叶わないと知りながら
異様にテンポ良く進みました。
もうそろそろ終わりです。
翌日の昼、部下であるルイスに頼んで
公園に出かけた。
部下と言っても私より年上だけれど。
向かったのは、前によくベルと
遊んだ公園だった。
馬車でお屋敷まで送ってもらい、
更に街中へ抜け出して遊んで回った。
そんな時間は王国第六王女、
という窮屈な肩書きから解放してくれる
時間でもあった。
私は小さい頃から「王女様」という響きが
どうも苦手で、アン、と呼んで慕ってくれた
ベルのことが大好きだった。
ペンダントに手を当てると、リン、と
高い音が鳴った。
このペンダントも抜け出した時に買ったもので、
思い出のひとつだった。
「ベル……」
小さく、懐かしい幼なじみの名前を呟いた。
「どうしました?」
と、不意に訊かれて慌てて
「何でもありません。大丈夫です。」
と答えた。笑えて、いただろうか。
「そのペンダント、いつも身につけてますね。」
いきなりペンダントの事に触れられ、
「これは…その、お守りというか、何というか。」
と、すごく曖昧な答えになってしまった。
「なにか思い出があるんですね。」
図星だった。でも、悟られたくなくて、
空を見上げた。
本当に、何時、何処ですれ違って
しまったのだろう。
考えても考えても分からなかった。
そんなことを考えていた時、
「あなたはどうして生きるのですか。」
と、後ろから訊かれた。
驚いて振り返ると、ルイスが慌てた様子で
「いや、あの、気にしないでください。」
と言ったが、答えは私の中にあった。
無意識に空を見上げていた。
「ずっと一緒にいたい人がいるからです。」
そう答えた。
正直な気持ちを言葉にしたのは初めてだった。
今まではっきりしていた空が
水彩画のように滲んで映った。
温かい雫が頬をつたうのが分かった。
もうきっと叶わない願いが、
春の風に乗って彼方へと舞った。
すれ違ってしまった幼なじみと
もう一度一緒にいたいと願うアンスズですが、
それが叶わない事も何となく解っているという
ちょっと切ない立場なんです。
読んでいただきありがとうございます。
次で完結です。
次回もアンスズ視点でお送りします。