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73 開戦

原初の大森林南西部の外側。そこには広大な荒野が広がっている。そこに魔族軍の主力である魔導人形が終結していた。

その数、約11万。


「こうして見ると、圧巻じゃな」


「ああ」


老齢の魔公ジースに声を掛けられ、第17代魔王を名乗ったロンダークは気の無い言葉を返した。

彼の視線は魔導人形の大部隊ではなく、原初の大森林に向けられていたのだ。


―――美しい。


この大森林を表すには、その一言で十分だった。

無限に広がる漆黒の大森林。彼の主が治めた場所であり、ロンダークにとっては第二の故郷とも呼べる場所である。


「閣下。宣戦布告が完了いたしました」


「・・・使者は?」


「無事に帰還したとのことです」


「ほう」


ロンダークは少し驚いた。

戦争は無秩序に行うものではない。一定のルールが存在する。

それは戦争に至る経緯と原因を明らかにし、宣戦布告を相手に行うことである。ある意味、本来であれば戦争とは国と国との決闘のようなものである。

しかし宣戦布告を行うには使者を立てなければならない。使者を害することはルール違反ではあるが、それが守られることは少ない。最悪、生首だけが送り返されることもあるぐらいだ。


「何か伝言は受けているか?」


「はっ! 『受けて立つ』と」


「ふふん、生意気な」


言葉とは裏腹に、ロンダークの声には喜色が混じっていた。

ダイチという人間がしたことは、彼にとって許せることではない。それは原初の大森林に住むインテリジェンス・モンスターたちにも言えることだ。しかし、そういったことを抜きにして考えれば彼らの対応には好感が持てる。少なくとも下衆な人間に原初の大森林が支配されたのではないということに安堵したのである。


「魔公たちへの通信を開け」


「はっ!」


ロンダークの前に複数のモニターが表示され、各魔公たちが映る。


「準備は整った。各軍、侵攻を開始せよ」


『応!』


その返事と共に、魔導人形たちがガチャリと音を立てて立ち上がり、進軍を開始する。



前衛はポーンを中心とする歩兵部隊だ。

ポーンは白い球状の頭に身体と手足が生えただけの簡単な魔導人形である。戦闘力は高くないが、魔導人形は魔鉱石からできているため頑丈だ。また、その一撃は岩をも砕く。


その左右にはルーク隊とビショップ隊が並ぶ。

ルークは砦のような頭部に、大きな身体をした魔導人形である。その巨体を覆い隠すような巨大な盾を装備しており、高い防御力を持っている。まさに動く要塞だ。


ビショップは尖った身体を持ち、見るからに攻撃的な姿をしている。

白衛戦が主体の魔導人形にあって、唯一遠距離攻撃の手段を持っている。右手に装備されたボウガンから放たれる魔鉱石製の矢は、槍と見間違うほどに大きい。帝国軍の重歩兵部隊が持つ盾ですら、これを防ぐのは骨が折れるだろう。


そしてポーンが囲う部隊の中央に鎮座するのがナイトである。

ナイトは一言で言うなら手の生えた馬である。イメージとしてはケンタウロスに近いが、頭は馬である。剣もしくは槍を装備し、盾を手にしている。攻守のバランスに優れ、素早い動きで敵を翻弄する戦法を得意としている。


最後に部隊の最奥に控えるのが魔導人形最強のクイーンである。

高い攻撃力、防御力を誇り、ナイト以上の機動力を持つ。

それだけに止まらず、クイーン最大の武器は人形でありながら魔法を使うということだ。正に死角の無い最強の駒である。女神を模したその姿は、相対する者に無慈悲な女王への畏怖を抱かせることだろう。



魔導人形は本来、平野部での戦いを得意としている。森林の中では不利に働くこともあるが、それでも原初の大森林を支配する高レベルなインテリジェンス・モンスターと質の面で劣っていないはずだ。数の上では圧倒していることから、負ける要素は何一つ無いとロンダークは考えていた。

一つ気がかりがあるとすれば、グランゼルフの死霊軍を蹴散らした半妖種だ。しかしそれも、数の暴力には敵うまい。


だがロンダークは知らなかった。

原初の大森林に放った斥候の使い魔がことごとく戻らなかったために、情報を得ないままに戦を仕掛けたのである。


原初の大森林にいたインテリジェンス・モンスターたちは、既に居ない。彼らは<進化>により全く別の種族へと変わっていることに。

信じられないような報告が次々に飛び込んで来たのは、それから間もなくだった。




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