06 チャーリー
「・・・なに、これ?」
目の前に広がる光景に、俺は誰に言うでもなく呟いた。
うっそうと茂る草木に、日の光すらも隠す木々。
俺たちが転移したのは夕方だったが、召喚の間と呼ばれた建物の中は陽の光が差して明るかった。
おそらく、こちらの世界は昼を過ぎた辺りの時間だったはずだ。太陽が雲に隠れていたとしても暗すぎる。
とても保護してもらえるような環境ではない。人の気配すらしないのだ。
「えっと・・・」
なんとなく視線を落とし、足元にあるはずの魔方陣を確認してみた。先ほどは眩いほどに輝いていた魔方陣は、その姿すら無い。
「どこだよ、ここは?」
答えなど帰ってくるはずがないのに、俺は自問自答した。
しかし、
Answer.
<原初の大森林>と呼ばれる場所です。
「誰だ!?」
突然、頭の中に声が響いた。反射的に振り返るが、誰もいない。
というか、何も見えない。
Answer.
<ナビゲーター>のチャーリーと申します。
また頭に声が響く。
「誰だよ!? 隠れてないで、出てこい!」
一瞬、自分を保護してくれる者かとも思ったが、姿が見えないのはおかしい。
Answer.
私は“生物”ではありません。<ナビゲーター>です。マスターの中に存在しているため、姿は見えません。
「なに言ってるか、わからねーよ!」
CAUTION!
大声を出すと危険です。
「うるせーよ! 黙りやがれ!」
俺はパニックになっていた。
わけの分からない世界に勝手に召喚され、わけの分からない場所に一人で飛ばされて、わけの分からない奴に話しかけられる。
限界だった。
俺はその場に崩れ落ちると、大声で泣き出した。
ふざけんな!
俺が何したっていうんだよ!
あらん限りの声で叫ぶ。
理不尽な世界に。
自分の呪われた人生に。
こんなに泣いたのは、いつ以来だろう?
・・・母さんが死んだときだ。あの時に泣かないと決めたはずだった。どんな逆境にも耐えられる。
強くなると決めたんだった。
思い出したよ、母さん。
「ウオオオオオ!」
力いっぱい地面に頭突きをかます。
漫画家になるのだから、利き手は使いませんよ、はい。
前頭部に強い痛みを感じるが、その痛みが逆に冷静さを取り戻させる。
そうだ。
こんな修羅場、母さんが死んだときに比べたら屁みたいなものである。
「・・・チャーリーったか?」
Answer.
YES,MY MASTER.
「お前は、俺の味方なんだな?」
Answer.
YES,MY MASTER.
「なら、俺がこれからどうしたらいいか教えてくれ」
正直、事態についていけてないし、わけのわからないモノに頼るのも抵抗はある。
たが贅沢は言っていられない。
Answer.
その前に、ご報告があります。
「なんだ?」
CAUTION!
敵性反応多数。
囲まれました。
「・・・・・・・・・」
ぎゃ、逆境なんかに負けないもん!