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54話-悪知恵

 トオルの交友関係の広さについては謎が深まるばかりです。

 私もリーリエも、彼女とは数ヶ月の関係でしかないので、昔のことをよく知りません。平民で、戦いに向いた加護を持っていないこと。しかし、神旗を所有していること。バイル学園には、中等部の3年次に編入してきた。それぐらいです。性格以外はそれぐらいしか知らないのです。

 トオルの過去を私は全くと言っていいほど知らなかったのでした。リーリエも噂程度しか知らないので、そうなのですが。

 

「頭が固いというのはこういうことなのでしょうか」


 私は独りぼやく。バイル学園でも学友と呼べる存在はいませんでした。なので、必要最低限の会話しか他人とは交わしてこなかったのです。

 そのせいか、独り言の癖がついたのでした。トオルたちと出会うまで、自分とばかり会話していました。

 子供のころから、剣の追及。ローウェル家の再興のことだけを考えていました。それについて、誰とも語りあわなかった。

 実のところ、資産を使って、返り咲くこともできなくはないのです。代々残された資産は膨大なものでした。が、それをしてしまえば、今度こそ終わりです。ネメスを守り続けてきたローウェルの名が泣く。

 だからこそ、強くならねばならない。ネメスで誰よりも。


「でも、それだけでは騎士長にはなれない」


 私が新たに知った壁ででした。

 今まで、ローウェルの屋敷に帰ってきても、騎士長と会わないようにしていました。他の騎士と同じく、彼女は私に親切でした。

 それが辛かった。

 私はそれを伝えることなく、距離を作って逃げていたのです。

 が、その行為は夢を遠ざけることだったようです。頭ではわかっていても、納得できなかったのが事実でした。

 トオルがそれを変えようと思わせてくれた。そして、その結果知ったのはさらなる差だった。

 騎士長は他の騎士たちを束ねる力が必要なのだと見せつけられたのでした。

 私には全くない才覚です。人を怒らせることはできますが、鼓舞したり、励ましたりすることはできません。

 夢を叶えるためには、剣と並行して、そんなことも培わなければならないのでした。


「私は今まで何をしていたんでしょう」

「セネカ、そろそろ降りないか?」


 トオルの声が扉越しに聞こえてきます。

 くよくよしていると、いつの間にか朝食の時間でした。

 反省まみれのまま、私は一日を始めます。

 外に出ると、いたのはトオルだけでした。


「リーリエは?」

「先に降りて場所を取ってくれてる。本当は私がしようとしたんだけど、自分がやるって聞かなくてね」

「何でですかね?」

「わからないよ、私には」


 苦笑いするトオルの顔は嘘を言っているように見えませんでした。

 何故かまだわかっていないらしい。

 リーリエの判断で、朝ぐらいは静かに食べられるかな、と思っていましたが、そういうわけにもいかないようです。

 食堂にはリーリエと共にシャリオもいました。


「おはよう」


 とシャリオが言ったので、私とトオルも返します。

 今日は私がトオルの隣に座り、向かいの席にリーリエとシャリオが座りました。

 そのせいか険悪という雰囲気もなく、黙々と食事を終え、一息ついているとリーリエが言いました。


「そういえば、シャリオは長期休暇の間だけ、ここにいるのか?」


 騎士長の弟子と名乗っていたので、私もどうなのか気になっていました。


「ネメス学園は辞めたわ」

「辞めた?」


 トオルが大きな声を出しました。彼女が声を荒げるのは珍しいので、私とリーリエはシャリオの発言よりも、トオルの反応に驚きました。

 学生の途中から騎士になる、というのは良い話なので、何故そんな反応をするのかわからなかったのもあります。


「ええ、学生ではないわ。一応、準騎士よ。だから、ずっとここにいるの」

「まさか」

「トオル、そんな顔しないでよ。でも、概ね貴方の懸念通りと思うわ。私のけじめ、という言葉を付け加えたらね」


 またよくわからない会話を二人が始めたので、リーリエと私は置いてきぼりです。

 わかるのは、トオルがシャリオのことを案じているということぐらいでした。


「昨日、このことも言おうと思ってたんだけど、トオルと話すのが楽しくって忘れてたわ」


 歯を見せ、ごめんね、とシャリオは謝りました。


「じゃあ、今晩も行くよ。まだ話を聞く必要があるみたいだし」

「やった。私の作戦勝ちね」

「作戦ですか?」


 私が訊くと、シャリオはにんまり笑って、リーリエの方を見ました。


「トオルがこうすれば来てくれるってわかってたから、情報を小出しにしようかなって思ってたの。まあ、実際は本当に話に夢中になっちゃったんだけど」

「悪知恵が働く奴だ」


 リーリエが呆れるように言うと、シャリオはより笑みを深めました。


「褒め言葉として受け取っておくわ」


 シャリオはそう言って、席を立ちました。そう、まだ朝なのです。鍛錬の始まりでした。

 私たちは一列になって、木剣を携え立っていました。そこに男性用の礼服を着た騎士長がやってきます。

 昨日の寝間着といいよくわからない格好ばかりする人です。


「張りきっているところ申し訳ないが、今日は座学の時間だ」


 そう言って、騎士長は私たちから木剣を回収しました。それを後ろに捨て、私たちにこう囁きます。


「お前たちは神様を信じるか?」


1/12日-キャラクターの名前が間違っていたので修正しました。

2/23-語尾の修正。

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