78話-会議室にて
私たちが会議室につくと、一番乗りでしたが、続々と残りの指揮官たちも入ってきます。ちょうどよい頃合いだったようです。
皆、重苦しい空気でしたが、誰一人として不安そうな顔の者はいませんでした。これが歴戦の猛者たちということでしょう。
会議室には椅子が12組あって、11は埋まっていました。騎士長はこういう時でさえ、最後のようです。
時間ピッタリに扉が開きます。そこから現れた騎士長は既に髪を上げており、目が据わっていました。
椅子に座り、挨拶もなく本題に入ります。
「我々がジュ―ブルに宣戦布告してから7日が過ぎた。相変わらず返答はないが、期日は7日だ。なので、これからジュ―ブルを攻める」
騎士長は決定事項を再度述べます。ネメス神からのお告げにより、私たち騎士団はジュ―ブルに侵攻を始めることになりました。
ですが、いきなりという訳ではなく、7日前にジュ―ブルへ文を渡しました。内容は一方的なもので、降伏し土地を明け渡すか、戦うかを選べというものです。
ネメス神が何故、ジュ―ブルを攻めろ、と言っているのかは知りません。国民にはジュ―ブルが間者を送るなど、こちらに害をなす準備をしているから、ということになっていますが、とても信じられませんでした。国境付近に住んでいて、そのような兆候がなかったからです。
それでも私たちは戦うしかありません。ネメスという国に住む以上、それは絶対守らねばならない規律です。
ネメス神が間違っている、と断定できないのもあります。ジュ―ブルが何もしていないと判断できないからです。結局、私は何も見えていないのでした。
「私が6時間後、ココを出て先鋒を務める。それに次ぐのがアズライトとシャリオだ」
以上、と締めくくり騎士長は会議室を出ようとしました。その背に私は尋ねます。
「残りの指揮官はどうすればいいのですか?」
「他の団員と共に待機だ。国境付近の警備に当たってくれ」
その言葉にシャリオとアズ姉以外の指揮官が反応します。態度で騎士長の決定が不服だと息巻いていました。
「いいか、決定だ。これは俺の戦争だ。お前らの出る幕はない。いくぞ、アズライト、シャリオ」
アズ姉は心配そうな目をこちらに見せましたが、そのまま騎士長の後に付いていきます。
シャリオが最後に出て、扉を閉めると、誰かが椅子を蹴り飛ばしました。
「何なんだあの態度は?」
その声に会議室の人々が賛同していきます。最終的には私とリーリエ以外が激昂している形になりました。
集団の中で違う態度を取るということは、必然的に浮くことになります。
私の前に、何度か稽古をしてもらった第2騎士団の指揮官であるクレングさんが立ちました。
「セネカもそう思わないのか? 君は特に騎士長に恨みがあるはずだろう? 黙ってないで――」
「それ以上、責めるようでしたら私は見過ごせませんよ、グレングさん」
リーリエが私たちの間に入って、グレングさんに笑いかけます。その笑顔だけで、グレングさんは引き下がりました。
「すまなかった。私が踏み込んでいい場所じゃなかったね」
「いえ、そんなことは。私は騎士長のことがどうとかではなく、きっと何か考えがあるだろうと思って」
「セネカちゃん、あの騎士長に考えだなんてあると思うの?」
グレングさんとは別の指揮官の方が言いました。彼女も第2の所属で名前は思いだせませんが、子供のころ親切にしてもらったことのある方です。兄が騎士団を率いていた時に協力してくれた人でした。
「とても騎士長とは思えない横柄な人じゃない。ローウェル騎士長の足元にも及ばない紛い者よ」
そうだそうだ、と声があがります。今の騎士団には前のアスクでの戦いで熟練層がほとんどいません。指揮官が全員若い者ばかりです。騎士長やアズ姉たちと同世代の人はこの中に誰一人としていませんでした。
この場にいる指揮官は、前回の戦いで兄に率いられた騎士たちばかりでした。
場の熱は上がっていきます。
「私は何度もアズライトさんに懇願したわ。貴方の方がよっぽど騎士長に相応しいと。でも、あの方はいつも笑っているだけ。結局、臆病者なのよ」
「それは違うでしょ、クロシー。騎士長とできてるからよ」
「本当なの? 騎士長、夏に来ていた赤髪の子と抱き合ってたけど?」
「シャリオ・イグニスってやっぱりそういうことだったんだ」
「いやいや、私が言ってるのはあの無礼者じゃなくて、落ち着いていて優しそうな子のことよ。確か、トオルだったかしら?」
「それはその子も、よ。シャリオもよく見るから」
収拾がつかなくなった流れに私は何もできず、拳を固めているだけでした。大切な人が、姉が、友人が馬鹿にされているのに何も言えませんでした。
それは怖いからではありません。解決する方法が何も見つからないからでした。
「皆さん、団員の方に先ほどの話を伝達してきますね。あ、他の団にも伝えてくるので、もう少しここにいてもらっていいですよ」
「あ、ありがとう。お願いね」
「セネカ、手伝ってくれるね?」
そう言って、リーリエは私の手を握ってくれました。彼女はこうした気遣いがとても上手くなっています。まるで、トオルのように振る舞います。




