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08 現状把握と目標設定(1)

クレイジーモンキーを撃退し、一息ついた俺は現状について整理することにした。


先ず俺はクラスメイト15人と一緒に異世界<アークノギア>に召喚された。


召喚したのはブリトニア王国の姫君。

召喚された俺たちは復活した魔王を倒すように頼まれた。


何でもアークノギアに住む人々からすれば、異世界人である俺たちには強力で希少な<スキル>を持つ者が多く、トップクラスの戦力になるのだそうだ。

実際、どのような<スキル>を持っているか確認できる<ステータスプレート>というアイテムで調べたところ、俺の友人である三島順平は一目でチートと分かるようなステータスだった


しかし俺には、備わっているはずのレアスキルが備わっていなかった。

B級スキル<他言語理解>はあったが、それは召喚された全員が所持していた。

しかもステータスはオール10で、新兵より使い物にならないステータスだった。


<勇者>足り得ない、一般人以下の戦力にすらならない俺は、魔王が倒され元の世界に戻るまで王国のとある場所で保護されるはずだった。

しかし促されるままに魔法陣から転移したのは、人気のない薄暗い森の中だった。


チャーリーによれば、俺が転移した場所は<原初の大森林>という場所らしい。

この世界の5分の一を占める大森林で、高レベルのモンスターが跋扈する人の住めない魔境。

元の世界に例えるなら、突然アマゾンの大森林に放り出されたようなものである。



つまり、俺は捨てられたのだ。

何故か?

役立たずとはいえ、あまりにも非人道的である。

それを説明するには、この世界における俺たち異世界人の扱いについて語らねばならない。


あくまでブリトニア王国、その王族や貴族たちの一部で、という前置きはあるものの異世界人は“ヒト”ではなく“モノ”という扱いらしい。

簡単に言うと、奴隷に近い存在なのだそうだ。

特にブリトニア王国の王公貴族や上層部は、そういった認識が強いということだった。

しかし、それならば疑問が一つ出てくる。

なぜ忌み嫌う異世界人を大量に召喚したのか、ということである。



答えは簡単だった。

ブリトニア王国は、俺たちを<勇者>ではなく<兵器>として扱うつもりでいるのだ。


<アークノギア>には、大きく分けて三つの勢力がある。


一つがブリトニア王国。

豊かな自然と豊穣な大地に恵まれ、モンスターのレベルも総じて低い。

特に天然の要塞とも比喩される王都は攻めるに固く、守るに易い土地。

このため国力という点において、他国の追随を許さないほど抜きん出ている。


もう一つの国は、ガスパリア帝国。

完全実力主義の軍事国家であり、鉄工業が盛ん。

モンスターのレベルも高く、女子供ですら戦えない者はいないと言われるほどなのだという。

土地が痩せているために国力は乏しいが、軍事力は突出して高い。


最後はリーザニア連合。

これは厳密に言うと国家ではなく、大小五つの国が集まった同盟で、ブリトニアやガスパリアに対抗するために結束した。

しかし、いわゆる三竦みの状況を作り出せるほどの国力も軍事力も、そして結束力も無いのだという。


リーザニア連合が二大国家に攻め込まれないのは、あくまで戦争を仕掛けるための大義名分を相手に与えないようにするためである。

例えばブリトニアがリーザニア連合を侵略すれば、当然それを口実にガスパリアが乗り込んでくる。

国力で勝るブリトニアも、ガスパリアとリーザニア連合が相手では旗色が悪い。

ブリトニアは撤退を余儀無くされるだろう。

しかしガスパリアは対ブリトニア防衛を名目に軍隊を残すことができ、そのままリーザニア連合に対して影響力を持つことになるわけである。

それはブリトニアにとって痛手でしかない。

逆もまた然りである。

世界の覇権はブリトニアとガスパリアが握っている。

そう言われるほど、リーザニア連合は国力においても軍事力においても、二大国家に差があるといって過言ではないのだ。



どうして、そんな話をするのか?

無論、俺たちが召喚された理由に関わるからである。


つまり現状、この世界のパワーバランスは、ブリトニアとガスパリアが担っている。

そしてブリトニアがガスパリアに劣っているのは、軍事力である。


この軍事力の差を埋めるべく、俺たちはガスパリアに勝つための<兵器>としてブリトニア王国に召喚されたのである。

繰り返すが、レアスキルを複数保有する異世界人は<勇者>と呼ばれるほどの戦力だ。

実際、過去には<勇者>として活躍した異世界人もいたらしい。

要は異世界人を大量に召喚して鍛えれば、即席の戦力増強になるのである。



さて、ここで問題です。

戦力にすらならない異世界人。

つまり役に立たない<兵器>をブリトニア王国の国王や将軍が、どう思ったか?

想像するに難くない。

捨てて構わないという結論に至るまで、数分とかからなかっただろう。


殺されなかったのは、万が一にも他の<兵器>であるクラスメイトたちに現場を見せないためだろうとチャーリーが教えてくれた。

なるほど、そんな現場を見られれば、最悪<兵器>たちが敵に回る可能性すら出てくる。

秘密利に“棄てて”しまえば、後の処理は魔物がやってくれるというわけである。

やっと一番はじめの話しに戻ることができた。



「つまり、俺のクラスメイトたちは、この世界の戦争に兵隊として巻き込まれるってことか?」



Answer.

はい。



「それは大変だ」


穏やかでない話だ。

しかし戦争や争いとは無縁の生活をしていた現代日本の高校生に、いくら強力な<スキル>があるからと言って戦争を強制できるものなのだろうか?

そんな疑問にチャーリーは、



Answer.

可能です。

元の世界への帰還を条件にしたり、魔王に支配された裏切り者の人間たちということにして罪悪感を薄めたりしつつ、相手国に対する忌避感を強くし人殺しを他人事のように変えてしまう道徳観を植え付ける<スキル>や【魔法】を駆使すれば簡単です。



なにそれ怖い。

そうなると、「いや~手違いで森に飛ばされちゃったみたいで~」とか言いながらブリトニア王国に帰るのは無理だな。

俺の行動目的が、元の世界への帰還の他に、もう一つできてしまった。


そんなアホな戦争は止めるに限る。

俺は確かにクラスで浮いた存在だったが、いじめられていたわけではない。

もちろん嫌な奴はいる。

しかし別れ際に心配してくれた奴等も多い。

同じ学舎で過ごしてきた彼らを無視できるはずがないのである。

異世界とはいえ、連中に人殺しをさせるわけにはいかないからな。最悪、元の世界に戻ったときに精神のバランスを崩しかねない。

ちなみに、元の世界に帰る方法についてチャーリーに確認したところ、あるということだった。

一筋縄ではいかないが、希望が絶たれるよりはマシである。

これについては、またの機会に説明しよう。




H28.7.23

文章の一部を修正しました。

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