05 ステータスプレート
「話しはまとまったか?」
ゲルオグ将軍が鋭い声で尋ねてくる。三島は「はい」と応えた。
「ならば<ステータスプレート>に順番に触れていけ。その後、諸君に用意している住まいに案内する」
<ステータスプレート>は三枚あった。
クラスメイトたちは顔を見合わせる。説明を受けても、正体の分からないものに触れるのには抵抗があるのだろう。
「俺が最初にやろう」
三島が<ステータスプレート>の前に立った。
「・・・ステータスの目安はありますか?」
「諸君のレベルは、おそらく1だろう。標準的な新兵の能力なら20前後だな。30あれば優秀と言える。スキルの数は、A級にしろB級にしろ三つほど持っていれば優秀だな。」
それを聞くと、三島は意を決したようにステータスプレートに触れる。
すると、中空に文字が表示された。途端にどよめきが起こった。
個体名:三島 順平
種族:異世界人
レベル:1
STR:100(+200)
MAG:100(+200)
スキル一覧
B級スキル
<身体強化Ⅰ><身体機能向上><魔力強化Ⅰ><常時結界><覇力><剣術Lv2><体術Lv1><統率><他言語理解>
A級スキル
<金剛><斬破><多斬><閃光>
ユニーク級スキル
<聖剣の英雄><聖王剣><聖王拳>
S級スキル
<聖剣具象><対魔特性>
・・・なにあれ?
俺は別にMMORPGなどに詳しいわけではないが、それでも三島の数値が出鱈目に高いことは分かる。しかも厳つい<スキル>が並んでいるし、かなり高い戦闘力があることも分かる。
実際、ゲルオグ将軍は絶句していた。
「・・・もう良いですか?」
「ん? あ・・・ああ、いいぞ」
なんか空気が変わったような気がする。みんな、三島が凄い強さなのだろうということが分かったのだろう。なんせゲルオグ将軍から言われた新兵のステータスの10倍だからな。スキルの数は言うに及ばない。
「次はボクだ!」
「あたしもやっとくか」
「じゃ、じゃあ、委員長の私も率先してやります」
名乗りを上げたのは天堂、一条、委員長だった。
三人が<ステータスプレート>に触れる。
・・・またどよめきが起こった。
個体名:天堂 光輝
種族:異世界人
レベル:1
STR:80(+150)
MAG:50(+100)
スキル一覧
B級スキル
<身体強化Ⅰ><身体機能向上Ⅰ><剣術Lv1><光術Lv2><他言語理解>
A級スキル
<金剛><光弾><天馬>
ユニーク級スキル
<光精霊の加護><光龍剣>
S級スキル
<天界の輪><対魔特性>
個体名:一条 冴
種族:異世界人
レベル:1
STR:100(+150)
MAG:50(+50)
スキル一覧
B級スキル
<身体強化Ⅱ><身体機能向上Ⅰ><剣術Lv3><体術Lv2><他言語理解>
A級スキル
<金剛><隼><斬破><多斬><居合い><飛剣>
ユニーク級スキル
<剣帝の加護><剣帝の斬撃>
S級スキル
<飛燕流剣術><鷹の目>
個体名:木内 知子
種族:異世界人
レベル:1
STR:30(+50)
MAG:100(+200)
スキル一覧
B級スキル
<魔力強化Ⅰ><光術Lv2><水術Lv2><風術Lv2><土術Lv1><無詠唱><他言語理解>
A級スキル
<癒しの光><慈愛の雨><光弾><水弾><風弾><土弾><光嵐><水流><風刃>
ユニーク級スキル
<精霊の加護><女神の加護>
S級スキル
<女神の祝福><精霊召喚>
・・・わお。
ゲルオグ将軍の口は開きっぱなしだった。
三人とも三島を越えるようなステータスではないが、明らかにチートなスペックであることは理解できる。
その後は出席番号順にステータスプレートに触れていくことになった。
三島ほどではないが、やはり何人かはチートなスペックやレアな<スキル>を持っているようだ。そんな連中が1ダース以上もいるとか、魔王とやらに同情したくなる。
大して順番待ちをしないうちに、俺の番が回ってきた。さあ、俺の真のチカラを見せる時が来たようだ等と厨二的な発言をしてみる。
・・・表示された俺のステータスに誰もが言葉を失った。
個体名:山本 大地
種族:異世界人
レベル:1
STR:10
MAG:10
スキル一覧
B級スキル
<他言語理解>
・・・。
え?
一瞬、時が止まったような気がした。静寂が周囲を包む。
俺は驚いて<ステータスプレート>から手を放してしまった。三島が目を丸くして俺を見ていた。
俺はもう一度、<ステータスプレート>に触れてみた。
個体名:山本 大地
種族:異世界人
レベル:1
STR:10
MAG:10
スキル一覧
B級スキル
<他言語理解>
なんじゃこりゃああああ!?
え、嘘だよね!?
ステータスがオール10ですよ!?
新兵よりも下じゃん!
レアなスキルは!?
<他言語理解>って、みんな持ってるよね!
呆然とする俺。
そこに―――
「ぎゃはははははは! なによ、あのステータス!」
「む、村人だ! 村人が混ざってるぞ!」
「さすがはオタク! やることが斜め上だぜ!」
クラスメイトの何人かが爆笑していた。よく見れば、周囲を囲んでいる鎧の男たちも嘲りというか憐れむような視線を俺に送っていた。
「大地、真面目にやれ」
三島が飛んできて俺の手を掴み、三度<ステータスプレート>に触れさせる。しかし悲しいかな結果は変わらなかった。
「ゲルオグ将軍」
「はっ!」
王様がゲルオグ将軍を呼び、何やら話している。
その間、三島は俺に「大丈夫だ」「何とかする」と言っていたが、はっきり言って頭に入ってこない。
「ダイチ・ヤマモトとやら」
「・・・はい」
王様と話を終えたゲルオグ将軍は、俺の前に立った。
「そなたを王宮に入れるわけにはいかない。別の場所で保護しよう」
「待ってください!」
呆然とする俺に代わり、三島が声を上げた。
「それは、彼だけ別行動になるということですか!?」
「そうだ」
「認められません。わけの分からない場所に来て、不安なんです。全員で行動するべきです」
「ならば、その男は戦えるのか?」
「それは・・・」
「諸君が赴く戦いの場に、彼も同行させるのか?」
「・・・」
「彼の身柄は我々が責任を持って保護しよう。王宮には外部に漏らせない秘密も多い。軟禁のような状態で閉じ込められるより、市井で保護し役割を与える方が良いだろう」
「・・・」
三島は応えない。何か説得できる材料を探しているのだろう。だが―――
「三島、ありがとう。俺は、このオッサンの言葉が正しいと思う」
「大地!?」
「皆に付いていっても、足手まといになるだけだ。漫画制作に役立つ貴重な体験ができないのは残念だけどな」
「お前って奴は・・・」
俺は三島に向かって拳を突き出した。呆れたような顔をして、三島がその拳に自分の拳を当てる。
「少し我慢していてくれ。必ず迎えに行く」
「俺はマンガのヒロインかよ」
「・・・挨拶は済んだか?」
ゲルオグ将軍が冷ややかな目で俺たちを見ていた。
いや、正確には俺を見ていた。その瞬間、俺は何となくだが少し前に感じた違和感の正体に気がついた。
(こいつらの目。俺たちを人間として見ていないような・・・)
先ほどから、魔王に世界を荒らされて困っている偉い人という感じではない。
威圧的で、まるで物にでも命令しているかのようだ。なんとなくだが、こいつらとは一緒に居てはいけない気がする。
「連れていけ」
いつの間にか背後に二人の男が立っていた。壁に並んでいた男だ。二人は両脇から俺の腕を掴んだ。
「放せよ」
その二人の腕を俺は振りほどいた。
「自分で歩ける」
「ふん。ついて来い」
ゲルオグ将軍が背を向けて歩き出した。俺はその背中を追いかけ、三島とすれ違い様に、
「気を付けろよ」
と声を掛けた。
三島が少し驚いた顔をしている。
クラスメイトたちとも擦れ違ったが、何人かは「元気でね」「必ず皆で帰ろう」などと声を掛けてくれた。
先ほど俺をバカにした連中もバツが悪そうにしている。こういう展開になるとは思わなかったのかもしれない。
俺はゲルオグ将軍に案内され、ドームの地下らしき場所に向かって階段を降りていた。
「・・・こんな所で保護されるのか?」
「地下に転移魔方陣がある。そこから、とある場所まで移動してもらう」
「なるほど」
後ろからは、先ほどの男たちも付いてきていた。嫌な予感がする。案内された場所は地下牢でしたとかだったら洒落にならない。
剣を抜かれて襲いかかられても困る。なにせ俺のステータスはオール10だ。
その時は無様でも必死に逃げて、三島に助けを求めよう。
「ここだ」
階段を降りきると、ワンルームくらいの広い空間に出た。地面には淡い光を放つ魔方陣が画かれている。
おお、ファンタジーだ。
「その上に立て」
俺は言われたまま、魔方陣の上に立った。漫画の資料として、模写させて欲しいぐらいだ。
そこで、とある疑問が頭を掠めた。転移すると言われているが、向こう側の相手に話しは伝わっているのだろうか?
見たところ電話は無さそうだし、そういう特殊な魔法でもあるのか?
「なあ―――」
俺が質問しようと顔を上げると、なんとも邪悪な笑みを浮かべたゲルオグ将軍の顔が目に飛び込んできた。
「じゃあな」
彼が言葉を発した瞬間、俺の視界は再びホワイトアウトした。
H28.7.23
<エクストラ級スキル>の名称を<S級スキル>に変更しました。