53 竜巻龍襲来
凄まじい衝撃が走り、建物が崩れてくる。俺は邪魔な瓦礫を吹き飛ばし、周囲を見渡した。
「みんな無事か!?」
俺の言葉に反応し、次から次へと瓦礫の中から皆が姿を表す。中でも自称俺の側近三人は、素早く俺の周囲を囲んで警戒する。
くそっ、何が起こったんだ?
俺も周囲を警戒し、そして見つけた。襲撃者を。
彼女は腕を組み、不敵な笑みを浮かべて宙に浮かんでいた。背中には竜種を思い起こさせる翼。サイドテールを結ぶヘアアクセサリーが可愛いが、勝ち気な瞳で俺達を見下ろしている。見た目の年齢は俺よりも少し下、といったところか。ショートパンツのラフな姿をしている。
「・・・誰だ?」
見たことのない少女だ。
しかし―――
「ば、ばかな。なぜ彼女がここに―――?」
ウルフェンは知っているのか?
かなり驚いているようだが・・・
「何者だ、名を名乗れ!?」
桜花が木刀を構え、切っ先を向けて叫んだ。少女は不敵な笑みを崩さず、小さな胸を突き出して高らかに宣言した。
「ボクの名前はタツマキ! あんたらは竜巻龍って呼んでるらしいね!」
・・・。
え、竜巻龍?
たしか竜巻龍って、神龍王の娘で原初の大森林最強のドラゴンだよな。この小さい少女が竜巻龍?
しかし、それならウルフェンの反応にも頷けるが・・・。最強のドラゴンというイメージがガラガラと音を立てて崩れていく。
そんな思いを知ってか知らずか、タツマキは得意気だ。態度で「驚いただろう!?」と言っているように見える。
「・・・なんで竜巻龍が俺たちを攻撃するんだ?」
俺は警戒を緩めず、質問した。チャーリーからは、やはり鑑定不能との回答が帰ってくる。
「あ、そうだった。ボクが用のあるのは、お前だよ」
俺を指差してくるタツマキ。
「俺か? 初対面のはずだけどな」
「ああ、初対面だ。けど、ボクはお前をずっと見てた」
なに?
「ずっとって・・・いつからだ?」
「お前がシルバーピークの梺で、そこのオーガと闘ってからだな」
そこのオーガって、王牙のことか?
「久し振りに歯応えのありそうな奴が山に近付いてきたと思ったら、ニンゲンが倒しちゃったからビックリしてな。それで、それからしばらく遠くから観察させてもらってた」
なるほど。
こいつは王牙と闘って勝った俺に興味を持って、ずっとストーカーしてたわけだ。
「だが、それなら何で、いま襲ってきたんだ?」
「だってお前、ボクを<鑑定>しただろ?」
へ?
え~っと、チャーリーさん?
Answer.
サーチの範囲内に入りましたので、<見破り>の効果が発動したと考えられます。
あ、そういうことか。
「乙女のステータスを勝手に覗き見るとか、このスケベ」
「スケベって・・・」
ん?
あれ、アクアや桜花、紅葉まで俺を冷たい目で見ている。
いや、濡れ衣だからね?
「まあ、ボクには<鑑定>系のスキルは効かないんだけどね。覗き見がバレたから、コソコソするのは止めたんだ。正々堂々、正面から殴り込みに来たってわけ」
タツマキは拳を突き出し、シャドーボクシングをするようにパンチを繰り出した。そうしながら地面に降り立つ。
「ってわけで、勝負しろ! ニンゲン!」
やる気満々である。
「勝負って・・・嫌だよ」
「なんで!?」
「戦う理由がないだろ」
「そこに強者がいれば戦うのが男ってもんだろ!?」
「お前、女だろ」
「ごちゃごちゃ言うな! 勝負しろったら勝負しろ!」
だだっ子かよ。
ふと、幼かった頃の妹を思い出した。あいつも俺が友達と遊びに行こうとすると、「絶対に一緒に行くもん!」って暴れてたな。
「てめえ、ふざけんじゃねーぞ!」
俺がタツマキの様子に懐かしさを感じていると、カイザーがタツマキの前に歩み寄っていた。
「アニキと勝負だと?
竜巻龍だか何だか知らねーが、なめたこと言ってんじゃねーぞ」
あいつ、本当にチンピラみたいだな。
「アニキが出るまでもねーよ。俺様が身の程ってもんを教えてやる」
「お前が先に相手をするのか? いいぞ、お前も強そうだ!」
「けっ! 下の毛も生えてねーガキんちょが、一丁前の・・・ごぶはぁっ!?」
・・・え?
突然、カイザーが吹っ飛んだ。
何件かの家を半壊させながら集落の外壁を突き破り、森の中へと消えていく。
「・・・ガキって言うな。ボクはお前より年上だ」
こわっ!
どんだけ低い声だよ!?
突き出されたタツマキの拳からは煙が出ている。おそらくパンチで殴ったのだろうが、凄まじい威力だ。
カイザーも猿武帝になり、カイザー・コングだった頃と比べてパワーアップしていたはずである。それをあっさり倒してしまったのだから、タツマキの実力は推して知るべしである。
「ウルフェン、頼む」
「御意。面倒な猿め」
ウルフェンが自分の影に吸い込まれるように消えていった。シャドーウルフのA級スキル<影潜>である。<影潜>は記憶した対象の影に一瞬で転移できる便利なスキルだ。記憶できる対象の数に制限はあるが、それでも使い勝手は良い。。
というわけで、森の奥に消えてしまったカイザーの保護はウルフェンに任せた。<影潜>で探さなくても見つけられるからな。
「次は、どいつだ? なんなら全員と戦ろうか?」
タツマキが挑発的に放った言葉に、じわりと殺気が膨れ上がる。側近三人は勿論、王牙や魚正宗、白葉にエルゼフも戦る気みたいだ。
「大地様、ここは私にお任せください」
「マスターを守るのは、私の仕事」
「いやいや。お主たちは先の戦で主様に戦いを見せたのだろう。ならば、ここは妾の出番じゃろう」
特に側近の三人も戦う気満々だ。しかしチャーリーの分析では、タツマキの強さは彼女たちと同等か、それ以上。
これまではチャーリーが<見破り>の効果で弾き出した相手の戦闘力を計測し、俺にとって勝てる見込みのある相手かどうかを事前に知ることができた。しかし、タツマキにはそれが通用しない。ならば仲間を危険に晒すこともないだろう。
「三人とも下がれ。俺が戦う」
「ですが・・・」
「下がれって」
「・・・かしこまりました」
「マスターがそう言うなら」
「ぬぅ。次は妾が戦るからな」
三人は渋々といった感じで引き下がった。
「待たせたな」
「いいのか? ボクはウォーミングアップの後でも良かったんだぞ」
「建物を壊されて黙ってるほど俺は心が広くないし、仲間をやられて高見の見物ができるほど腐ってねーんだよ、俺は」
「良いじゃん良いじゃん! サイコーだよ、お前!」
タツマキが無邪気な笑顔で嬉しそうに言う。
「あ、名前聞いてなかったな」
「ダイチ・ヤマモトだ」
「じゃあ、ダイチ」
タツマキが半身になり、腰を深く落として身構える。その瞳に先程までのような無邪気さは無くなり、絶対強者のオーラが滲み出ていた。
「ボクを楽しませてよね」
その言葉が戦闘開始の合図となった。
 




