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60 エスぺランサ王国の内情

「第一王位継承者?」


俺は少し驚いて聞き返した。この国の第一王位継承者が女性であることにも驚いていた。


「はい。これは内密にしていただきたいことなのですが、この国の状況についてご説明しましょう」


ホフマンさんは身体の前で手を組むと、静かに語り始めた。


「まず、この国の現国王はリンドバーグ=エスペランサ2世様です。しかしリンドバーグ王は最近体調が優れず、老齢を理由に引退を決意されました。これがニヶ月ほど前の話です」


どうでもいいが、連れてきたのが紅葉で良かった。タツマキなら確実に寝ている。


「王位は正当に第一王位継承者であるエリザベート様に移る準備がされました。しかしその数日後、寝所からエリザベート様が起きて来られないという事態が発生したのです」


「起きて来ない?」


「はい」


「つまり眠ったままってことですか?」


「そうなります」


「そんなもの、叩き起こせば良いじゃろう?」


「い、一国の王女に過激ですな」


「<睡眠>の状態異常ならば、それが適切な方法じゃろう」


紅葉の言うことは一見乱暴だが、理に叶っている。

この世界にはRPGよろしく、状態異常がある。毒や麻痺、睡眠、石化、暗闇などなど。

これらのステータス異常には専用の薬や治療魔法がある。中でも睡眠や麻痺、暗闇などは時間経過で回復するが、睡眠は強い衝撃を受ければ回復する。このため冒険者の間では<睡眠>の状態異常を受けた味方は“殴って”起こすというのが常識なのだそうだ。


「・・・弟君と同じことを言われるのですな。

 しかし、それは試しました。王女が覚ますことはありませんでしたが」


弟、試したんだ。


「これは異常だということで<鑑定レンズ>を使用して調べたところ、<永眠>というステータス異常が検知されました」


それって死んでるんじゃ・・・


「これまでに発見されていない状態異常だったことから、すぐさま調査が行われ、あらゆる治療薬や治療魔法が試されましたが・・・」


そこでホフマンさんは首を振った。


「どれも効果が無かった、と」


「はい。今は国民に知られないようにしておりますが、王女が公式な場に出なければ時間の問題でしょう。また王位継承の儀が行われなければ、現国王が倒れた時に混乱が起こるのは必須です」


「でも弟がいるんだろう?」


「弟君のギルバード様が確かに継承権をお持ちですが、仮に王位継承後、エリザベート様が目を覚まされるようなことがあれば国は混乱するでしょう。最悪、王女復帰派と王子派に別れて貴族たちが争いを始めることになります」


ややこしい話だ。


「で、つまり<神薬>を王女様に試して欲しい、ってことか」


「はい。実は、その交渉をさせていただきたく、こちらに足を運ばせていただきました。

 私はエリザベート様に王位に就いていただきたい。ギルバート様とも交流はございますが、彼の方もそれを望んでおられます」


「そうなのか? 普通、第二継承権を持つ王子が疑われるだろうに」


「ギルバート様は、その、誤解を恐れずに言わせていただくと変わり者なのです。人の上に立つ資質はおありになりますが、王位は姉が相応しいと公式、非公式を問わず発言されていますので」


寝ている姉を殴って起こそうとする王子サマらしいからな、確かに変わり者だ。


「いかがでしょうか?」


「仮に<神薬>を献上したとして、俺たちにどんなメリットが?」


「先ほど申し上げました通り、ダイチ様方と商いをするには国の許可が必要となります。<神薬>のような貴重品を王家に捧げたとなれば、国としても正式に対応しなければならないでしょう。国王陛下もギルバート様も義理堅い方々です。無下にするようなことは無いはずです」


「<神薬>でも治らなかった場合は?」


「<神薬>は、それ事態が伝説級の魔法薬です。効果の有無に関わらず、その功績は残ります」


「なら、俺たちの持っている薬が<神薬>だと、どうやって証明するんだ?」


「それは<鑑定>させていただければ・・・」


それじゃあダメだな。

俺はポーションを取り出した。


「おお、これが・・・」


「ギルド長、これをさっきのマジックアイテムで<鑑定>してくれないか?」


「いいぞ。・・・って、あれ?」


「ギルド長、どうしました?」


「・・・これ、ただのポーションだぞ」


「なんですと?」


ホフマンさんも<鑑定レンズ>で確認し、俺に「どういうことだ」という視線を送る。


「紅葉」


「ぬう。本当にやるのか?」


「頼む。自分ではできそうにない」


「むむむ。あやつら、特に桜花には言うでないぞ。殺されてしまうからな」


「わかってる」


「ならば・・・【フレイムボム】」



ドン!



紅葉の発動した魔法に焼かれる俺。炎に包まれ全身に火傷を負う。

分かっていたことだが、痛い。異世界に来て初の致命傷が味方の攻撃とか笑えない。


「ダイチ様!?」


「おいおいおい!?」


ホフマンさんとバナスさんが悲鳴に近い声を上げた。

しかし紅葉は机の上にあるポーションを手に取ると、無言で俺に振りかけた。

俺の身体が光を放ち、全身の火傷が嘘のように無くなった。俺は何事も無かったかのように立ち上がる。


「本物でしょう?」


『な・・・』


二人は口を半開きにしたまま目を丸くしていた。


「し、心臓が止まるかと思いました」


「無茶苦茶だな、おい」


「ははは、すいません。ですけど、本物って信用してもらえました?」


「それは・・・」


「まあ・・・」


二人は考え込むように、ソファーへ深く腰掛けた。


チャーリーがいるので使う機会は少ないが、俺も<鑑定>のスキルは持っている。クラスメイトの誰かからコピーしたものだが。

その<鑑定>でダイチ特製ポーションを調べたことがあるのだが、その結果が以下の通りである。



道具名:ポーション

種別:魔法薬

効果:傷などを癒す



ざっくりだなオイ!?

と、力の限り叫んだのが懐かしい。


もう一度取り出したポーションを<鑑定>したホフマンさんとバナスさんは頭を抱えていた。

彼らとしては<神薬>に王女の回復を期待していたのだろう。俺たちが持っているポーションは明らかに普通のポーションと違うが、<鑑定>しても只のポーションという結果が出てしまう。つまりこれを<神薬>と証明することができない。たとえ今のように効果を見せたとしても、「こんな得たいの知れない薬を王族に使う気か」と責められる可能性が高いからだ。ホフマンさんの口振りでは首謀者は明らかになっていないようだし。


う~ん。

チャーリー、王女の<永眠>について、何か心当たりはあるか?



Answer.

おそらく<呪付>の一種ではないかと思われます。



呪付?



Answer.

特別なスキルにより付与されるステータスの一種です。

状態異常とは違い魔法やアイテムによる回復ができません。効果を打ち消す特別なスキルが必要となります。



チートポーションでも無理?



Answer.

治療できません。



そんな状態異常があるのかよ。



Answer.

ハッシュベルトのユニーク級スキル<暴走付与>も、この<呪付>に当たります。



マジか。

そう言えば<暴走>は回復できる手段が無かったからチャーリーに解析を頼んだんだった。<暴走>後のダメージはポーションで回復できたけど。


待てよ。

ということは、チャーリーなら<永眠>も解除できるんじゃね?



Answer.

可能です。

ただし王城は<鑑定阻害>の魔方陣が敷かれており、外部からではサーチできません。

<永眠>の解析には、少なくとも対象を視認できる距離まで移動する必要があります。



あ~。

それは面倒だな。

現状、その手段として有効な<神薬>ことポーションが役に立たないわけだし。それでホフマンさんもバナスさんも頭を抱えているのだ。



Suggeation.

一つ、ご提案があります。



なになに、チャーリーさんの悪巧み発動か?


・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・


おう。なるほど。

これが上手くいけば、いろいろと解決できるかもしれない。

俺は早速、未だに考え込む二人にチャーリーから提案された内容を伝えた。

二人は顔を見合わせた。


「う~む。ギルド長、どう思う?」


「う~ん。正直、俺たちで判断できる話じゃないですよ。あの方に、お伺いを立てるしかないでしょう」


「確かにな。お呼びして正解だった」


んん?

そういえば、さっきも二人は“あの方”とか言っていたな。


「あの。お二人が―――」



バン!



俺の言葉は、扉をブチ破るような勢いで入ってきたクローズに遮られた。


「ダ、ダイチさん! アンタの連れ達が大変なことに―――!」


俺と紅葉は顔を見合わせると、部屋を飛び出したのだった。



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