87 ロンダークとタツマキ
それは戦後処理の話し合いを終えた後に起こった。
「もういいか!?」
話し合いを終えて帰ろうとした魔公たちをタツマキが引き止めたのだ。
シュナイダーという魔公の肩がピクリと動いた。
「どうした、タツマキ。トイレか?」
「違う! 約束を忘れたのか!?」
「約束?」
「一昨日の夕食の後だよ!」
そういえば・・・
タツマキは俺がロンダークとジースを相手に戦ったことを、かなり怒っていた。
桜花とアクアからは小言を言われたが、二人は俺が無茶をしたことを心配していた。
だがタツマキは、俺が一番強い奴、つまりロンダークのところに真っ先に向かったことを怒っていたのだ。
しばらく食後のデザートを寄越せと豪語してきたので、ロンダークが来たときに対戦させてやると言ったんだった。
二日もすれば忘れていると思って、こっちが忘れてしまっていた。戦闘脳おそるべし。
「あいつと戦わせてくれるって言ったじゃないか!」
と、ロンダークを指差しながら叫ぶ。
ロンダークなら戦ってくれるだろうが、二人が怪我をするのはマズイ。チートポーションはあるが、ロンダークの攻撃は致死率が高いからな。
俺がロンダークに視線を向けると、彼は困った顔で言ってはいけない言葉を口にした。
「ダイチ様。誰ですか、この子どもは?」
アクアたち側近と族長たちが溜め息を吐いた。シュナイダーという魔公が小さく「ひっ!」と悲鳴を上げる。
俺はタツマキを制止しようとしたが、それよりもタツマキの方が早い。
<瞬動>でロンダークの懐に一瞬で潜り込むと、<旋風拳>を発動させながら言う。
「子どもって言うな。ボクはお前より年上だ」
タツマキの一撃が繰り出される。誰もがロンダークが吹き飛ばされる光景を予想したが、それは叶わなかった。
ロンダークはタツマキの一撃を片手で防いだのだ。
これには、さしものタツマキも目を丸くしていた。
「ひょっとして、貴殿がタツマキ殿か?」
「そ、そうだ」
「これは失礼した。先ほどの発言は取り消させていただく」
「お、おう」
タツマキが「どうしたら良い?」という視線を送ってくる。知らんがな。
「本当に申し訳ない。シュナイダーから貴殿の容姿については聞いていたが、信じていなかった。私のミスだ」
「そ、そうか」
「それで、私と手合わせがしたいと?」
「お、おう! そうだ! 戦ろう!」
タツマキ。
女の子がそんな言葉を使うものじゃないぞ。
「非礼を詫びるためにも貴殿の申し入れは受けたい。伝説の竜巻龍と手合わせできるなど、光栄だ」
これが大人の対応か。
さすがはロンダーク。
しかし、こんなところでドンパチされては困る。フォレストピアは建設中だし、せっかく建ててもらった屋敷を壊すわけにはいかない。
とはいえ、ここでタツマキを止めれば、そのとばっちりは俺に向かうだろう。
デザートは死守しなければならない。明日からはカーラに教えたケーキがデザートとして食後のテーブルに並ぶ予定なのだ。
Suggestion.
それでは【シミュレーション】を使用されては、どうでしょうか?
なるほど。
【シミュレーション】なら仮想空間だし、全力戦闘をしても誰も死なないし、何も壊さない。
さすがはチャーリー。
Answer.
恐縮です。
善は急げだ。
「【シミュレーション】!」
俺たちの視界が暗転。
さっきまで居た場所とは違う広い荒野が広がる。
「これは・・・?」
「ダイチ様?」
「俺の【オリジナルスペル】、【シミュレーション】だ。ここなら全力で手合わせできるぞ」
「イイじゃんイイじゃん! さすがはダイチ!」
「魂の一部を取り出して、【魔法】でつくった閉鎖空間に隔離、といったところかの?
また、なんともデタラメな」
ジースが魔法の解析をしている。
「ではタツマキ殿。お相手しよう」
「よし! いくぞ!」
タツマキは<旋風拳>と<瞬動>を発動させ、ロンダークに肉薄する。
それをロンダークは<次元装填腕>で迎え撃つ。
<瞬動>で攻撃を仕掛けるタツマキに対し、ロンダークは<瞬歩>や双剣への変化などで対抗していく。
やっぱりロンダークは強い。
ロンダークのA級スキル<瞬歩>は、言うなればスーパーダッシュだ。一瞬で相手との間合いを詰めるという点ではタツマキの<瞬動>と変わらないが、直線にしか効果がないというのがネックである。このため機動力という点においてはタツマキに軍配が上がる。
だがロンダークの武器である<無形>は状況に合わせた武器へと瞬時に形態を変えることができる。
防御の技術も高く、受けに回られるとクリーンヒットは望めない。そのくせ、こちらの隙は見逃さず、きっちり致命打となるような攻撃を放ってくるのだ。
俺もロンダークには接近戦で押し切られたからな。
二人の勝負は勉強になるし、どちらに軍配が上がるのか興味はある。
「ふぅむ。ロンダークと互角とは、あのお嬢ちゃんが竜巻龍というのは本当のようじゃな」
「ジースか。そういえば聞きたいことなあったんだ」
「なんでございますかな?」
俺は二人の戦いに目を向けながら、ジースに質問した。
「お前たちって、<魔王>とタメを張れるぐらいに強いんだよな?」
「いかにも」
「なら仮に<魔王>が復活しても、俺一人で何とかできるよな?」
「・・・どうでしょうな」
おや?
「ダイチ様の規格外なチカラは確かに凄まじいものがありますが、<魔王>が相手となりますと事情が変わりますな」
「どういうことだ?」
「例えばロンダークは魔公を従えるために<魔王>を名乗りましたが、本来はその資格はないのです」
「<魔王>になるのに資格が必要なのか?」
試験とか?
「正確には<邪神の加護>が必要となります」
「<邪神>・・・?」
またファンタジーな。
「<邪神>サタナエル。彼の者の加護を得ることで、<魔王>は誕生します」
「どんな加護なんだ?」
「主なものは<ステータス爆発的向上><魔力増強><無詠唱><闇魔法:極><ダメージ軽減1/10><魔軍創成>とされておりますな」
なんだ、そのチートな加護は。
「<魔王>はSクラス相当のチカラを持つ魔族が対象になるようですが、<邪神の加護>はそれを上回るチカラを与えます。
それだけならワシやロンダークでも対処できるでしょうが、<ダメージ軽減1/10>が厄介ですな」
なるほど。
確かに厄介だ。
「そんな奴、よく倒せてこれたな」
「それに対抗する<加護>を持つのが勇者ですからな」
「なんですと?」
「勇者とは、<希望の女神>アリエルから<祝福>を受けた者を指します。
その<祝福>の一つが<魔王>の<ダメージ軽減1/10>無効化と言われておりますな」
なんか引っ掛かる言い方だな。
「されているとか、言われているとか曖昧な表現だな」
「そういった<加護>や<祝福>がステータスで確認されておりませんからのぅ」
「ステータスで確認されない?」
「魔王に対しても勇者に対してもそうなのですが、鑑定系のスキルを用いても、それらしい<スキル>が見当たらないのですじゃ。
勇者の場合はステータスプレートでも表示されませんし、神々の<加護>や<祝福>はステータスに表記されないのではないかと言われておりますな」
ステータスに表示されないチートな<スキル>って、まさか・・・
まさか、レジェンド級スキル?
Answer.
はい。
サタナエルもアリエルもレジェンド級スキルで間違いありません。
すんなりネタバレすんなよ!
というか、レジェンド級スキルって、他にもあったんだね!
Answer.
レジェンド級スキルのいくつかは『神』などと呼ばれていますね。
まさかの爆弾発言!?
チャーリーさんは神様であられましたか!?
Answer.
私は<スキル>であって『神』ではありません。
あっさり否定されてしまった。
確かに神懸かったチカラだとは思うが、本人が否定するなら違うんだろう。
とはいえ、別のレジェンド級スキルか。
警戒ぐらいはしといた方が良いんだろうな。
第三章終了です。
ありがとうございました。




