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148話-開戦再び

 夏から秋へと移ろいつつある季節だったので、空は高く雲が綺麗に散っていた。

 既に戦いが始まって二時間が経過しているが、リルが陣取っている中央の櫓には悪い報告が一つも入っていなかった。作戦通り、敵からの攻撃を三百六十度往なしている。

 リルとジュ―ブルの要職である六柱を中心に守りを固めていた。ジュ―ブルの神旗を四機、東西南北に配置し、中央にリルの他、バネッサとステラがいる。バネッサが錬金術の装置の損傷具合や修繕または交換作業などを管理し、ステラはクロとニクルから報告される各所の戦況をまとめ記録する。リルは総合的な指揮を取っていて、万が一どこかで守りが崩れた時、彼女が救援に向かうことになっている。

 ジュ―ブルとネメスの兵力差を考えると、ネメスが圧倒的に上回っており、約四倍の兵でジュ―ブルを攻め落そうとしていた。

 そのことは初めからわかっていたので、ジュ―ブルは向こうが兵を再編するのに必要な三カ月を使い切って守りを築いた。

 報告によると、ネメスの兵は敵兵に男が混じっていることに動揺していた。ネメスでは、加護の源である通力、錬金術の存在は一部の人間しか知らず、加護と神旗以外の強力な武器があると想定していなかったらしい。再編際、かき集めた新兵がそれなりの数だということも。

 そのおかげか、現時点ではあるがジュ―ブル側の味方の損傷はかなり軽微だった。


「大丈夫でしょうか」


 リルがため息まじりに言うと、ステラが地図から目を離さないでこう言った。


「平気ですよ。あの方は」

「そうですよね」


 リルは指揮に集中できていなかった。それは、戦況に余裕があったからでも、体調不良でもない。 どうしたって、愛する者の行く末が気になってしまうだけだ。

 それでも、根が真面目なリルは仕事をミスなくこなす。が、トオルが立ち向かわなければならない脅威と唯一対峙した彼女だから、完全に集中することはできなかった。


「トオルってそんなに強いんだ?」


 バネッサは目を丸くしていた。


「そうですよ。バネッサがトオル様の戦う姿を見ていないですし、知らないので気持ちがわかりますが」


 肘で地図を抑えながらもペンを握っていない手で、ステラは笑う口元を隠した。


「ですが、トオル様が戦う相手も同等の強さを持っています」

「同等? 同様じゃなくて?」

「私は武芸に秀でていないので、トオル様の技量を正確には測れません。ですが、相手と何度も引き分けていることは知っています。寝食を共にし、切磋琢磨し合った相手ですから」


 ステラは手を止め、目を伏せた。手で隠れた唇を噛んで、痛みを与えてからフラットな表情に戻して仕事を再開した。




 トオルとウィルは互いのターゲットを引きつけ、戦場を隔てて東と西に別れた。これで片方が負けても二対一になる時間を減らすためである。彼らがターゲットに敗北し倒れれば、ジュ―ブルに勝ちはなくなるからだ。

 つまるところ、リルたちジュ―ブル側の仕事は、彼らの戦いが終わるまで国を守り抜くことだった。


「また貴方ですか」


 リーリエの声は親し気なものだった。

 二度目の対峙となる敵に向かってこんな風なのが彼女らしい、とトオルは兜の中で唇を吊り上げる。そして、声もなく剣を構えた。

 トオルはバネッサのレクチャーを受けながら、神旗の装備を予め用意しておいた。神旗の力で作られているものだが、錬金術の用な物の考え方で編み出されている。それだけで、ただ剣をイメージするより、強い剣が出来ていた。

 彼が纏うどこか機械風の白銀の鎧と黒い兜は変わっていないので、見た目では違いがわからなくなっている。

 まず動いたのはトオルだった。リーリエは難なく中段で受け、返す刀で横に振るう。

 無駄がなく、速く、そして重い剣。やはり、動きは衰えていなかったか、とトオルは思った。

 前回の戦いでステラに一撃を入れた後、すぐに意識を失ったトオルだったが、リーリエが生きていることはネメスから情報を盗むまでもなくわかっていた。

 再戦まで三カ月という時期を置いたのは、兵の再編もあるが、リーリエの治療目的でもあったらしい。

 急所に入ったわけではない一撃だったのと、ネメスの領地で戦ったことから、治療が間に合っているだろうと目覚めたトオルにも推測は立てられた。が、体を使っていたリリフィーがトドメをさしたかもしれない。

 トオルは一度そう考え不安になったが、一晩置くとあり得ない、と答えを出した。

 なぜなら、リリフィーはトオルの目を通して世界を見てきた親友なのだ。そして、嫉妬などとは無縁だがさっぱりとしすぎていたことも知っている。

 大事な者をわざわざ破壊するようなことはしない、とトオルは断言できたのだ。

 親友への思いで力がこもる。焦りではない無駄な力みでもない柔軟なエネルギーを実感しながら、トオルはリーリエと切り結ぶのだった。


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