

「うん。あたし、お魚食べたい」

「なら、ヒビキ嬢ちゃんに頼まれた美容品もついでに配達しておくれ。あと、レスカ嬢ちゃんの家にお菓子でも買ってきな。これ、お駄賃ね。余ったら、お小遣いにしていいから。それから、鍛錬だけど、あんまりやり過ぎるんじゃ無いわよ。休むために行かせるんだから」


 ここ雨季で薬屋でずっと【化膿止めの軟膏】を作っていたジニーへのお駄賃だろうか。

 少し多めのお駄賃を受け取ったジニーは、大事そうに仕舞い込み、宿泊用の衣類と配達の化粧品を持たされ、送り出される。


「さて、帰りに何処に寄る?」

「お祖母ちゃんが言っていたお菓子を買いたい」

「なら、ランドバード牧場の直売所で買いましょうか。あと、お夕飯のお魚やランタンの中に入れるライコウクラゲを買いに行きましょう」

『ニャッ!』


 ミアは、猫型の精霊ということで魚が好きなのだろうか? しきりに魚と言う単語に反応し、尻尾をゆらゆらと振っている。


 養殖所の生け簀で飼われている魔物は、数種類の淡水魚の魔物やヒビキが魔の森で遭難した時に入手した新種魔物の魔女ナマズ、ライコウクラゲという日光や電気などを溜め込み、夜に光を発する小さな水棲の畜産魔物など、それに関連する生物たちである。

 生体電流を流す水棲魔物と同じ生け簀に入れておくことで電流を吸収するので、曇りの続く梅雨でもランタンに入れておけば、安定した光源になる。


 閑話だが、力を使い果たしたライコウクラゲは、綺麗に洗浄して水気を切った後、生野菜のサラダとドレッシングと混ぜると、美味しい。


 そして、目的地の養殖所で水棲牧場の牧場主を見つけてレスカが声を掛ける。


「こんにちは。お魚とライコウクラゲを買いに来ました」

「おっ、レスカちゃんと騎士の兄さん、それにリアさんの孫娘さんも一緒かぁ」


 養殖所の生け簀の傍で作業をしていた水棲魔物の牧場主に声を掛ける。

 牧場主は、笑顔でレスカに受け答えしてくれる。


「魚は、あっちの生け簀にあるから捕ってくるよ。それと、ライコウクラゲの方もいるからちょっと待ってくれないか」

「はい。それと、サラダ用に、若いライコウクラゲをお願いします。安いですよね」


 レスカの言葉に、牧場主は、困ったように笑い頭を掻く。


「いや、ホント、レスカちゃんは、買い物上手だな。こっちの牧場の状況を予想できたんだろうね。困っていることお見通しで買い物してくる」

「レスカ、どういうことだ?」


 首を傾げる俺とジニーに対して、牧場主が今の養殖所の状況について説明してくれる。


「騎士の兄さんは、この前の川の水位が上がった時は覚えているよな」

「ああ、かなり雨が強い時だろ。土嚢を積んで町に水が流れないように堰き止めた」

「雨季になると、【魔の森】の養分が雨水と一緒に川に流れ込むんで、栄養過多になりやすいんだ。この前の増水で一気に川の水が養殖所に流れ込んだんだ」

「その結果、ライコウクラゲが増え過ぎちゃったんですね」


【魔の森】から流れ込む養分が水中の微生物の餌となり、更にその微生物をライコウクラゲが食べて、生け簀の中で子どもを増やした。

 また、生け簀の中には、ライコウクラゲの子どもは天敵が居ないために数が増え、栄養で一気に大きくなったらしい。


「生まれたばかりの若い個体は、発光機能が未成熟だし、沢山いる若い個体が光や電気を奪い合うと各個体が吸う光の量が減って、ライコウクラゲ自体の光の質が下がるんだ」


 だから、ライコウクラゲの光源としての価値を保つために若い個体の大部分が間引きされる。

 大抵が他の養殖所の魔物の餌や牧場主の家庭で食べるのだが、消費しきれない分は、討伐した後、適切に処分する必要がある。


「間引きせずに放置するとスタンピードや魔物を引き寄せる原因になったりするからな。こればっかりは仕方がない」


 そう言って、肩を竦める牧場主は、だからレスカの提案はありがたいのだと言う。

 本来は、処分するだけの間引かれる若いライコウクラゲが多少なりとも金銭に変わるのだ。


「では、お魚を六匹分と光源用とサラダ用のライコウクラゲをお願いします」

「助かったよ! 魚とサラダ用のライコウクラゲは、オマケしちゃうよ!」


 とりあえず、処理に困った間引きのライコウクラゲが金銭に変わったので、牧場主の表情が明るく、魚を注文より多い八匹と大盛りの間引きのライコウクラゲを渡してくる。


『ニャァ~』

「ミアもお魚一杯で嬉しそう」


 レスカが購入した魚を見て、嬉しそうにするミア。

 すぐ近くの生け簀を覗き込めば、淡水魚の魔物は沢山いるが、やはり火精霊は水が苦手なのか水場の傍に近づかない。


「次は、ジニーちゃんのお菓子ですね。ジニーちゃんはなんのお菓子が食べたいですか?」

「うーん。あたし、ちょっと選びたいかも」

「私は、夕ご飯に使う卵液を買いましょうか。コータスさんは、どうしますか?」

「そうだな。俺は、ランドバードの方を少し見てくる」


 一度、レスカとジニーと別れて、ランドバード牧場の牧場主に挨拶を入れて、ランドバードたちの様子を見に行く。

 その際、緑色の毛色に進化したランドバードの亜種――ソニック・ランドバードが俺とチェルナを見るともの凄い勢いで駆け寄ってきた。


『クェ、クェェッ!』

『キュイ! キュイ!』


 チェルナの鼻先とランドバードの嘴を互いに擦り付けるように挨拶をする。

 俺もそんなソニック・ランドバードの首筋を撫でる。


「久しぶりだな。調子はどうだ?」

『クェェェッ!』


 調子は良さそうだ。亜種に進化しても上手く牧場の他のランドバードとも馴染めているようで、そのランドバードの首筋を撫でる。


『クェッ、クェッ!』

「なんだ? 乗って欲しいのか? だが、今日はダメだぞ。レスカたちを待たせている」

『クェェェッ』


 人を乗せて走ることが好きなランドバードは、嘴で俺の服の裾を咥えて引っ張る。

 だが、俺は、レスカたちもいるのを理由に断ったので、落胆の鳴き声を上げる。


『キュイ!』

「チェルナ……はぁ、仕方がない。乗らない代わりにブラッシングしてやるから我慢しろ」

『クェェェッ!』


 チェルナの上目遣いの視線を受けて、俺は妥協する。

 そして、ランドバード牧場の牧場主からブラシを借りて、ソニック・ランドバードの毛並みを整えていく。


「どこか痒いところはあるか?」

『クェ~』


 気持ちよさそうに俺のブラッシングを受けながら、ドンドンとやって欲しい場所を俺に向けていく。

 ランドバードの全身をブラッシングするのは、大変であるが、気持ちいいところや痒いところを重点的に行い、満足したソニック・ランドバードに別れを告げてからお菓子やランドバードの卵を買ったレスカとジニーと共に、レスカの牧場に向かうために合流する。



モンスター・ファクトリー1~3巻が発売中です。

書店で見かけた際には、ぜひ手に取っていただけたらと思います。

また、Web版第4章は、毎日投稿の予定です。

改めてよろしくお願いします。

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