130話-楽園の昔話-承
僕ら神様には睡眠は必要ない。もちろん、食事も。
だが、空中都市にいる間は、人と同じように食事を取ることにしていた。
四人分の食事を担当するのはアスクだ。前までは当番制だったんだけど、いつの間にか彼女がするようになっていた。
「おま、たせ」
と二つに区切るようにアスクが言って、色とりどりの料理が運んできた。
視覚と嗅覚から訴えてくる。食欲などないはずの僕にもだ。
それは他の神様たちも同じらしく、この時だけは誰もが笑っている。
五角形の机に、僕、ネメス、アスク、フォルドア、ジュ―ブルという順番で座った。
「やあ、フォルドア。今日も寝てたのかい?」
「ああ。睡眠って奴はいいものだ。意味がなくとも没頭できる」
「初めは何を言うてるんやって思うてたけど、今の眠りと前の眠りとでは話が違うって気づいてからは納得や」
ジュ―ブルにフォルドアは鼻息で笑った。僕らの中で一番体が大きいので、こうした仕草が様になる。
「意思のある眠りと、意思のない眠りは全く別だ。まあ、リリフィーみたいに寝ない奴もいるわけだが」
「それはリリフィーが節操なしやからや」
「僕がかい?」
ご飯を口に運ぶ途中で止め、僕は訊いた。
「当たり前やろ。ここの四人を全員手籠めにしてるんやから」
ジュ―ブルが笑い声と共にそう言うと、ネメスとアスクは顔を真っ赤にし、フォルドアは固まった。可愛らしい反応だな、と思ったと同時に、これが節操なしだからか、とも思った。
「て、て、手籠めって何よ」
「ネメス、今更やで。あんたの声よう響いとる。一番大きいわ」
ネメスが顔を強張らせたのと同時に、アスクが彼女を手で制した。
「ご飯中は、喧嘩駄目」
「そうだったね。ごめん、アスク」
いえいえ、とアスクは桃色の髪を跳ねさせて首を横に振った。
この中でジュ―ブルに次いで体が小さい。それでいて、一番胸が大きい。あれで意図的に作ったのではないから驚きだ。
僕らは基本的に初めの体で行動している。いくらでも姿かたちを変えることはできるけど、この体を手に入れてからは、この容姿こそ僕だ、という感慨がある。
神様には不要なものだが、僕らは不要なものを獲得するためにここにいるのだ。
「節操なしか」
僕がそう呟くと眠っていたフォルドアが転がって近づいてきた。最後の回転でm、ちょうど僕の尻に彼女の長い紫色の髪が落ちる。
「まあ、人として考えるならそうなるのだろうな」
ジュ―ブルは他人事のように言って、僕の胸を揉みしだいた。
「やはりいいな、お前の乳は柔らかい。手より少し大きい所も最高だ」
「何言ってるの。フォルドアのとサイズ変わらないじゃないか」
お返しに僕も揉んでやると、フォルドアは甘い声を出した。
普段凛々しい癖に、こういう時だけそんな顔をするのだから卑怯である。
四人の中で一番、普段とベッドでの性格が違うのは彼女だった。
「そうは言っても柔らかさや触れた感覚というのは違うものだ。それに自分のものより相手のものに触れている方がいい」
「一理あるね」
「そうだろう?」
ジュ―ブルは笑ったまま、軽く僕の唇にキスをした。
「安心しろ。お前がいるから私たちが集まれたんだ。そして、まだここにいる。誰も離れていない」
「そうだね。ここは僕が望んで作った場所だ」
「あたしはみんな好きだ。お前も、ジュ―ブルもアスクもネメスも。それはきっと、みんなそう思っている」
「ありがとう」
僕は心の底からそう言った。一点の迷いもなく、フォルドアの言う通りだと思った。




