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13話

 仲間が探しに行っているとクロとニクルを宥め、無事にサシューの屋敷に彼女らを送り届けたトオルは、ランクラーにとんぼ返りすることとなった。

 人騎で空を駆け、トオルがクロたちの家の周辺に戻ってくると、既にその周辺も襲われていた。

 流石に空を飛んでいれば襲われることもなく、無事にランクラーとラッドの境に到着した。

 そのまま着地するが、青い布を巻き付けたままなので、ラッドの住民には襲われない。彼らは暴虐の果てに無抵抗になった女を気ままに犯していた。隙だらけだが、今は彼女らを解放している暇はない。

 リーリエに至る手がかりもなければ、弟の姿も知らないトオルは闇雲に街を駆けるしかなかった。

 といっても、クロたちを送っている間、何の手立ても考えていなかったわけではない。

 リーリエは良くも悪くも目立つ。布で隠したって目立つ。青い布も無駄になるだろう。彼女のように綺麗な女なら、記憶に残るはずだ。しかし、住民に覚えがないとなると、仲間でないと思われる。それ以前に、美しい存在を前に敵味方の区別などつけず襲い掛かりそうである。そしてラッドに攫われたか暴行された少年を探すという目的上、厄介な場所も探さなくてはならない。なので、必ず戦闘になっているはずなのだが――。


「誰か来てくれ、とんだ暴れ馬がいやがる」

 

 トオルは慌てて、応援を呼ぶ男についていく。トオルの他に十人ほど集まっていた。あぶれたか、奪った玩具に飽きた奴らだろう。

 できるだけ低い声でトオルは言う。


「何があった?」

「いきなり、荷台を破壊して商品を担いでいった野郎がいるんだよ」

「ということは女か」


 警備されているはずの荷台を破壊するなんて芸当ができるのは加護を持つ女だけだ。


「ああ、剣だけなんだが、滅茶苦茶強え。でも、一級品なんで傷つけずにいただきたいってわけだ」

「へえ、そんなにかい」

「そうだぜ。女神の生まれ変わりかもな」


 ガハハ、と汚い笑い声をあげる男に倣ってトオルも笑う。どうやら当たりらしい。


「安心しろ。手伝ってくれりゃあスラムを抜けるのも夢じゃねえ商品だ。報酬はもちろん、そいつで遊ぶのも自由さ」

「こんな肥溜めとっと出たいな」

「ハハハ、子守歌を今聞くなんてな」


 スラムでは誰もが呪詛として紡ぐ言葉。それはいつしか、自分の胸から生じるようになる。でも、大人になるにつれ周囲に喚き散らすようなことはしなくなる。そんなことをしても疲れるだけだからだ。だから言わない。けれど、ふとした時に漏れているから、次世代へとスラムの子の子守唄として伝わってしまう。そういうものだった。ああ、くそったれ。

 トオルは男を嫌悪しない。同情もしない。自分も同等の汚さだし、彼らのチャンスを潰すことも理解している。そんなことで感傷に浸ることはもうできなくなっていた。

 

「待たせたな、つれてきたぜ」


 そこには案の定リーリエがいた。ニクルたちの弟らしき人物が彼女の足元に転がっていた。一人ならいつでも抜けれるが、あれを担いで逃げるのは難しいというところだろう。それでも、疲労は溜まっているようだったが、外傷はないようだった。


「そろそろ学べ。貴様らでは私を倒せないと」

「だろうな。だが、所詮は一人。全員で一斉に襲われればどうすることもできまい」


 トオルを連れてきた男が雄たけびを上げる。すると、リーリエがこれまで倒してきた男たちが立ち上がった。トオルたちも含め総勢で30人はいよう。どうやら、リーリエは加減していたらしい。それを見て、司令塔らしい男がこの作戦を考えたのだろう。

 できるだけ体力を温存しつつ、リーリエの足止めをし、司令塔が人数を集めたら一斉に襲うという作戦だったのだ。

 甘さが首を絞めたのだ。

 リーリエににじり寄りながらも、トオルは司令塔の男に近づく。が、その前にあることを察知して、彼女は後方に飛んだ。

 神の力が展開される。と同時に何かしらの攻撃が行われ、8割の男たちが地にたたきつけられた。

 まさか、男たちも神旗を温存しているとは考えていなかったようで、初撃から逃れた数人が逃げようとする。

 

「――」


 トオルは自己を変革させる音を発声した。彼女はそうすることで速さを手に入れる。人の数倍の移動速度で男たちの命を摘み取っていく。

 そう、トオルが手にしているキス以外の能力は加速だった。これもどういう原理かわからないが、周囲との流れている時間が変わるのだ。デメリットもあって、使う時間が長いほど躰が軋む。血が出るわけではないが、並の痛みではなかった。なので、使う時はどうしようもない時だ。今や、セネカとの対戦のような。

 加速を用いれば逃げるのは難しくない。なのに、殺す理由は単純。目撃者を生かすわけにはいかないからだ。

 ものの数秒であったが、神の力は30人はいた男たちを倒した。

 トオルは加速状態を解除して、苦悶の表情を隠すために手で口を覆い、リーリエに顔を見せる。


「大丈夫ですか?」 

「トオルなのか、クロとニクルは――」

「安心してください。無事に送り届けました」


 トオルはすぐに弟を担いで進み始めた。リーリエも遅れて後を追う。

 行きのようにトオルだけ人騎を使うことはできない。リーリエの神旗を見せてはゲームオーバーだ。神旗を見られれば、正体が露見してしまい目撃者を消さなければならない。しかし、そんなことを一々していられない。

 かといって一人だけ逃げるわけにもいかない。


「騎車が使える場所まで移動できれば」

「いや、待ってくれ。無理を承知で訊くが、トオルの神旗で移動はできないか?」

「できません。一人なら大丈夫でしょうけど、二人となると」

「大丈夫だ。弟の方に集中してくれればいい。私は神旗を限定展開してしがみつく」


 リスクはあるもののそれは悪くないアイデアだった。陸路を進むのも危険性は変わりないだろう。

 トオルも考えはしたが、どうしてもリーリエに負担があるため提案しにくい話だったので、自ら言ってくれたなら気兼ねすることもない。

 間近で人旗を見れば、神旗でないと気づくかもしれないが、トオルもこれは深く考えていなかった。柄にもなく、リーリエならばれても許してくれるだろう、と思ったのだ。

 

「じゃあ、展開しますよ」


 人騎をまとったトオルはまず弟を右腕で抱きかかえ、左手をリーリエとつないだ。

 元は資材運搬のために作られたモノが人騎だ。人間の体重では重量の問題はほとんどないので、移動スピードは変わらない。

 トオルは不安定な形でぶら下がっているリーリエを心配するも、風の影響を受けて揺られているにも関わらず彼女は、苦痛というより楽しそうな顔をしていた。トオルは人騎の力で軽減されているが、リーリエはそうではないはずだ。

 ほっそりとした体なのに、とトオルは頭をもだけながらも飛んだ。

 

  

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