32話
モデムの不調で更新が遅れました。15日の分は、15日の分として夜にあげます。
「ありがとう、とても心地よく、新鮮な気分だ」
伸びをしながら、フィオーレはそう言った。マッサージを気に入っていただけたようで何よりである。
2人はそのまま部屋を出た。
「本当にリーリエが羨ましいものだ」
「フィオーレ様は従者をお持ちではないのですか?」
「いることにはいるんだが、アイツは繊細な作業に全く向いていなくてな」
「フィオーレ姉様、終わったんですね。どうでしたか?」
ボードゲームをしていたはずのリーリエが廊下から近づいてくる。
トオルはジョゼットがいないので焦ったが、よく見るとジョゼットもリーリエについてきていた。
「とてもよかったよ。体も暖かくなるし」
「ですよね」
「それで、ボードゲームはどうなった?」
「リーリエの勝ちでしたよ。この子ったらまた賢くなってます」
「ジョゼットに勝ったのか。大したものだ。私じゃ手も足も出ないな」
「一勝負だけなので、偶然ということもありますから」
3姉妹は雑談しながら、リーリエの部屋へと入っていった。
付いていくべきか、放置しておくべきか、とトオルが迷っていると、後ろからクロが声をかけた。
「恒例行事をするから私たちはいなくていいそうです。小一時間したらお茶とお菓子を、とリーリエ様が」
「わかった。今の間に屋敷の清掃を進めよう」
「はい」
掃除を始めて、小一時間が経過したので、トオルはリーリエに言われた通りお茶の用意を持って、彼女の部屋を訪れた。
ノックすると、くぐもった声がし、次にフィオーレの入ってくれ、という笑い声交じりの言葉が聞こえてきた。
戸惑いながらも扉を開ける。
トオルは扉を閉めることも忘れ、硬直した。リーリエと、彼女を後ろから羽交い締めしたフィオーレに、リーリエの拘束を手助けするジョゼットがいた。2人はリーリエの服を脱がせようとしていた。リーリエのボトムはまだ無事だが、トップスはひん剝かれている。
この状況から導き出されるものは色々あるが、次の行動は一択だった。
「失礼しました」
トオルが扉を閉めようとすると、フィオーレが入ってこい、と言った。
リーリエにどうすべきか窺うが、彼女は青に近い青紫の瞳を濡らして見返すだけだ。口はジョゼットに塞がれている。
トオルは結局中に入ることにした。すると、リーリエが慌て始め、それを見て、フィオーレは手を打った。
「終わりにしようと思っていたが、せっかくだから見てもらおう」
「み、みないでくれ」
フィオーレの拘束が解けたリーリエは、ベットのシーツを引っ張り身体を隠した。却ってそうした方が、そそられるのだが、トオルは平静さを装って尋ねる。
「何をしてるんですか?」
「衣装合わせだ。リーリエに似合う服を買っておいてな。持ってきていたんだ」
珍しくいつもはトオルに反応を示さないジョゼットも大きく首を縦に振る。
どうやら、リーリエは着せ替え人形らしい。
「さっきまでは大人しかったんだが、トオルの足音が聞こえてから抵抗されてな。お姉ちゃんは悲しいぞ」
フィオーレはそう言って泣真似をして見せたが、リーリエのフォローは入らない。よほどトオルに見られるのが嫌だったらしい。
「私もリーリエ様の素敵な姿見てみたいです」
トオルはほくそ笑むのを何とか抑えて、満面の笑みを模って言う。今日だけはフィオーレとジョゼットの味方だった。リーリエの可愛らしい姿を見たい、という願望が3人の中で見事に合致している。
「トオルがそう言うなら、仕方ない」
そう言って、リーリエはボトムも脱ぎ、ジョゼットに手伝ってもらって黒のドレスを着た。
全体的に華やかなフリルが使われているドレスで、可愛らしい品だった。スカート部に透けたジョーゼット生地が一部使われていて、黒という色もあり妖艶さも併せ持っている。それも着ているのがリーリエだからかもしれない。彼女はフリルを使ったものを着ていても、可愛いより凛々しさが勝る。恥ずかしさに頬を染め、目を逸らしていてもだ。
リーリエという少女は、落ち着いてはいるが、印象としては爛々としてる。美しい月明かりのような静謐と、王様のような力強さを持っていた。
一方、フィオーレは達観している、といっていいだろう。彼女とリーリエの容姿の差は細さの違いぐらいだが、纏っている雰囲気は違った。表情はリーリエと同じく多彩であるが、計算しつくされたものである、とトオルは推測してた。なので、霜のような冷たい印象を感じるのだろう。
他に気づいた差異は、フィオーレの瞳の色はリーリエと同じ青紫色だが、目元はジョゼットに似てる。彼女らは目尻が上向いている。リーリエの瞳の方がまん丸だった。
2人の比較ばかりになるのは、ジョゼットが似ていないからだ。
彼女は背が低く、胸は平均的で、ストレートショートの桃色の髪に黒い目と、容姿だけで見るなら2人とは全く違う。
血が繋がっていない、ということはないだろうが、とトオルが邪推しているとフィオーレから声をかけられた。
「トオル、これをジョゼットに」
フィオーレから渡されたのは、リーリエが着ている服の白いものだった。サイズはジョゼット用に仕立てられている。
着せ替え人形はリーリエだけでなく、ジョゼットもそうらしい。
トオルがジョゼットにドレスを渡すと、彼女は嫌な素振りを見せず着替えた。喜んでいるようにも見える。フィオーレの見立ては確かで、ジョゼットが着ると天使のようなかわいらしさだった。
この後も、夕食の時間までリーリエとジョゼットは沢山着替えさせられた。無駄に豪華な、と思った馬車の荷台は服を収容するためにあったらしい。