表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
93/162

93話-不良娘


 リーリエが立ち止まったのは、剣術大会の時に入った店でした。


「最後に食べておきたくてね」


 唇からはみ出さない範囲で舌を出して、リーリエは中に入っていきます。

 美味しいのは前に来ている時にわかっているので安心ですから、私もそのまま付いていきました。

 バイル学園の生徒たちに会った時のことが嘘みたいに、リーリエは楽しそうに食事しました。

 それを平気だ、とは思えません。

 私が心配そうな眼を向けていると、リーリエは薄く笑いました。


「ありがとう。でも、わかっているよ。もうすぐ学園生活も再開だしな。私もこのままじゃいられない」

「このままじゃいられない?」


 訊き返すとリーリエは目を伏せ困った顔をしました。そんな彼女に私は何も言えません。

 こういう時、歯がゆく思います。そして、トオルならどうするだろう、と考えます。彼女ならどう切り抜けるのでしょうか?

 

「いや、何でもない。見ててくれ。もう、言葉で何かを示すことはしたくないんだ」

「わかりました。特等席で見させていただきます」

「そうだね。今や一番、セネカが私に近い位置にいるよ」

「意味深なことを言わないでくださいよ、もう」

「すまない。セネカが嬉しい事を言ってくれるからね」


 私たちは笑いあいます。それは虚しいものでした。一番近かった誰かの空位を私たちは忘れられなかったのです。

 食事を済ませた後、シャボンで汗を流し、屋敷に戻るとジョゼットさんが玄関で待っており、ニヤニヤ笑って近づいてきました。


「あらあら、不良娘のお帰りだわ」


 ジョゼットさんの声に反応して、フィル様が2階から顔を出します。


「2人で楽しかった?」


 私たちが答えあぐねていると、フィル様も下に降りてきてジョゼット様と2人でこちらに笑いかけます。あまりにもニッコリとした顔で近づいてきます。


「お母様、これが逢引というものですか?」

「そうね。リーリエが羨ましいわ」

「だったら、私たちもすればよいのでは?」

「いい案ね、ジョゼット。流石よ」


 嬉しそうにジョゼットさんの手を取り、フィル様はピョンピョンと跳ねました。

 可愛らしいなあ、と私が見惚れていて、言葉の認識が遅れました。

 え? 皆さんと逢引?




 翌朝、フィル様の用意した洋服と共に、メモが置かれていました。

 そこには、朝はフィオーレ様、昼はフィル様、夜はジョゼットさんと名前と時間だけ書かれています。


「フィオーレ様も増えてる」


 私は思わず呟いてしまいました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ