46 ハッシュベルトの最後
俺は新たに獲得したA級スキル<高速飛行>で、ぶっ飛ばされ地面にめり込んだハッシュベルトの所に降り立った。
試しに使ってみたんだが、このスキル非常に扱いが難しい。スピード調整や方向のコントロール、滞空制御など様々なことに気を配らなければならないからだ。
Suggestion.
<高速飛行>は私が制御しましょうか?
う~ん。
いや、いい。
【魔法】は正直チンプンカンプンなのでチャーリーさんに頼りきりだが、スキルぐらいは自分で扱えるようにしておきたい。
ALL Right.
了解しました。
ちょっとチャーリーさんの声が寂しそうである。過保護だなぁ。
俺は起き上がってこないハッシュベルトの足を掴み、地面から引き上げた。途端に魔力弾が顔面に飛んできたので、片手で弾き飛ばす。
危ねーな、この野郎。
俺は仕返しに奴を何度か地面に叩きつけると、上空に放り出した。<高速飛行>で空に制止するハッシュベルト。
「なめるなぁぁぁぁぁ!」
怒りに任せて魔力弾を放ってくる。こいつ、バカの一つ覚えだな。ひょっとして、攻撃用のスキルを持っていないのか?
Answer.
特異なスキルを多く所持していますが、攻撃・防御系のスキルは皆無ですね。
あ、マジで?
魔族って、実は大したことない?
Answer.
おそらく上空から魔力弾を飛ばし、中長距離からの戦闘しかしてこなかったのではないかと思われます。
空を飛べる個体は非常に数が限られていますので。
なるほど。
空という安全圏から攻撃できるという圧倒的なアドバンテージがあるから、自分のチカラを把握できていないわけか。でも魔族って高い魔力を持ってるよな。
Answer.
魔族は先天的に高い魔力を有していますが、それは【魔法】によって本来活かされます。
人種ほど【魔法】の開発に積極的でない魔族は初級の【魔法】すら扱えない者が多いのが現実です。
【魔法】よりも発動が簡易なスキルに頼りがちですね。
うわ~、ダメダメだな。
かつては【魔法】のチカラで世界を支配していた種族が今は魔法をロクに扱えないとか、救えない話だ。
ラスボス手前ぐらいの強さを想定していたんだが、これでは単なるザコである。暴走状態のキングの方が強いぐらいだ。せっかくなので、いろいろ試させてもらおう。
俺は本当にバカの一つ覚えで放ってくる魔力弾を<防御壁>で防ぎつつ、チャーリーにオリジナルスベルの構築をしてもらう。そして発動。
「【ホーミングミサイル】!」
俺の手から放たれた魔力球はハッシュベルトに向かっていく。
「遅いわ!」
しかし、あっさりと避けられる。
「そのような魔法が私に通用―――ごはあっ!?」
避けられた魔力球はハッシュベルトの後方で向きを変え、後頭部に直撃した。
・・・魔力障壁ぐらい張っとけよ。
「な、なん・・・?」
ちなみに威力はゲンコツ程度に抑えてある。
「【ホーミングミサイル】! 【ホーミングミサイル】! 【ホーミングミサイル】!」
ホーミングミサイル連発である。名前から分かると思うが、自動追尾型の簡単な魔力球である。障壁を張れば難なく防ぐことができるだろうが、アイツ本当に魔力障壁すら張ることができないらしい。
「な、なんなのだ、この魔力弾は!?」
<高速飛行>で逃げるが、それ以上のスピードで【ホーミングミサイル】は追尾する。そういう風に術式を組み込んだからな。
あと【ホーミングミサイル】は俺の魔力を感知し、自動で回避するようにしている。【ホーミングミサイル】同士で相殺してしまったり、某超有名バトルマンガのフ○ーザ様みたいなことは起こりませんよ、はい。
「【ホーミングミサイル】! 【ホーミングミサイル】! 【ホーミングミサイル】!」
【ホーミングミサイル】おかわりである。
「くっ! ふざけるなよ!」
ハッシュベルトは逃げるのを止め、魔力弾で迎撃し始めた。動きが止まったね。狙い撃ちだよ。
「【フレイムランチャー】!」
対空ミサイルの要領で勢いよく発射された炎の弾丸が猛スピードでハッシュベルトを襲う。
チュドドドドドドン!
全弾命中。
【ホーミングミサイル】に気をとられて、他の攻撃に対する警戒心が薄れたところを狙わせてもらった。
ハッシュベルトは煙を出しながら落下。地面に墜落したところを【ホーミングミサイル】がダメ押しする。空を飛ばなくても、対抗策ならいくらでもあるんだよー。
落下地点に向かうと、地に伏せたままハッシュベルトは何かを呟いていた。
「こんなはずでは・・・こんなはずでは無い。私は魔公に劣らぬ存在だ。魔王軍の幹部となるんだ。こんなザコ共に負けるはずがない、負けていいはずがない・・・」
哀れだな。
哀れすぎて涙も出ない。
「貴様、貴様のせいで、貴様のせいでぇ・・・」
もはや立ち上がる気力も無いらしい。
「さんざん他人のことを利用して、失敗したら自分以外の責任にする。そんなだから負けるんだよ」
「私に説教する気か? 私に手を出して、ただで済むと思うなよ。魔公やヴァルヴァーレ様をお前は敵に回したんだ」
「幸い、俺の仲間にはお前みたいなバカはいない。みんな生きるために努力を惜しまず、助け合っているからな。だから負ける気がしない」
「貴様は・・・」
ハッシュベルトが顔を上げた。その目はまだ死んでいない!?
「貴様は私が殺す!」
ハッシュベルトは紅い玉を取り出した。
「クックックッ。私を侮ったこと後悔するがいい!」
その玉を口に含むと、一気に噛み砕いた。
瞬間、ハッシュベルトを中心に瘴気が溢れ出した!
「なんだ!?」
溢れ出した瘴気はハッシュベルトを包むと、その身体を飲み込み、姿を変えていく。
大地に着く四本の脚。その脚先には黒く鋭い爪。
金色の毛に覆われ、口からは凶悪な牙が伸びている。
背にはコウモリを思わせるような大きい翼。
尾は巨大な蛇が牙を剥いている。
雄々しい百獣の王を思い起こさせる外観に、俺は心当たりがあった。
(あれって、キマイラか?)
キマイラ。
合成獣とも呼ばれるモンスターだ。
RPGなんかでは終盤付近に登場するな。
WARNING!
マジックアイテム<魔混玉>により、ハッシュベルトがキマイラと<融合>しました。
危険レベルをオレンジからレッドに変更しました。
<魔混玉>?
Answer.
封じられたモンスターと<融合>するマジックアイテムです。
ここに来て変身かよ。
ラスボスか、てめーは。
「くははははははははっ!
素晴らしいチカラだ! このチカラがあれば、魔公すら恐れるに足りん!」
げっ!?
獅子の額からハッシュベルトの顔が出てきた。
めちゃくちゃ気持ち悪いな。
「さあ、小僧。まずは貴様から蹂躙してやろう」
開いた口に光が迸る。
WARNING!
ブレスです!
竜種でもないのにブレスかよ!?
俺は迷わずに上へと飛んだ。
カッ!
キマイラ・ハッシュベルトの口が発光した刹那、閃光が俺の立っていた場所を貫いた。光は木々を貫通し、数キロ先まで延びていく。
タイラント・ドラゴンよりも凶悪だなオイ!?
Answer.
威力が圧縮されています。
なるほど。
タイラント・ドラゴンのブレスは広範囲の殲滅を想定したものだが、奴のブレスは一点集中の貫通型。対象範囲は狭いが、圧縮されている分、威力が高いわけか。
そんなことを考えていると、俺の周囲に影が差した。上を振り向くと、キマイラ・ハッシュベルトの巨体が目に入る。木の幹ほどもありそうな腕が降り下ろされるところだった。
「ちっ!」
両方の腕にA級スキル<錬気甲>を咄嗟に発動。その一撃をガードした。
「ぐっ!?」
<錬気甲>は両腕に防御用の結界を纏わせるA級スキルだ。魔力による手甲をイメージしてもらえると助かる。
<防御壁>ほど広い範囲は守れないが、防御力という点では<防御壁>を上回る。接近戦における盾のようなものだ。
この<錬気甲>でキマイラ・ハッシュベルトの爪を辛くも防ぐことはできたが、一撃の重みや衝撃は空中にいたため、消すことはできなかった。弾き飛ばされた俺は地面に激突する。
痛い。
ちょっと油断してしまった。気を引き締めよう。
「くははははははははっ! そんなものか!?」
キマイラ・ハッシュベルトは口に炎を携えると、火球を吐き出した。かなりの大きさで、しかも連射してくる。
俺は<高速飛行>ではなく、<天馬>で上空に跳び上がった。<高速飛行>では、まだ細かな操縦ができない。<天馬>の方が慣れているし、火球も避けやすい。
狙いを絞らせないようジグザグに跳び、あっという間に上空のキマイラ・ハッシュベルトに接近する。
「ちょこまかと!」
再び爪が襲い来るが、俺は余裕をもって回避する。先ほどはブレスの威力に驚いて油断したが。この程度の速さならクリーンヒットは許さない。
俺は側面に回り込むと、
「<爆裂拳>!」
ありったけの拳を叩き込む。
しかし―――
「かってぇ!」
「ふはははは! そんな攻撃が効くものか!」
岩でもこんなに固くねーぞ!
なんなんだ!?
Answer.
キマイラの身体を覆う体毛には魔力を受け流す性質があります。
打撃系のスキルは効果が薄いですね。
なるほど!
納得した俺に向かって尻尾の蛇が向かってくる。<天馬>で危なげ無くかわして距離を取ると、またしても火球を放ってくる。
こいつ、キマイラと<融合>しても戦闘スタイル変わらねーじゃねーか!
再び<天馬>で攪乱しながら距離を詰める。体毛部分は魔力を受け流すなら、それ以外を狙えばいい。
「<剛打掌>!」
横っ腹目掛けてA級スキル<剛打掌>をブチ当てる。打撃系のスキルだが、これは<吹き飛ばし>と相性が良く、スキルに上乗せすれば相乗効果で威力が増す。
「そんな攻撃、効かぬわ!」
分かってないな。これは体勢を崩すための布石だ。
<吹き飛ばし>の効果で文字どおり吹き飛ばされたキマイラ・ハッシュベルトは、崩れた体勢を空中で整える。しかし俺の姿を見失い、左右をキョロキョロと見回していた。
俺は既に<短距離転移>で奴の頭上に移動している。
狙うのは額。つまりハッシュベルトの顔だ。
「<流星脚>!」
「うぎゃあああああああああ!」
流星のような踵落としが炸裂した。
手応えありである。
キマイラ・ハッシュベルトは悶絶しながら空中でのたうちまわる。
「ぐうううう! おのれ、人間風情が! もう許さ・・・っぎ!?」
なんだ?
キマイラ・ハッシュベルトの動きが止まる。
「お・・・が・・・な、なにを・・・や、やめ・・・」
額から出ているハッシュベルトの顔が、肉に埋もれていく。ハッシュベルトは抵抗しているようだが、あまり意味が無いようだ。
「あ、が・・・消える。俺が・・・おれ、が・・・」
ハッシュベルトの顔が見えなくなった。直後、
ガアアアアアアアアアアアアッッッ!!
耳をつんざく咆哮と、その場に踏みとどまれないほどの強風が吹いた。穏やかだったはずの空に暗雲がたちこめ、落雷が発生する。
今度は何なんだ!?
Answer.
キマイラのA級スキル<獣王の嵐>です。
ハッシュベルトと完全に<融合>したため、かなり広範囲かつ強力な攻撃になっています。
さっきまでの状態は不完全だったってことか?
Answer.
ハッシュベルトの<魂>をキマイラが完全に飲み込んだものと思われます。
本来のキマイラが有する魔力量を3倍以上オーバーしています。
マジか。
<分離>させることはできるか?
Answer.
不可能です。
魂のレベルで<融合>しているため、スライムの<溶解>でも切り離せません。
ちっ。
ハッシュベルトの奴には鬼人族やゴブリン・インテリジェンスたちを傷付けた罪を償わせようと思っていたが、できなくなったみたいだ。キマイラと一体化し、完全なモンスターとなっている。
キマイラはタイラント・ドラゴンすら越える化け物だ。それが魔族であるハッシュベルトと<融合>し、洒落にならない魔力を得ている。
事実、奴の放っている<獣王の嵐>で、この辺りが焦土と化しそうな勢いだ。
グガアアアアアアアアッッ!
キマイラの口から火球が放たれる。さっきよりも大きく、そして速い!
「くそが!」
<天馬>では避けきれない。俺は<高速飛行>で火球を躱すが、キマイラは次々と火球を放ってくる。
空中で背後をとられるのは、言うなれば詰みに近い。俺は未だ<高速飛行>を上手く扱えないし、撃ち落とされるまでに時間は掛からないだろう。先ほどまでの火球とは、早さも狙いも、そして威力も段違いだ。
それに奴が発動している<獣王の嵐>によって、あちこちに被害が出ている。アクアたちやサラサ湖からは距離をとっていたおかげで仲間たちに被害は出ていないが、時間の問題だろう。
速やかにキマイラ・ハッシュベルトを倒す必要がある。俺は決断した。
「・・・<魔剣具象>。こい、<新月>!」
闇が発生し、俺の手に一振りの刀が握られる。強い躍動感と同時に、凄まじい魔力が流れ込んでくるのを感じた。
俺はその感触を確かめ、キマイラ・ハッシュベルトに向き直る。飛んできた火球を真横に斬り裂いた。
ガアアアアアアアアアアアアッッッ!!
キマイラ・ハッシュベルトは怯まない。その口に閃光が迸る。
WARNING!
ブレスです!
上等だ!
俺は<新月>を構え、魔力を込める。黒い光が<新月>から発せられた。
掛かって来いよ理不尽!
叩き潰してやんよぉ!
キマイラ・ハッシュベルトがブレスを放つ。レーザービームのようなブレスは光の速さで俺に向かってきたが、それを俺は<新月>で受け止めた。
「うおおおおおおおお!!」
両手に感じる衝撃と、火傷するような痛み。
キマイラ・ハッシュベルトはブレスを放ちながらも接近してくる。その腕が振り上げられ、鋭い爪が俺を引き裂かんとしていた。
「うらあああああああああ!!」
魔力を全開にして<新月>に注ぎ込み、俺は全力で手にした黒刀を降り下ろした。
キマイラ・ハッシュベルトと俺が交錯する。奴の爪が俺の頬に傷を残した。
だが―――
キマイラ・ハッシュベルトの身体は空中で真っ二つに割れると、そのまま地面に落下していく。
空を覆っていた雷雲も、嘘のように晴れていった。
Report.
レベルが12から20にアップしました。
レベルが20に達したため、インビジブルスキルがいくつか解放されました。
スキルのバージョンアップが可能です。
バージョンアップしますか?
・・・ん?
H28.7.27
前話までの内容に合わせて修正しました。




