88 三島順平とクラスメイト
新章です。
クラスメイトたちの視点に、しばらく移ります。
主人公は、お休みです。
青い空に、どこまでも続く平原。
生い茂る緑に、爽やかな風。
お弁当でも持ってピクニックに来ていたら、なんとも癒されそうな光景である。
そこに鮮血が広がった。
首を斬り落とされたゴブリンの頭が転がる。
「三島! そっちにニ体いったよ!」
「任せろ!」
斬り捨てたゴブリンには目もくれず、冴は走る。そこには各々武器を構えた醜悪なゴブリンが六体。
「はあ!」
列泊の気合いと共に鞘から抜き放たれたサーベルが、真一文字に六体のゴブリンを斬り裂いた。
しかし端のニ体は傷が浅い。痛みに憤怒したニ体のゴブリンは武器を振り上げ―――
「【ダークネスボム】!」
その身体が爆発した。
「サンキュー!」
魔法で援護してくれた仲間に向かって手を振る。
「一条、交代だ!」
「あいよ!」
再び現れるゴブリンたち。冴は納刀すると、<韋駄天>を発動させながらバックステップで後退する。
それと入れ替わるように、三島順平が前に出た。
「<聖光雷>!」
順平の持つロングソードが青白いスパークを起こす。
「<横一閃>!」
青い雷光を携えた剣は、横薙ぎの一閃と共にゴブリンたちを焼き払った。
「しっかし、アンタの<スキル>は何回見ても反則だね」
「またその話しか」
「だって仕方ないじゃないか。
アタシの<飛燕流剣術:風音>でもゴブリン四体を倒すのがやっとなのに、アンタは十体以上を丸焦がしだからね」
「俺は剣に<聖雷>の効果を上乗せしているし、一条は本来のスタイルじゃないから仕方ないだろ」
「まあ、そうなんだけどね」
言いながら冴は腰に下げたサーベルを指で弾いた。
冴の剣術は刀での使用を前提にしている。しかし長剣が主流のアークノギアにおいて、刀は入手が困難だった。初めから武器の性能に頼るのは良くないとのアーノルドの方針もあり、三島たちも一般の兵士たちが使う武器を支給されている。
冴には刀と最も形が似ているという理由で細身のサーベルが与えられたが、やはり居合術などは威力が半減してしまう。
対して順平のスキルは武器に付与することを前提としており、剣の形状を選ばない。扱う属性が<火>属性の上位である<雷>の更に上、<聖雷>であるから火力はダントツである。
「僕が思うに、一条さんは単騎での戦いを前提とした強さだね。三島くんはオールラウンダーだけど、どちらかと言うと乱戦向きかな」
二人の会話に割り込んで来たのは黒澤和樹だ。先ほど冴を援護する魔法を放ったクラスメイトである。
「それってアタシをフォローしてくれているのかい?」
「分かりにくかったかな?」
「強さの質が違うってことかね。確かに、そうかもしれないね」
「分かってくれて嬉しいよ。クックックッ」
三島が肩をすくめ、一条がやれやれと溜め息を吐いた。
黒澤は悪い人間ではない。
協調性もあるし頭も悪くない。委員長である木村知子が中心となってアークノギアのことを調べている図書館組の中でも、熱心に取り組んでくれている。
しかし明るい外でも全身を黒の全身ローブで身を隠し、表情すら伺い知れない。
加えて、あの笑い方。怪しさ爆発である。
アークノギアに召喚される前まで、こんな話し方はしていなかったはずだ。重度のアニメオタクという噂で、ダイチと同様にオタクのレッテルを貼られていた。しかしクラス行事には卒なく参加しているし、休み時間は一人で文庫本を読んでいる大人しい生徒だった。
順平は一度、ローブが暑くないのかと訊ねたことがある。
その質問の答えは「キャラ作りには我慢が必要なのさ」という意味不明なものだった。
おそらく異世界に召喚されて性格が豹変してしまったのではないかというのが順平の予想だった。そういうクラスメイトは彼だけではない。
なんとも不気味ではあるが、それで彼が精神的に安定するなら構わないだろう。そう思って順平は放置することにしていた。
異世界アークノギアに召喚された順平たちは魔力操作の訓練を終了し、野外演習に参加していた。
三人から四人でランダムにパーティーを組み、教官が同行するという形式だ。
演習の場所はブリトニア王国の周辺にあるラングリッサ平原。
モンスターはDとEランクが多い。ここでレベリングとスキルの実践を行っていた。
レベリングの効果もあり、彼らのレベルは全員20を越えている。インビジブルスキルも解放され、チートに拍車が掛かっている状況だ。
召喚されてから三ヶ月が経過し、異世界の暮らしにも慣れ始めていた。
しかし、それはそれで新たな火種を生んでいる。
「・・・なんだ、野営地が騒がしいな」
「彼らじゃないかな」
「またか」
黒澤の言葉に順平は溜め息をつくと、騒動になっている場所に足を向けた。冴と和樹も、その後を追う。
「なんなんだよ、さっきの攻撃は!?」
聞こえてきたのは天堂光輝の声だった。
やっぱりか、と順平は思う。
人だかりを謝りながら掻き分けて進むと、光輝を抑えている知子の姿があった。確か、今日は光輝と知子は同じパーティーだったはずだ。
「なんだよ、うるせーな」
「無事だったんだからイイだろ、別に」
「あんなモンスター、雑魚だしな」
「俺たちだけで十分だったよな」
相対しているのは赤井と青木の二人だった。
「この演習の目的はレベリングだけじゃないだろ。連携の強化やスキルの実践じゃないか!
それなのに二人だけでモンスターを狩るのはルール違反だろ!?」
「うっせーな」
「熱血くんは、これだからよぉ」
「この・・・!」
「ちょっと天堂くん! おさえて!
赤井くんと青木くんも、言い過ぎよ!」
委員長の言葉も彼らには届かないようだ。不貞腐れた態度を改めようとしない。付き添いの教官も慌てるばかりで対応できていない。
異世界人である赤井たちの実力は、既にブリトニア王国の兵士たちを圧倒的に上回っている。教官たちはあくまで、自分たちの経験不足を補うための要員に過ぎない。
「何してるんだ、お前たち」
順平は臆することなく赤井と光輝の間に割って入る。
「三島くん」
知子が安堵の声を漏らした。
「おいおいおい。聖剣の英雄様のお出ましだぜ」
「来たよ来たよ。リーダー気取りが」
あからさまな言葉に順平は眉を潜めるが、挑発だと分かっているので相手にしない。
「騒ぎを起こすなよ。俺たちの目的を忘れるな」
「だから、ちゃんと訓練してやってるだろーが」
「ちゃんと訓練していたら、天堂がこんなに怒ることは無いだろ。
天堂は融通が利かないところはあるけど、間違った理由で声を荒らげたりしない。そうじゃないか、委員長?」
「・・・二人が連携を無視してモンスターを狩っていたから、ほとんど訓練にならなかったわ」
「お前らはレベル30に近いだろうが。俺たちは未だ25なんだよ」
「俺たちのレベリングを優先するのが仲間だろうがよ」
「アーレス団長からはレベル25あれば十分と言われているはずだろ。それ以上は、この辺りのモンスターだとレベルが上がりにくくなる。
だから連携やスキルの使い道を中心に訓練するよう言われていたはずだ」
「ちっ。分かったようなこと言いやがって」
「三島。お前、あんまり調子に乗るなよ?」
「恋人の山本が居なくなって寂しいんだろうけどな」
この言葉に殺気立ったのは冴だが、順平が制した。
「聖剣の英雄だか何だか知らねーけど、俺たちだって強くなってるんだぜ」
「試してみるか?」
二人が構えを取る。
魔力が高まるのが気配で分かった。
赤井は長剣使い、青木は短剣使いだが中・長距離からの攻撃スキルを持っている。
「止めといた方が良いと思うな」
睨み合う三人の間に入ったのは、以外にも黒澤和樹だった。
「なんだぁ。オタク2号がシャシャリ出てくるんじゃねーよ」
「まあまあ、落ち着いて」
「うっせーよ! てめぇからブッ飛ばすぞ!?」
「怖いなぁ。でも、君たちが数の上でも不利なことは明らかだろう?」
和樹がチラリと視線を移した。
そこにはサーベルの柄に手を掛ける冴の姿があった。光輝や知子も二人を睨んでいる。
「それに、僕たちのチカラは危険だろ。できれば人殺しにはなりたくないよね」
そう言いながら、和樹も魔力を練り始めている。それに気圧されるように二人は一歩下がった。
「なに騒いでんだ、お前ら」
そこに、更なる乱入者が加わる。
身長は180cm近くある長身で、短く立った髪は茶色く脱色されていた。
『結城!』
二人が歓声に近い声を上げた。
彼―――結城琢磨は二人を守るように前に出てきた。
「こいつらが何かしたのか?」
「・・・自分たちのレベリングを優先して、訓練を台無しにした」
「ちっ」
琢磨は舌打ちすると、二人に向き直る。
「くだらねーことしてんじゃねーよ」
「でもよ、琢磨・・・」
「あ~、分かった分かった。すまねーな、三島」
結城琢磨が再び順平たちに向き直った。
「こいつらも必死なんだよ。なにせ、こんな世界だ。いつ、どこで、何があるか分からねぇ。
とりあえず出来る自衛手段はレベリングだろ?
今回は勘弁してやってくれよ」
「・・・分かった。
でも生き残ることを考えるなら、仲間同士で協力する方が良いと俺は思ってる」
「俺も同じ意見だよ。行くぞ、お前ら」
そう言うと、琢磨は二人の肩を抱いて帰っていった。
「お疲れさま」
「黒澤。助かったよ、ありがとう」
「いやいや、山本氏の代わりは荷が重いけれど、あれぐらいはね」
クックックッと笑う和樹。
挑発的な言動だったが、あれで赤井と青木に迷いが生じたのも事実だ。
「どうした、何の騒ぎだ?」
そこに軍団長のアーレスがやって来る。
「アーレスさん。ちょっとした行き違いですよ。何とかなりました」
「・・・行き違い、か。あまり無理はするなよ。と言っても難しいかもしれんがな」
アーレスの言葉に順平は苦笑する。
「全員が帰還したら引き上げるぞ。演習は終了だ」
「城に帰るんですね?」
「ああ。あと、城に帰ったら話がある」
「なんでしょうか?」
「頼まれていたことだ」
三島の顔が少し明るくなった。
「調べてくれたんですね」
「昔の冒険者仲間にな。調査を終えて帰ってきているらしいから、報告できるだろう」
「ありがとうございます」
「これぐらいは手間の内にも入らんさ」
それだけ言うと、アーレスは去っていった。
順平は少しだけ軽くなった気持ちを胸に、クラスメイトたちに召集をかけた。




