56話-意見表明
騎士長が去った後、私たちは会議室から出ませんでした。かといって話すこともせず、黙って座っているだけです。
「私は受けるわ」
一番初めに声を上げたのはシャリオでした。
「申し訳ないけど、私も神様を信じるのは止めてるの。準騎士になったわけだし、今更引けないってのもあるけどね」
シャリオは飄々と言います。神様を信じないという事はつまり、加護を授かり、その力を享受してきた人間が、その力の源を否定することです。
私は、先ほどまで神を否定する女性を見たことなどなかった。神の力がない者の末路が散見するネメスに住んでいるのに、何故そんな選択が取れるのでしょう。自分が落ちてしまうとは考えないのでしょうか。
神は人に罰を与えることができるというのに。加護を取り上げることなど造作もないのに。
この国では加護がなければ、人並みの生活を送るのですら厳しいのに。
「二人ともそんな顔しないでよね。ここには、私と似た考えの奴がもう一人いるんだから」
私は急いで、トオルとリーリエに目をやりました。私と同じことをしているのは、リーリエだったので、自ずともう一人が誰かわかります。
「そうでしょう、トオル? ご主人様のお言葉を待たなくていいのよ。だって友達なんだから、貴方の意見を言うのが誠意ってものじゃない?」
「シャリオ、君は反省すべきだ。表現をぼかすやり方を覚えた方がいい」
「お師匠がお師匠だからね」
「オネットはそうだな」
トオルは疲れたように笑った。そこは私も同意しましょう。騎士長に遠回りという選択はありません。
「こんなところで宗教問題になるとは思っていなかったけれど、私はオネットの鍛錬を、通力の扱い方を教わりたいと思う。私には必要な力だから」
そう言いきり、トオルはリーリエに頭を下げました。
「だから、リーリエがこの話を受けなかったとしても、受けたいと思う。ダメかな?」
「トオルの行動にとやかく言うつもりはないよ。でも、私がどうするかは考えさせてくれ」
「わかった。ありがとう」
保留という考えだったが、リーリエはきちんと意見を言いました。
よって、私に視線が集まります。私はどうしようか、とは思いませんでした。何故なら、この問題についての答えは既に決まっていたからです。
「考えは決まっています。私は神様を信じていますが、力は欲しい。なので、答えは一つです。騎士長に教えを請いたいと思います」
「お師匠は何も神様を信じるな、とは言ってないからね。通力を知ったら加護がなくなるわけでもないだろうし、それでいいんじゃない?」
シャリオの言葉にほっとする。自分でもそう考えてはいたが、誰かに肯定されるだけで安心感が違う。
「今の話を聞いて、リーリエはまだ悩むわけ?」
「シャリオ、私は通力を教わるか否かで悩んでいるわけではないよ。自分の視野の狭さに愕然となっただけさ。質問に質問で返して申し訳ないけど、君は神様を信じるか、なんて考えをしたことがあったのかい?」
「なかったわね。セネカもそうよね?」
「はい」
「そうだよね」
リーリエはそう言ったきり黙ってしまいました。それを良く思わなかったのか、シャリオはリーリエの前に立ち、こう言いました。
「煮え切らない奴ね、それでどうするのよ?」
「だから、言っただろう。話を受けるか否かで悩んでいるわけじゃないと。だが、その問題について言葉にできないんだ。少し待ってくれ」
「そうだよ、シャリオ。悩み事には時間が必要なんだ。せっかく時間があるんだし、全員考えてみようよ。そして、夕食後に集まろう」
「名案ですね。お昼もまだですし」
私がトオルに同意すると、シャリオも頷いてくれました。
短めですが、急用ができたので更新します。
3部ですが、癖が抜けきっていなかったのか、地の文がシャリオの口調ではないので、全部修正します。
明日には修正しますが、仕事からの帰宅時間とその作業の進捗次第で、57話は明後日更新になってしまうかもしれません。ご迷惑をおかけします。