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68 バルデビア大公国

またしても【ゲート】でタラゼアの町まで戻った俺たちは、先ず冒険者ギルドに立ち寄った。

バルカスたちのことをギルド長のバナスさんに報告するためだ。

報告を受けたバナスさんは憤っていたものの、こういうことは現行犯でないと罰せないらしい。やったやらないの不毛な水掛け論になるからだ。

しかし冒険者ギルドとして注意しておくということだった。


肝心のバルカスたちは、最近タラゼアの町の冒険者ギルドに顔を出していないらしい。

俺たちがギルバート王子ことAランク冒険者のギルと一緒に、王女にかけられていた<呪い>を解いたという噂が既に広まっていた。そのせいで、俺たちと揉め事を起こしたバルカスたちは居心地が悪そうにしていたらしい。今回の追い剥ぎ行為も、旅費を稼ぐ目的だったのではないかとバナスさんは推測していた。


タラゼアの町を出た俺たちは、外で待っていたライトニングタイガーたちと合流。バルデビア大公国の首都、バルデビアンに向けて出発した。

タラゼアの町までは原初の大森林から徒歩で一日ほどだったので歩いたが、バルデビアンまではタラゼアの町から街道を進むと、馬車でも10日以上はかかる。現代っ子の俺には我慢できそうになかったので、サクッとライトニングタイガーたちに送ってもらうことにした。

サーベルタイガーの頃よりも身体機能が格段に上昇し、まさしく雷光のように駆ける彼らに乗れば、わずか2日で到着した。ちなみに街道は通らず、平野や山を通ったので誰にも見られていないはずである。


バルデビアンの前まで到着した俺は<変化>のスキルで犬人族に姿を変えた。人族にしなかったのは、バルデビア大公国における亜人種の扱いを実感するためだ。

ついでに桜花やアクアにも獣人に<変化>してもらった。人族に<変化>していると、獣人である俺が彼女たちの主人に見えてしまうので問題があるからだ。

ちなみに桜花は熊人族、アクアが猫人族、紅葉は狐人族そのままで、タツマキは竜人族そのままだ。一貫性がない。


【ゲート】でライトニングタイガーたちを送り返し、首都バルデビアンに入る。門で身分証の提示を求められたので提示した。

種族についてはチャーリーさんの<情報操作>で偽造する。それでいいのか、身分証。


どうでもいいが、タラゼアの町なら取られなかった入都料なるものを取られた。しかも銀貨一枚。たけーよ。人族は無料なのに。さらに入り口まで人族とは別になっていたから、徹底している。

ゴンはバルデビアンに住んでいるということや、国が招いた工房の関係者ということで無料だった。ゴンに謝られたよ。彼が悪いわけでもないのにな。


メインの通りを堂々と進むと衛兵に職務質問されるらしいので、端を歩く。まるで不審者だ。さすがにイライラしてきた。

そんな時だった。


「んん? キミはガンフォードのところの見習い君じゃないかね?」


腹の出た油ギッシュなオッサンに声を掛けられた。


「・・・ベルグライトさん」


「最近、姿を見ないと思っていたら、獣人連中を連れて冒険者の真似事かね?

 たいそうなご身分だ」


「ゴン、この人は誰だ?」


「ベルグライトさんです。この都で一番大きな武器工房の会長さんです」


つまり、ゴンたちの工房の商売敵か。


「クックックッ。しかしガンフォードも大変だな。ブラックミスリルを紛失するとは」


「なっ!? どうして、そのことを!?」


「都中の噂になっておるよ。ガンフォードが国から託されたブラックミスリルを紛失した、とな」


「無くしたんじゃありません! 盗まれたんです!」


「そうなのか? まあ約束の納期が守れなければ同じことだろうが、な」


「う・・・そ、そんなことは、起こりません! ブラックミスリルなら、手に入れて来ました!」


「なんだと?」


ゴンが俺たちを指差した。


「この人たちが、ブラックミスリルを譲ってくれたんです!」


「この獣人たちが? ふん、冗談は寝てから言え」


「嘘じゃありません!」


「なら見せてみろ」


「う・・・ダ、ダイチさん」


「まあ、見せるだけなら」


俺はブラックミスリルを<無限収納>から取り出した。


「なんと! 確かにブラックミスリルだ」


「嘘じゃなかったでしょう?」


「ふふん。おい、キサマたち。そのブラックミスリルを私に売れ」


『・・・・・・・・・は?』



俺とゴンの声がハモった。


「金貨20枚で買い取ってやろう。どうだ?」


「しかも金貨20枚って、安いなオイ」


「ほほう。獣人のくせに物の価値が分かるのか。なら金貨40枚で買い取ってやろう」


倍になった!?


「いやいや。これはゴンに売るって決めているんで」


「ちっ。なら金貨42枚だ。言っておくが、連中にはこれだけの金額は用意できんぞ。亜人種の奴隷が欲しいならオプションで付けてやろう。どうだ?」


こいつ、なかなか商売が上手いな。そういう問題じゃなかった。


「だから、これはゴンに譲る約束になってるの。カネは何とかするだろ」


「ふん。キサマ、この町は初めてか?」


「そうだけど」


「なら、いいことを教えてやる。この町で亜人種が人族様に逆らうな。分かったら、そのブラックミスリルを私に売れ」


こいつ、なんかムカつくな。


「断る」


「後悔するぞ?」


「アンタに売るよりはマシだ。ゴン、行くぞ」


俺たちはその場を離れた。ベルグライトはそんな俺たちをずっと睨んでいた。


「・・・斬りますか?」


「桜花サン、物騒なことを言うのは止めなさい」


「でもダイチはカッコ良かったぞ!」


「さすがは主様じゃ」


「カッコ良かった」


うん、女性陣の好感度が上がっている。


「で、でも、本当に良かったんですか?」


「何がだ?」


「ベルグライトさんの言ったことは本当です。この町では、亜人種はできるだけ人族に逆らわないように言われています」


「そんなもん知ったことか。売る側にも自由はあるんだぜ」


ブラックミスリルならゴンに渡す分を除いても十分な量がある。金貨42枚で売れるなら、その方が良かったかもしれない。

例えばノーランド商会のホフマンさんみたいな人なら売っていたかもしれないし、面倒事を避けるなら売った方が後腐れ無かっただろう。

だが、やはり売りたくない相手には売りたくないのだ。まあ、ああいう奴が仕掛けてくることは、だいたい予想できるしな。


「さて、気を取り直して行こうか」


俺たちは再び、メインストリートの端を歩き始めたのだった。



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