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84話-昔話


 ジョゼットさんに連れられたのは庭でした。私に会いたがっている人を呼んでくるとこのことで待たされています。

 イノ家にローウェルの縁者はいないはずですし、全く予想もできませんでした。


「セネカ様ですね?」


 後ろから声がしたので振り返ると、そこには30代後半の女性がいました。長い黒髪で背の高いその女性で、名前はすぐ出なかったものの、見覚えがありました。


「もしかして、ラーファさんですか?」

「覚えてらっしゃいましたか。お久しぶりです」


 ニコリと笑ってから、ラーファさんは慇懃に礼をしました。

 ラーファさんは母の友人で、母が騎士長だった時に副騎士長だった方です。姉は彼女から剣を習っていたそうですが、私はそういうわけでもなかったのでそれほど関係があるわけではありません。

 最後に会ったのは恐らく母の葬儀の時でしょう。


「剣術大会、見ましたよ。ご立派でした」

「ありがとうございます。ラーファさんは今はこちらで働かれているのですか?」

「ええ。初めはリーリエ様の教育係だったのですが、いつの間にか屋敷も任されるようになりまして」

「もしかして、ラーファさんがリーリエに剣を教えていたんですか?」

「ええ。私だけではありませんがね」


 リーリエの強さにも納得できます。幼少期に努力家の彼女が騎士から剣を教わっていたのですから、卓越した剣技を持っていて当然でしょう。


「立ち話もなんですから、お茶にしましょう。付いてきてください」


 ラーファさんは庭用のテーブルが置かれている場所に私を座らせると、屋敷に入ってお茶と焼き菓子を持ってきてくれました。


「本当はお嬢様とセネカ様にと思って焼いたんですが、お忙しいようなので食べてしまいましょう」

「ありがとうございます」


 焼き菓子とお茶を堪能していると、ラーファさんは手をつけずにこちらを見ていました。

 あまりも美味しかったので食べることに夢中になっていましたし、何か無礼を働いたのかもしれません。私は恐る恐る尋ねてみることにしました。


「どうかなさいましたか?」

「アイサに似ているな、と思いまして」

「お母様にですか?」

「リズにも似ていますけどね」


 母と姉が似ているとは思ったことがありません。

 ラーファさんは笑って、私に手を伸ばします。何をされるのだろうと身を硬くしていると、彼女は私の口端に触れました。


「口が小さい所ですよ」


 どうやら焼き菓子の生地が口についていたようです。

 焼きたてでパリパリという音と触感がとてもいいものでしたが、飛んでしまうという欠点はありました。


「まあ、アイサやリズと違って、セネカ様の方が上品ですけどね」

「そうでしょうか?」

「ええ。彼女たちは早く食べる癖がありましたから。口が小さいのにガツガツと豪快で、よく口周りを汚していたものです」


 懐かしむように目を細め、ラーファさんは笑いました。彼女の所作は上品で、笑い一つでも優雅です。素敵な大人とはこういう人のことを言うのでしょう。


「そういえば、オネットとアズライトは元気ですか? アズライトは文を寄越しますが、オネットは全く送りませんので」

「お二人とも元気ですよ。特に騎士長は」

「オネットが元気なのは大変よろしいことです」


 ラーファさんは騎士長たちの上司にあたる騎士ですので、2人のことを知っているのは自然なことですが、彼女の口ぶりは上司にしては親し気でした。


「ラーファさんは騎士長たちと仲がよかったのですか?」

「師弟関係でしたからね。貴方の母君であるアイサは病気がちでしたから、副団長の私が剣の稽古をつけることが多かったのです。特にリズ、オネット、アズライトの3人は優秀であり、手を焼かされましたから」


 やれやれ、という風に肩を揺すってラーファさんは笑いました。


「手を焼くとはどんな風にですか?」

「それはもう大変でしたよ。彼女たちは腕は立ちますが、生意気でしてね。よく先輩へ突っかかったりして喧嘩していました」

「喧嘩ですか? それも騎士長だけでなく?」

「そうですそうです。といっても、筋の通らない喧嘩はしませんでしたけどね。あくまで理念がありましたから可愛いものでしたが」


 喧嘩に理念とはどういうことだろう、と私が悩んでしまいます。それが顔に出ていたのか、ラーファさんは微笑みました。


「彼女らは不平不満で喧嘩していたわけではないということです。自分たちのためでなく、仲間のため、民のため、理不尽だと思うことを理不尽だと主張し、間違っていると思えば間違っていると声を大にして言っいただけのことです。やましい事をしているという自覚のある者たちに目をつけられ、喧嘩になっただけですよ。だから、私は心情的にはいつも彼女らの味方でしたが、まとめる立場として叱るしかなかったのです。頻度が多かったことには疲れましたが」


 そう言って、茶目っ気たっぷりに、ラーファさんが片目をつむるので、私は思わず笑ってしまいました。すると、彼女も笑い、2人の笑い声が庭に響きました。



二日間ほど結婚式の予定で家を空けるので、19(日)の更新はお休みさせていただきます。

次回は20(月)の20時に更新予定です。

2/23-キャラクターの名前が間違っていたので修正しました。

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