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85 かかって来いよ理不尽

一挙に3話投稿です!(3)


俺は弱い。

それを思い知らされたのは、いや再認識させられたのはタツマキとの戦いが終わった後だった。


<神格化>の効果で、俺のレベルは20でありながら400相当。

しかも大量の強化系B級スキルを得ているお陰で、ステータスはかなり底上げされている。

これなら、最強に近い身体能力を持っているはず。俺TUEEEEE的な無双ができると思っていた。


俺がそのことに気が付いたのは、タツマキを<鑑定>した時だ。


タツマキのレベルは198。にもかかわらず、レベル400相当の俺が苦戦したのは、RPG的に不可思議だ。ステータスの差は、つまり純粋な“強さ”の差なのだから。いや、そう思い込んでいた。


実際にはステータス的に差があるはずのタツマキに辛勝だったわけで、俺が疑問を持つのは当たり前だろう。

結論から言うと、俺はステータスの数値について正しく認識していなかったのだ。



レベルが上がると身体能力が強化され、運動機能や体力が向上するのは確かである。

相手の<存在力>―――正確には<魂の一部>―――を吸収し、己のチカラと代えるという仕組みがこの世界にはある。それが<レベル>として表れるのだ。そして引き出すことのできる能力の<限界値>が<ステータス>として数値化される。


そう。

あくまで<限界値>であって、<通常値>ではない。

これを俺は<ステータス限界値>と呼称した。


そして身体能力には種族ごと・個体ごとに、通常引き出せる能力には限界がある。

考えてみれば、日常的に岩すら粉砕するような握力があってはコップすら握れない。

俺はこれを<基本的上限値>と呼称した。



人族はこの<基本的上限値>が他の種族、亜人種やもっと言えばモンスターよりも、かなり低い。


ならばレベルアップによるステータスの向上が無意味なのかと言うと、そうではない。

<基本的上限値>を<ステータス限界値>に近付ける方法、それが<スキル>や【魔法】による強化なのである。

大男の拳を優男が平然と受け止める、などということが現実的に可能なのは、<スキル>や【魔法】で身体機能が強化され、<ステータス限界値>で相手を上回るからだ。



では、俺はこの<ステータス限界値>を最大限に活用できているのか?


結論は、できていない、である。


もちろん<金剛>や<韋駄天>などの強化スキルを使用しているが、これらはあくまで基礎的な能力向上スキルだ。高い魔力で補ってはいるが、<ステータス限界値>の半分にも届いていないらしい。数値的にはタツマキよりも、やや上といったところだ。

王牙やハッシュベルトを倒してイイ気になっていたが、俺はダイチ・ヤマモトというスーパーロボットの力を半分も引き出せていなかったのである。


この世界に来て仲間が増えた。守らなければならない連中ができた。

そのチカラがあるのに、それを充全に発揮できないのは嫌だ。

目の前の理不尽に抗うことすらできず、大切なものを奪われるのは嫌だ。


強くありたい。目に映るもの全てを守れるくらいに。


その方法は二つ。

一つはレベルを上げ、強化系のスキルを取得すること。

だが俺が元から所持しているスキルは魔力を強化するものが多い。

つまり俺は魔術師タイプなのだ。身体強化系の上位スキルを獲得できる保証は無い。


ならばギルバートのようなAクラスの冒険者からコピーするのはどうかとも考えた。

しかし強化系の上位スキルの使用には最低レベルが設定されている。<金剛>の上位スキルに<大魔人>というスキルがあるらしいが、最低使用レベルは70らしい。一朝一夕で上がるレベルではない。



もう一つの方法が<派生スキル>の活用。

<派生スキル>とは、一つもしくは複数のスキルから新たに生まれるスキルのことである。


一例を上げると、<金剛>からは<剛腕>と<剛脚>が派生する。

俺の<閃光脚>は<閃光拳>からの派生スキルだが、<閃光拳>はそもそも<閃光>と<聖王拳>というスキルが合わさって派生したものだ。

タツマキの<瞬動>も<韋駄天><竜速><音速飛行>が合わさって派生したもらしい。


俺はスキルの数だけなら多い。

使いこなせていないスキルもたくさんある。

それらを合わせれば、俺の<ステータス限界値>近くまで能力を全開にできるスキルが生まれるんじゃないか?


そしてチャーリーが用意してくれたのが―――


「<黒天雷装>!」


いくつものスキルを派生させて誕生したのが、この<黒天雷装>だ。

一言で言うなら雷の化身。雷を纏うのではなく、使用者を黒い雷そのものと化す。

俺は精霊に近い存在となり、その影響で<基本的上限値>も跳ね上がる。俺の<ステータス限界値>近くまで。


「・・・なんだ、その姿は?」


ロンダークが目を丸くして問い掛けてくる。


「答えてやる必要は無いな」


俺はロンダークに向かってダッシュした。


「っ!?」


慌てて飛び退くロンダーク。

その横を激しい稲妻の嵐となった俺が通り過ぎていった。


「ぐっ!?」


その余波がロンダークの身体を焼く。


いかん、威力の調整に失敗した。しかも魔力の消耗が思ったより激しい。

これは戦闘を長引かせるわけにはいかない。そう思って、即座にUターン。


「くっ! <一直>!」


武器をレイピアに変えたロンダークがレーザーのような閃光を放つ。

先ほどは一瞬で俺の脇腹を貫通した一撃が、今はスローに見えた。

直角に曲がってレーザーを避けると、ロンダークの懐に容易く入り込む。


「っ! らん―――ぐはっ!?」


接近した俺を双剣のスキルで切り刻もうとしたようだが、それよりも俺のアッパーが入る方が早い。

宙に浮いたロンダークを更に蹴り上げ、空高く舞い上がったところを踵落としで地面に戻す。


「かはあっ!」


地面に打ち付けられたロンダークが血を吐いた。だが、すぐに体勢を整える。


「デタラメな奴め! <五月雨矢>!」


双剣を弓に変え、無数の矢が俺に向かって飛んでくる。

対空攻撃なのだろうが、こんなものは避けるまでもない。


「なにぃ!?」


ロンダークが声を荒らげる。

俺が放たれる矢を無視して突っ込んでいったからだ。

奴が放った矢は、俺の纏う雷光が全て弾き飛ばす。

俺はロンダークに拳を振り上げ―――


「【アイシクルフリーザー】!」


横から飛んできた凍てつく光を片手で弾き飛ばした。

次の瞬間、俺とロンダークの間にジースが割り込んでくる。

【テレポート】か!?


「【ホーリーノヴァ】!」


「ぐっ!」


蒼白い火柱が上がり、俺は防御するために展開した黒雷の盾ごと吹き飛ばされた。


「ジース!?」


「迷うな、ロンダーク!

 “あれ”は本物じゃよ!

 ワシらの待ち望んだ御方じゃ!」


「なにを・・・」


「いい加減に認めんかぁ!

 それともワシら二人で戦い、敗北すれば満足か!?」


「くっ!」


「あの方じゃ。あの方が帰ってきて下さったのじゃ!」


何を言ってるのか理解できないが、ジースも参戦するらしい。


良いぜ、それがこっちの元から立てていた予定なんだからな。


掛かってこいよ理不尽。

叩き潰してやんよぉ!



俺は制御できずに漏れ出している魔力を、無理矢理引き戻す。


「【ボルティック・レイ】!」


「大規模破壊魔法を<無詠唱>じゃと!?」


「下がれ、ジース! <次元断>!」


降り注ぐ雷光の裁きをロンダークが防ぐ。


「ぐうううう!!」


「オオオオオオオオッ!!」


ロンダークのA級スキル<次元断>は別次元の裂け目を自分の前に展開するスキルだ。そこに向かって放たれる攻撃は別次元に吸い込まれるので、一見すると最強無比の盾に見える。

だが強力な魔力攻撃を受けると、別次元への干渉を続けられなくなる。要は少しばかりチートなだけの防御方法に過ぎない。


「耐えろ、ロンダーク!

 【エンチャント】! 【パワー】【スピード】【ガードナー】【マジカライザー】!」


おお、すげー。

ジースが強化魔法のスペシャルコースを発動。

ロンダークの身体が一回り大きくなった。


「ぬおおおおおおおおおおっ!」


ロンダークが吠える。

縮んでいた<次元断>が大きさを取り戻し、【ボルティック・レイ】を全て飲み込んだ。


「はああああ! <次元装填腕>!」


ロンダークの長剣が手甲へと姿を変えると、黒いヴェールが両腕を覆う。

そして<天馬>を発動して、こちらに向かってきた。

俺も<黒雷>を両腕に集中させて迎え撃つ!


『<爆裂拳>!!』


俺とロンダークは同じスキルを同時に発動させた。無数の拳がぶつかり合う。

同じスキルの衝突なら、単純に威力の高い方が勝つ。武器にスキルを重ね掛けしたようだが、俺の<黒雷拳>の方が強い!


「うらぁ!」


「っああ!?」


最後の一撃が放たれると、ロンダークは弾かれたボールのように地上へと落ちていった。

俺の視界の端に、ジースが展開する四つの魔法陣が映る。


チャーリー!



ALL Right.

【エレメンタルランサーズ】の解析を完了。

いつでも発動できます。



俺の周囲にも、ジースと同じ魔法陣が四つ展開される。

ジースの瞳が大きく見開かれるのが、ここからでも分かった。


『【エレメンタルランサーズ】!!』


そして、同時に魔法を発動。放たれた魔法槍が中間距離で大爆発を起こす。


「エ、【エレメンタルランサーズ】はワシの【オリジナルスペル】じゃぞ!

 それを完全再現じゃと!?」


【エレメンタルランサーズ】は展開した自律魔法陣に【力ある言葉】で込められた魔力の分だけ魔法槍を連射する。かなり複雑な魔法みたいだが、自律魔法陣が展開していれば制御は簡単。別の魔法を同時に発動しやすい。


故にジースの戦闘スタイルは、【エレメンタルランサーズ】で弾幕を張りつつ別の大規模魔法で仕留める、というものなのだろう。相手によっては初手の【エレメンタルランサーズ】だけで決まることも有り得る。


だがチャーリーを相手にした場合、ジースは【エレメンタルランサーズ】を見せすぎた。コピーするには十分すぎるほどに。


「ぐおおおお!?」


俺の【エレメンタルランサーズ】が、ジースの【エレメンタルランサーズ】を押し返した。



ここで決める!

俺は地上に降りると、一気に魔力を解放した!



「うおおおおおおおおおおおおおおおおお!! <黒雷閃光砲>!!」


「じ、<次元断>!」


「ぬうう! 【エレメンタルシールド】!」


二人が多重に防壁を展開する。


「おらああああああああああああああああああああああああああああああ!!」


知ったことかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!


ありったけの魔力を<黒雷閃光砲>に叩き込む!


「こ、これは!?」


「いかん!?」


ジースの【エレメンタルシールド】を貫き、ロンダークの<次元断>を破壊して。

黒き雷の閃光は二人を飲み込んだ。



「ぐああああああ!!」


「これが、これが<堕天の後継>か―――」


光が収束し、周辺一体を黒いスパークが荒れ狂う。


俺の<黒天雷装>による<雷化>が強制的に解除された。

魔力切れだ。


(起きて来るなよ。もう限界だぜ)


肩で荒々しく呼吸しながら、視線は二人から外さない。

しばらくそうしていたが、二人はいつまでも起き上がらなかった。

満足そうな笑みを浮かべ、仲良く大の字になって横たわっている。


俺は静かに、右手を握り締めて天に突き上げた。




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