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58話-下手同士

 私はトオルを引き連れて、リーリエの部屋に向かいました。


「リーリエ、中に入っていいですか?」

「セネカ? どうぞ」


 部屋にはいると、甘い匂いがしました。案内したときには、そんなことはなかったので、これがトオルとリーリエの匂いなのでしょう。こんなところまで、女の子らしい二人です。羨ましい。


「何の用事かな?」

「呆けていました。すいません。私はリーリエの力になりたくて、ここに来たんです」


 私がそう言うと、トオルは噴き出し、リーリエも驚いた顔をしたあと、口を隠してにやりとしました。


「ありがとう。心配させてしまったね」

「いえ、私が勝手にしたことなので」


 私がそう言うと、リーリエは声を出して笑い始めました。


「すまない。嬉しいし、感謝しているんだけど、笑いが抑えられないんだ」

「構いませんよ。リーリエは笑っている方が素敵ですから」


 リーリエはしばらくすると笑うのを止め、私の方をじっと見ました。何やら思案しているようですが、私には何もできません。確かにトオルの言う通りです。悩んでいる人に何かするのは簡単なことではありません。

 だから、私はリーリエに、思いを伝えることにしました。


「私も、騎士長に言われて戸惑いました。世界のこと、通力の存在、私が知らないことばかりだということ。でも、私には目的があります。この際だから、言いますが、リーリエの従者になろうとしたのも、騎士になる近道だと思ったからです」

「セネカの目的は、ローウェル家の再興ってこと?」


 トオルが質問という形で、私の言いたいことを付け加えてくれます。やはり、いてくれて頼りになる人です。


「はい。だから、力が欲しいのです。嫌いな騎士長に教えを請うことになっても、彼女が何を伝えようとしているのかわからなくても、それが騎士に、騎士長に上り詰める手段であるなら、掴みたいのです」


 私はリーリエに自分の思いを伝えることで初めて、自分の思いに気づきました。

 そうすると、何に戸惑っていたかもわかります。


「そうです。私は、加護がなくなることを恐れていたから、すぐ返事ができませんでした。加護がなければ、再興ができませんから」


 私が言い終えると、誰も何も言ってくれませんでした。どうしてだ、と考えると、自分の失態に気づきます。

 リーリエの悩みが騎士長のことであると勝手に断定しているし、いきなり話し始めたらみんなが戸惑うのも無理はありません。目的ばかりに目がいって、どうすれば上手くいくかなど考えなかった証拠です。

 せっかく、トオルに助言をもらったというのに。

 私はトオルの方を見て、助けを求めようとしたら、リーリエが口を開きました。


「何かを思って、行動して、言葉にできる。セネカはすごいよ。君に比べ、私はもっと些細なことで悩んでいたんだ」


 どうやらいい流れのようなので、私は全身全霊で、リーリエに立ち向かいます。さあ、来い、と耳を澄ませ、頭を整理して、待機します。


「神を信じる。私はそう思っているのだけれど、それが何故かを考えても浮かばなかったんだ。みんなのように、自分の思いを言葉にできなかったんだ。だって、私は流され続けてきた。それがいつからか辿っていたけど、見つからないから、ずっとだろう」


 リーリエは自嘲気味に唇を歪め、彼女の髪を撫でた。


「私は与えられた様々なものを好きか、嫌いかで選択していた。その理由を考えようとせず、ただ渡されるままに受け取っていた。多分、自ら考えず言葉にすることを避けていたんだと思う。考えないと言葉にできない。言葉にできないと人に伝えられない。あげく、自分自身のこともわからなくなる。凝り固まった考えしかできず、言葉にもできないのが私なんだ」


 いつも気品に溢れ、堂々としているリーリエが、こんな弱気なことを言うとは思いもしませんでした。

 やはり私は他人のことを何も見ていなかったのです。人の良い面も悪い面も、強い部分も弱い部分も知らず、人の上に立とうなど笑い話でしかありません。私の知っている騎士とは、剣だけで成り立っているものではないと昔から知っていたのに、こんなことにも気づかなかった。


「だからかな、神様という当たり前を疑った時、自分がわからなくなった。様々な物事に対しどう向き合えば、どう考えればいいかわからなくて、あの時黙っていたんだ。それだけでなく、思っていることを言葉にできない。伝えられない、自分の無力さを思い知ったんだ」


 リーリエは断定しました。自分は無力だと、言い切りました。

 彼女はとても強いし、そんなことはありません。ですが、彼女の求める力には、足りていないのでしょう。

 そう思っているのであれば、私は共感できます。そうでないかもしれないけれど、私は伝えずにはいられなくて、声を発していました。


「私もです。自分が無力だと痛感する毎日ですよ」

「私もそう思うよ。みんなそうして上手くなる。気づいていないだろうけど、リーリエは既に考えているし、言葉にできている。それが貴方の満足できる範囲かはわからないけど、少なくとも私たちには伝わっている」


 そう言って、同位を求めるようにトオルは私を見ました。どうやらまた言葉を足してくれたようです。ありがたいことですし、大方あってます。

 でも、私は同意してあげません。


「いえ、リーリエもまだまだです」


 トオルはぎょっとした顔をしました。彼女を慌てさせられたので、私はつい笑ってしまいそうになりますが、まだ言葉の続きがあるから顔を引き締めます。


「だから、リーリエ。下手同士、うまくやっていきましょう。私はきっと迷惑をかけますけど、友なんですから、許してください。この事に関する師もいますし、きっと大丈夫です」


 私が言い終えると、トオルは大笑いしました。それに続き、リーリエと私も笑います。


「ありがとう、リーリエ。そうだね挫けているほうが情けない。先に二人には伝えるよ。私も騎士長に通力のことを教わろうと思う」

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