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55話-神様を信じるか?

 私たちは騎士長の突然の言葉に唖然となりました。

 神様を信じるか?

 よもや、ネメスでそのような言葉を口にする人がいるとは考えもしなかったのです。

 加護を授かった者なら、神の存在を認めなくてはならない。仮に授かっていなかったとしても、ネメス神は確かに存在していて、そのお姿を下々の者にお見せになっている。

 

「誰も襲ってこなかったな。剣を回収した意味がなかった」


 そう言って、騎士長は笑った。確かに、誰でもというわけではないが、問答無用で切りかかる人もいるだろう。神官の前なら、騎士長だろうと異端審問にかけられているはずです。


「まあ、合格だ。今の質問はお前たちの反応を見たかったから、言った。ここからは内緒話だ。会議室に行くぞ」


 騎士長に連れられ、私たちは会議室に入りました。各々木製の長机にある椅子に座り、騎士長の言葉を待ちます。


「これからの話は、お前たちがネメスを担う人材になるから伝える、ということを念頭に置いてほしい」

「考えなしの発言じゃなかったんですね」

「当たり前だ。小生意気な事を言ったんだ、トオル。神様を信じるか、お前はこの言葉をどう解釈した?」


 トオルは口を閉じ、しばし黙り込みました。どう答えるべきか迷っているようでしたが、ゆっくりと口を開きます。


「神様が存在するか、ではなく、神様のことを信用するか、信頼するかということかな?」

「ああ、私が言いたかったのはそういうことだ」


 騎士長は私とリーリエを見て、こう言いました。


「お前たちはそう思わなかっただろう?」


 まさにその通りです。私が頷く前に、リーリエが頷きました。


「トオルとシャリオが異常なだけだ。お前たちはネメスでは正常と言っていい。ネメス神を信用するのは当然のことだからな」

「オネット騎士長はどちらなのですか?」


 リーリエが訊くと、騎士長はどっちだと思う、と彼女に訊き返しました。


「いやいや、真剣に悩まないでくれ。私は信用していないほうだ。残念ながらな。まあ、それが正しいか悪いか、という話をしたいんじゃないんだ。ただ、神様が絶対に正しい、という考えは捨てろ」


 騎士長はこれまでにないほど、強くそう言いました。命令口調で、何故かも説明されていないことだが、有無を言わさぬ圧がありました。


「私がお前たちに最も伝えたいことは、剣ではなく、その思考だ。洗脳ではないか、と思うだろう。安心してくれ、これはあくまで私の考えを言うだけだ。否定してくれても構わない。いや、脅しや冗談ではなく」


 冗談めいて言うが、全く笑えない。騎士長の爆弾発言に皆、唖然となるばかりです。


「全員、ネメスの外に出たことってないよな?」


 騎士長の言葉に全員が頷きます。


「実はネメスの外に出れるのは、紋章を持った12人の商人と、大神官、そして彼女らを護衛する騎士たちだけだ。あとは彼女らに付く使用人や従僕だな」

「それは他国が危険だからでは?」

「そうは言うが、セネカの眼で見たことではないだろ?」


 確かにその通りでした。私はジュ―ブルとの国境沿いに住んでいながら、他国を見たことがなかったのです。


「このように、この国には知られていないことがたくさんあるんだ。これから教えることもその一つだ」


 騎士長は服のポケットから鉛筆を取り出しました。そのまま鉛筆を持った腕を目一杯上に伸ばして、机に振り下ろします。

 それを見て、騎士長の頭が可笑しくなってしまったのか、と私は思いました。何を表現したいのか全くわかりません。これだけの勢いでぶつければ、鉛筆が折れるなど、当然のことで――。

 が、現実は私の思い描いていた光景とは違うものでした。鉛筆が、机を貫いたのです。


「最初に言っておくべきだったが、種も仕掛けもないぜ。もちろん加護でもない」


 騎士長は唇を吊り上げてこう言いました。


「これが世界の真実だ。加護の大本、通力さ。これはだ――」

「もしかして、男でも使えるって言うんじゃないですよね?」


 トオルは騎士長の言葉を遮って、質問というよりかは確かめるように、そう訊きます。


「ご名答だ。通力自体は男にも女にもある。それが加護として発展しないだけだ。だから、神旗は使えないし、男女の差は覆らない」

「それでも、男の脅威になるから黙っていた」 

「トオル。真っ先にそう思えるのは、異常なんだぜ? このネメスでは」


 騎士長はそう言って笑いましたが、彼女の指摘は正しいものでした。通力という存在を知って、私はその事実に驚いているだけでした。加護は加護である、と考えていた私には元の力があり、それが応用できることに驚きました。

 加護の元になる力が、男性にもあるなど、考えもしなかったのです。そして、何故通力が隠されていたかなど、考えもしなかったのです。


「今日はこれまでだ。気づいたろ? ネメスの人の多くは、盲目に神を信じ、世界を見ていないことに。もう一度言おう。私は神様を信じていない。そんな奴に教わろうと思える奴は、明日の朝ここに来てくれ」


 そう言い残し、騎士長は会議室から出て行きました。

1/12日-キャラクターの名前が間違っていたので修正しました。

2/23-語尾の修正。

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