144話-プレゼント作戦
翌日、トオルたちは大通りを散策していた。魔石の準備に数時間かかるということで、暇つぶしに町をぶらつくことにしたのだ。
クロとニクル、そしてアルーシェと共に露店を回る。もちろん、アルーシェは以前トオルたちと出会った時のように、髪色を金髪にし変装していた。
「何を探しているの?」
アルーシェに尋ねられ、トオルは答えるか迷ったが、言うことにした。
「一番はステラへのプレゼントです。みんなにも買いますけど、彼女が最優先ですね。ちょっと怒らせちゃって」
「へえ、あのステラが」
アルーシェも驚くという事が、失敗の大きさを示しているようでトオルの胸を締め付けた。
「残念だけど、私はそういうのは不得意だわ。だって、この国で対等な人付き合いができたのはバネッサだけだもの。ステラとはそれなりに長い付き合いだけど、彼女の趣味や好みも知らないしね。トオルのことを大切に思っているぐらい」
「そうですね。ステラさんは仕事のイメージが強いです」
「私もです。お姉さまといることが幸せって方ですものね」
クロとニクルもお手上げのようだった。
トオルも彼女らと大差ない。ステラとはキスによる魅了から始まった関係だ。スラムで不断の努力を重ね成り上がったステラには仕事以外、趣味という趣味はなく、そこにトオルが割って入ったのだ。
今まで、ステラはトオルの事を第一に行動してくれていた。トオルがそれに感謝するだけで、彼女は喜んだ。
それは、作り物の捻じ曲げられた感情とはいえ、愛としか言いようがない、とトオルは考えていた。その愛に報いたかった。キスをした相手の中で誰が一番というようなことは決められないが、真っ先に思い浮かべるのはステラだった。
「やっぱり止めておきます。お土産は食料品にして、きっちり話し合うことにします。プレゼントで済まそうというのが間違っていました」
「素敵な考え方ね。トオルのご両親は優れた方だわ」
リーリエの屋敷から出された件で、既にトオルが貧民層の出であることを知っているクロとニクルは心配そうな顔をした。
トオルは彼女らの頭を撫でてから、アルーシェの方を見た。
「ボクは孤児です。貧民が住まう地区に捨てられていました」
「そうだったの。なら、トオルがここに生まれていればよかったのにね」
「どうしてです?」
「ネメスでは両性具有の子供は迫害の対象だったのでしょう? ここでは祝福される存在だから、王の保護を受けられたわ」
「何故、ボクが両性具有だってことを知っているんですか?」
「神なのだから、そうなのでしょう? 神は両性具有とわかっていたから、新たな神を発見するために、フォルドア様が丁重に王の前に連れてくるよう、と命じたらしいわ。私も両性具有の子供が神様だとは今朝知らされたのだけど」
「へえ、そんな命令が昔からあったんですね」
「ジュ―ブルでもあるわよ」
「そうなんですね。でも、いいんです。ネメスで生まれたから今があるのですから」
トオルはそう言って、クロとニクルを見た。
彼女たちは目を丸くし、トオルの方を凝視していた。
「神様?」
二人して同じタイミングでそう言った。
トオルはようやく自分が神様になってしまったことを話していないことに気づいたのだった。




