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48 怒れる魔公

「なんなのだ、なんなのだ、あの人間は!?」


魔公グランゼルフはモニター画面に向かって叫んでいた。

ハッシュベルトは魔公に継ぐ実力者である。もとは前魔王の配下で、所持しているスキルの特殊性から工作員として働いていた。攻撃や防御に特化したスキルを所持していなかったが、レアスキルである<高速飛行>を駆使し上空から<魔力弾>で攻撃すれば負けることはない。

そもそも<高速飛行>は<浮遊>と<飛行>から派生するスキルであり、所持しているのは一握りの存在である。さすがに竜種や鳥類系のモンスターを相手にするのは分が悪いが、空を飛べない者や対空攻撃の術を持たない者たちにとっては圧倒的なアドバンテージとなる。


そんなハッシュベルトを事も無げに撃墜し、赤子の手をひねるように殺してしまった。

実を言うと、彼らはハッシュベルトがキマイラになったことを知らない。ハッシュベルトが<魔混玉>を使用する前に映像の送信を止めたからだ。

このため、彼らはハッシュベルトが人間に簡単に殺されてしまったと思ったのである。ハッシュベルトの上司で、前魔王ヴァルヴァーレから勅命を受け共に活動していたグランゼルフの怒りは一潮だった。


「あのような人間を野放しにするのか!?

 ここは魔族軍の総力を以て・・・ぐおっ!?」


突然、息苦しくなりグランゼルフは言葉を詰まらせた。見れば、他の魔公たちも同じように胸を押さえていた。心臓を握られているような感覚。生命の危機を感じさせるような圧倒的な殺気だった。


「・・・ロンダーク、落ち着け」


「これが落ち着いていられるか」


老魔族ジースの言葉に、議長であるロンダークは怒気を含んだ言葉を返す。


「儂とて同じ気持ちじゃよ。

 じゃが、せめて殺気を抑えよ。魔公たちが死んでしまうぞ」


「・・・む」


グランゼルフたちが息苦しさから解放される。ロンダークを睨み付けようとしたグランゼルフだったが、その身体から発せられる濃密な殺気に視線を反らした。


魔族は寿命の長い種族である。遥か昔、彼らが世界の支配者として君臨していた頃は300年を生きる魔族も珍しくはなかったという。しかし今の魔族は個人差こそあるものの100歳を越えるぐらいで寿命を終えるものが増えている。


何故か。


それは彼らが魔力の扱いを忘れていっていることが理由だった。魔力を駆使すれば老化を防止し、寿命を数百年も伸ばすことができる。その扱いができなくなっているのである。

ロンダークで300年、ジースに至っては400年を越える時を生きている。それに比べ他の魔公たちは100年も生きている者はいない。グランゼルフたち五人の魔公とロンダーク、ジースの二人にはそれだけでも明確な差があることが伺える。実際、ロンダーク一人にグランゼルフたち魔公が束になっても敵わないだろう。


「それで、どうするのじゃ?」


「決まっている。世の中には手を出してはいけないものがあるということを教えてやらねばなるまい」


そう言うと、ロンダークは立ち上がった。


「聞け、魔公たちよ。

 我が名はロンダーク。魔公会議の議長として発議する。

 私はここに、第17代魔王として立つことを宣言する」


『なっ!?』


ジースを除く魔公たちが驚きの声を上げる。


「ば、ばかな!? 今更、どういうつもりで・・・」


「わたしでは不服か?」


「っ!?」


抗議しようとしたグランゼルフだったが、たった一言で次の言葉を発せられなくなる。


「意義のある者は挙手を」


静まり返る会議室。


「では、早速17代魔王として命じる。我々は全兵力を以て原初の大森林を平定する。各自、準備に取りかかれ」


「全兵力って・・・」


「魔公全員と、魔道人形をすべて稼働させる」


「正気か!?」


さすがにグランゼルフが声を張り上げる。


「それだけの軍事行動を取れば帝国を刺激しますよ? 彼らが時間を無駄にするとは思えない」


「そうなれば、そちらが困るのでは?」


ギリアムとシュナイダーが間髪入れず、話しに入ってくる。このあたりの話しになると、レイティアスとラルヴァでは頭が回らない。


「心配はいらない。ミドガルズオルムを解き放つ」


『なっ!?』


三人は目を丸くした。



地形的に帝国領と隣接しているのはロンダークとジース、そしてラルヴァの領地である。しかしその境に大湿地帯が拡がっており、重騎士を中心としている帝国が魔族領に攻め込めない理由の一つになっていた。

そして、その湿地帯に棲息しているのが大蛇のモンスター、ミドガルズオルムである。大蛇と言っても実のところは亜龍種であり、ブレスなどの強力な攻撃をしてくる。小さい個体でも全長3メートルはあり、大きい個体なら30メートルはあると言われている。また特に気を付けなければならないのは毒による攻撃で、長期戦になれば不利になっていく。

大湿地帯では彼等が自由に動き回っているため、浅い部分でしか進むことは難しいのである。


「大蛇ミドガルズオルムとは一度だけ我らを助けるという盟約を結んでいる。彼等に任せていれば、帝国軍については心配いらないだろう」


魔公たちには初耳だった。しかしそのことについて問い詰める気概は彼らにない。


「それと、一つ注意しておく。

 私は、お前たちがどれだけの人形を保有しているか、種類まで全て把握している」


この一言に魔公たちは青ざめた。


ロンダークとジースの違い。それは軍の統率や内政能力において、かなりの差がある。単純に考えれば、ジースはロンダークよりも100年以上長く生きており、その実力差は生きている年数に比例するはずである。事実、ロンダークとジースでは魔力に明確な差がある。

しかしジースは魔道の研究に生涯を捧げており、戦闘技術が高いわけではない。対してロンダークは武器を中心とする多彩なスキルを持ち、それらの戦闘スキルを磨きあげてきた戦闘狂である。加えてリーダーとしての資質を持ち、高い指導力を有している。

魔法については一歩も二歩も遅れをとるが、総合的な実力という点ではロンダークの方が高い。二人が同格と見なされているのは、そういう理由があった。


「戦力を隠すような小賢しい真似はするな。

 我らは全力を以て原初の大森林に侵攻し、裏切り者の半妖種とインテリジェンス・モンスターたちを駆逐する」


「ぐう・・・!」


「案ずるな。この戦いが終われば、私は魔王を辞する」


「な、なに!?」


「奴等を根絶やしにすればヴァルヴァーレの復活に必要な魂は足りるだろう。あとは貴様たちで好きにするといい」


これはグランゼルフにとって、願ってもない提案だった。


作戦が失敗し、全軍で攻め込むべきと提案をしようとしたが、それが不可能であることは分かっていた。

理由は解らないが、ロンダークもジースも原初の大森林には手を出したがらない。今回の作戦を通すのも一苦労だったし、勇者の大量召喚などということが無ければ無理だっただろう。それを、向こうから全兵力で侵攻すると言い出したのだ。

しかもロンダークは魔公たちの兵力を把握していると言う。仮に自分の提案が通ったとしても、魔公たちは兵力を隠すだろう。しかしロンダークが魔王になると宣言した以上、その命令は絶対である。このため兵力を隠すような真似をすれば死につながる。厳密に言えばロンダークは魔王となるべき要件を満たしていないが、その実力はヴァルヴァーレを越える。そんな彼に逆らえるはずもないのだ。


(これは都合の良い展開だ)


しかも事が終われば魔王を辞すると言う。現状、ヴァルヴァーレの復活に必要なユニーク級スキル<反魂>を所持しているのはグランゼルフだけである。彼が他の魔公よりも優位な立場にあることは変わりがない。いや、ハッシュベルトがいない今となっては、手柄を独占できる可能性もある。

グランゼルフは口元が緩むことを抑えられなかった。


「異議はないな。作戦の決行は一ヶ月後だ。各自、準備に取り掛かれ」


ロンダークは立ち上がり、会議室を後にした。その後ろをジースがついていく。


会議室から離れた後、ジースはロンダークに声を掛けた。


「裏切り者、か」


「我らの忠誠は、あの方に捧げたはずだ。それを反故にしたのだから、裏切りと判断しても間違いはなかろう」


「確かに、な」


「あの方は“帰ってくる”と言われたのだ。我らは、その言葉を信じ待つべきだ。人間が掠め取っていいものではない」


ロンダークは外に出ると、一呼吸おいて呟いた。


「我らの主は<堕天の魔王>ルシファー様ただ一人なのだから」






♦ お知らせ ♦

次話で第二章終了となりますが、いくつか設定の見直しが必要な個所が出てきております。

具体的にはスライムのスキルやネームドモンスターの設定などなのですが、

これらの修正作業を行うため、次話更新がストップとなります。


修正を加える話は、活動報告にて修正した内容を掲載していく予定です。

連載再開は8月与予定しています。

だいぶストックを消費してしまったので、毎日更新は難しくなるかもです。

週2回更新ぐらいで進めていきたいです。

更新を楽しみにしていただいている方々、申し訳ありません。

よろしくお願いします。


H28.7.27

前話までの内容に合わせて修正しました。


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