57話-ご相談
昼食を終えても、リーリエの顔色は変わりませんでした。むしろ悪くなる一方です。といっても、真っ青になるわけではありません。
笑っている彼女の姿は相変わらず美しく、輝いています。でも、それは万全なものではありません。数ヶ月前の私なら気づけなかったはずです。リーリエの表情の差に。
なぜなら、リーリエの輝きの暖かさを知らなかったのですから。太陽に劣らぬ彼女の笑みはもっと美しいはずなのです。
そんなことを考えながら、リーリエを見ていると、私は自然と彼女の力になりたいと思っていました。
私にとって、そう思えたことは驚きでしかありません。人付き合いの下手なセネカ・ローウェルが家族以外の他人にそのような情を持ったことは一度もありませんでした。
ですが、経験がないので、どうすべきかわかりません。昼食が終わり部屋に戻るまで、妙案を考えていましたが、浮かんだのはトオルの顔だけでした。
「思い至ったら、行動ですよね」
私は自室で、活を入れてから、トオルに助言を求めに向かいました。
リーリエとトオルのいる部屋はすぐ近くなので、熱意が冷めぬまま到着します。
「トオルはいますか?」
「いるけど、何か用かい?」
トオルが廊下に出てきたので、私は彼女の耳元に口をやり囁き始めました。
「ご相談があるので、一人で私の部屋に来てもらっていいですか?」
トオルは頬を引っ張るようにしてはにかんで頷きました。
「それじゃあ、すぐに行くよ。向こうで待ってて」
「わかりました」
トオルが来るまでに、部屋を片づけようと作業を始めようとしたら、彼女がやってきてしまいました。物がないので、散らかりようがないのですが、少しは整えてから招きたかったなあ、と思いました。
ベッドに座るようトオルを誘導し、私も隣に座ります。
「相談って何かな?」
「リーリエのことです。彼女が悩んでいる様だから、力になりたくて」
トオルは目を丸くした後、優しく口元を崩しました。
「でも、どうすればいいかわからないから、私に声を掛けたってことかな?」
「はい、そういうことです」
全て話さなくても、伝えたいことがわかってしまい、私は腑に落ちません。何故、トオルはこんな技能を持っているのでしょう? どうすれば培えるのでしょうか?
「そうだね。悩んでいる人には、きちんと話を聞いてあげて肯定するとかかな?」
「簡単すぎませんか?」
「今のは一般論だけどね。だからまだまだあるよ。でも、悩んでいる人へ何かしてあげようって、案外できないものなんだ。悩んでいる時は、何もして欲しくない人もいれば、訊いてあげることで前進できる人もいるから。あとは、話を聞く方が助言のつもりが、熱が入りすぎて助言になってなかったりもするし」
「簡単? 難しい?」
私はトオルの話がわからなかったので、質問しようとしましたが、何から訊けばいいのかわからなくて、混乱してしまいました。
つまり、私の力量では却って、リーリエに嫌われるということでしょうか?
「大丈夫、続きがあるから」
トオルはそう言って、笑いました。私の早とちりだったようです。
「つまり、人によってやり方が違うって言いたかったんだ。それを踏まえてよく考えてみて、リーリエのことを」
私は言われた通り考えましたが、何も浮かびませんでした。美味しい昼食で解決できなかったことをどう解決しろというのでしょう?
「その様子じゃ、わからないみたいだから、私の考えを伝えるよ」
「お願いします」
私は背筋を伸ばして、トオルの言葉を待ちます。まるで犬のような態度ですが、なりふり構っていられません。
「リーリエはきっと、セネカが真正面から来てくれたらそれだけで嬉しいと思う。そこで、心配していること、力になりたいことを伝えれば、彼女は応えてくれし、彼女の力になれると思う。少なくとも、迷惑だなんて思いもしないよ。リーリエはそういう人なんじゃないかな?」
「トオルの言う通りかもしれません。どうすればいいのか思い浮かばなかったのと同時に、失敗する光景も思い浮かびませんでした。無意識の私は賢いのかもしれません」
「セネカ、面白い事言うね。それだけ余裕があれば、きっと大丈夫だよ」
「ほほう、言いますね。ありがとうございます」
私は褒められたことに礼を言い、頭を下げました。そこには、今の感謝とこれからの謝罪をこめます。
「それでは、トオル。太鼓判を押したのですから、見届けてくださいね?」