129話-楽園の昔話-起
人々は空を見上げる。僕らの住まいを拝んでいる。
今日も世界は平和らしい。
「おはよう、リリフィ―」
「ジュ―ブル。何度も言っているけど、僕は寝ていないよ。今日も子らの世界を眺めていただけさ」
「そらそうやろうなあ。わっちらには睡眠が必要ないんやし」
ジュ―ブルは笑って着物という変わった形状の服をひらめかせて回った。
僕はその間に座っていた安楽椅子から離れる。
「それで神様、お外はどうやったん?」
「異常なしだよ。みんな幸せそうだった」
「それはええことや。けどな、家庭を蔑ろにしたらあかんやろ?」
「家庭?」
僕はジュ―ブルが何を言っているかわからなくて、彼女の言葉を繰り返した。神様に不特定多数の子はいても、パートナーはいない。
「ネメスのことや。膨れとったで」
頬を膨らませて怒る振りをジュ―ブルはしてみせたが、顔が笑っているので迫力がない。
なるほど、親切のお代として僕を焦らせたいらしい。
「そうだった。一緒に花を摘む約束をしていた」
「末っ子の癇癪は激しいからなあ。何とかしようとしたアスクが苦戦してたわ」
「フォルドアは?」
「寝とるんちゃう? それか飲んでるんやろ」
「いつも通りってことだな」
僕は肩を落しながらも喜んでいた。厄介だが、世界は僕の望む範囲で回っている。神様としてはこれ以上ない幸せだった。
「おーい、ネメスどこだー」
芝生に転がっていたアスクに尋ねても、ネメスの居場所はわからなかった。拗ねてどこかに逃亡してしまったらしい。
アスクはそれを宥めようとして、ネメスの怪力にやられたのだろう。僕らの中で一番力の強い神様だから仕方ない。
「全く、はしゃいで広く創りすぎたな」
僕は住まいは空に浮かんでいる。中央に居住区である宮殿があって、周りは広い芝生で囲われていた。
それが最初に設計したもので、住人が増えるたびに改修を行った結果、水車を作るために川を、世界中の花々を集めた庭園を、一つで様々な実の生る木を、と挙げればキリのないこの世界に存在できないものを創ってきた。
でも、神様の住まう都市なのだから、不可能なんてものはない。その制限のなさが、ただの芝生を都市に変えたのだが。
「リリフィーの馬鹿」
水車の方から声がしたので、気づかれないように近づく。
声の主はネメスだった。一番最後にここへ来た神様ということで、末っ子と言われているが、容姿は大人だった。
逆に一番古いジュ―ブルが外見では一番幼い。
最も、容姿などは仮初なので、年齢など推測できない。神様に年齢を聞くのが馬鹿馬鹿しい話だ。
ネメスは自分の髪を引っ張って、歯ぎしりしていた。
「ネメス、そんなことをしていたら痛いだろう?」
僕がそう言うと、ネメスは一瞬顔を輝かせたが、すぐそっぽを向いた。
本当に子供っぽい反応だ。
「謝るのが先だったね。約束の時間を守れなくてごめん」
「ふん。いっつもそうだもの。リリフィーは私より子供たちの方が好きなんでしょ」
断定調に言ったリリフィーだったが、あからさまに否定してくれ、と言っていた。
こういう所が幼さで可愛らしさだった。他の神様は些かユニークすぎる。
「そんなことないよ。僕はみんなが大好きだ。その重たさは変わらないよ」
ネメスは悲しような嬉しいような変化を見せてから、ニッと笑った。
「さあ、遊びましょう」
「そうだね。うんと遊ぼう」
ネメスに手を引かれ、僕は都市を駆ける。
明日も明後日もそうするのだろう、と思いながら頬を緩めて走るのだった。
次回は7/10の晩に更新します。




