45 ハッシュベルト参戦
俺は半魚族の族長である魚正宗と、黒狼族の族長ウルフェン。それに五尾姫、アクア、桜花、サーベルタイガー逹を連れてサラサ湖にやって来ていた。ちなみにアクアの【アクアプリズン】に囚われているが、白葉とカイザーも一緒である。
二匹は目を覚ますなりハッシュベルトがどうのこうのと喚き散らしていたが、アクアと桜花の一睨みで大人しくなった。
俺達が転移したのは、サラサ湖周辺を見渡せる小高い丘だった。半魚族がアンデッドの襲撃に備えて警戒するための場所に近いところである。
到着すると、レブンと鎧に身を包んだ半魚族がいた。おそらく、彼が魚兼光だろう。
「族長!
ま、まさか本当に、これほど早く到着されるとは・・・」
ちなみに多尾狐の領域からサラサ湖まで、サーベルタイガーの足で丸一日は掛かる。半魚族なら二日はかかるだろう。
「彼らのおかげだ。それで、首尾は?」
「・・・ご覧になった方が早いかと」
言われて俺達は戦況が見渡せる場所まで案内された。
・・・うん、圧勝だな。
ゴブリン・インテリジェンスたちは爆裂の矢で援護射撃。サーベルタイガーは素早い動きでアンデッドを寄せ付けないし、鬼人族は持ち前の戦闘力で圧倒している。なんか鬼人族の皆さんが必至そうなんですけど、そんなに手強い相手かな?
どうでもいいが、王牙さんが凄く愉しそうにしている。
アンデッド軍などと言うと大層に聞こえるが、その構成はスケルトンやグールといった低級のアンデッドばかりである。半魚族の全兵力があれば何とかなるぐらいの規模だし、鬼人族には物足りない相手のはずなんだが。それでも魚正宗はアンデッド軍を圧倒している王牙たちに言葉を失っている。ウルフェンも紅葉も似たような感じだ。
「・・・確認するが、あれは貴殿の配下なのだな?」
魚正宗が俺を見て言った。顔がひきつってるよ。
「そうだ。俺の仲間だよ」
「貴殿は本当に何者なのだ?
超高度な魔法を平然と行使し、見たこともない魔道具を用い、あのように強力な半妖種を従える。そんな存在は聞いたこともない」
「俺は人間だよ。ちょっと特殊なだけでな」
・・・この展開、まずいな。
「そなたが答えられぬなら、妾が答えようか?」
突然、紅葉が口を開いた。まずい。
「いや、いい。やめてくれ」
「いいや、止めんぞ。魚正宗が言ったような存在に妾は心当たりがある」
「なに!? 本当か、紅葉」
「いや。だからちょっと待とうか、紅葉さん」
「ふふん。主らこそ、何故気付かない?
特にウルフェン。お主なら気づいておるのだろう?
だからここまで付いてきた」
「・・・・・・」
「答えぬか。ならば、妾の口から・・・ふご!?」
「だから待てって。ちょっと、二人で話をしようか。誰もいないところで」
「ほほほ。積極的じゃな。妾は強い男なら、大歓迎じゃ」
「いや、獣に手を出す趣味はねーよ」
「ならば人間に変化しようか? 妾の魔力なら、その程度・・・」
CAUTION!
敵性反応イエローを感知しました。
魔族であることからハッシュベルトである可能性が高いです。
来たか!
俺は紅葉を押しのけると、その方向に目を向けた。ナイスタイミングだ。
これで話を有耶無耶にできる!
マップ上を高速でこちらに接近してきているな。これは・・・空から来るのか?
Answer.
おそらくA級スキル<高速飛行>と思われます。
そんなスキルあるんだ!?
すげー。ほしー。
Answer.
射程圏内に入れば、もちろんコピーします。
やっぱり抜かりないね、チャーリーさんは。
おっと、飛んできながら、こっちに攻撃してくるみたいだ。
血の気の多い奴だなー。流石は白葉の主人だ。
「ちょっと、どいてろ」
再び擦り寄ってきた紅葉を避けると、俺は飛び上がった。そして飛んできた魔力弾を明後日の方向に弾き飛ばす。こんなもん、防御するまでもない。
着地した俺は、空を見上げた。そこに、悠然と男が佇んでいる。
見た目は二十歳そこそこ。意外と若いな。白い肌に尖った耳。赤い瞳は魔族の特徴に一致する。かなりの美男子のはずだが、その顔は怒りでグチャグチャになっている。しかもボロボロのマントを羽織っているので、せっかくのイケメンが台無しである。
「ハッシュベルト様!」
「ハッシュベルト殿!」
白葉とカイザーが歓喜の声を上げた。おそらく自分達を助けに来たと勘違いしているのだろう。
「・・・これは、どういうことだ?」
そんな二体にハッシュベルトは冷徹な声を投げ掛ける。
「も、申し訳ありません。このような連中に不覚をとってしまいました」
「旦那、助けてくれ! こいつら普通じゃねーよ!」
「黙れ、役立たず共」
ハッシュベルトの手に魔力が灯る。
「貴様ら無能のせいで、私の立場は形無しだ。互いに争って、殺し合うことすらできんのか、マヌケめ」
「も、申し訳ありません!」
「もう一回、もう一回チャンスをくれ!」
「検討に値しない。死ね」
言って魔力弾を放つ。俺は二体の前に移動すると、その魔力弾を弾き飛ばした。
「おい、なに勝手に殺そうとしてるんだよ」
「黙れ、人間。そいつらは偉大なる魔王ヴァルヴァーレ様の尊い生け贄となるはずだったのだ。それを邪魔しおって」
ハッシュベルトの言葉に白葉とカイザーの表情が絶望に歪む。ハッシュベルト本人の言葉で、自分達が利用されていた現実を突きつけられたのだ、当然だろう。ちょっとイラッとしたぞ。
「仮にもチカラを与えた配下だろ。思いやりとかねーのかよ」
「面白いことを言うな。ただの駒に思い入れなどあるわけがなかろう。
そう言えば、お前たちには私のチカラを貸し与えていたんだったな。返してもらおう」
「うぐっ!」
「ぐああっ!」
ハッシュベルトが手をかざすと、二体が苦しそうに呻き出した。彼らから黒いもやのようなものが立ち上り、ハッシュベルトに吸収されていく。
「白葉、どうしたのじゃ!?」
紅葉が取り乱し、白葉に駆け寄る。黒いもやが消えると、白葉は六尾ではなく四尾になっていた。毛並みも黒から朱色に変わっている。
CAUTION!
個体名ハッシュベルトの敵性レベルがイエローからオレンジに変化しました。
なんだと?
「くはははははははは! チカラが戻ったぞ!」
なんだ、何をした?
Answer.
エクストラ級スキル<強制搾取>を確認。
<魔獣契約>を解除し、その魔力を自身に戻したと推定されます。
え、<魔獣契約>って解除できるの!?
Answer.
必要なスキルがあれば可能です。
マジか~。
しかも契約解除でパワーアップとか、アリですか?
俺もアクアとの<従魔契約>を解除したらパワーアップするんだろうか。いや解除しないけど。
Answer.
マスターはエクストラ級スキル<神格化>の効果により、神獣クラスのモンスターと<従魔契約>しない限りは魔力を消費しません。
お、おう。わかってたけど、相変わらず<神格化>はチートなスキルだな。
そんなことより、白葉だ。カイザーと違って<魔獣契約>というチカラを与えられていた彼は、既に息も絶え絶えだった。
「は、白葉! 気を確かにするのじゃ!」
「姉さん・・・あれ、僕は・・・」
「喋るな、傷に触る!」
「ああ・・・あれは、夢じゃなかったんだね。チカラに酔いしれて、暴走して、姉さんまで殺しかけた・・・」
「もうよい、もうよいのじゃ」
「なんで、あんな奴ろ<契約>しちゃったんだろう、僕は? どうしてかな・・・思い、出せ、な・・・い・・・」
「は、白葉? 嫌じゃ、嫌じゃ。妾を一人にせんでおくれ。お願いじゃ、目を開けておくれ」
紅葉が白葉を撫でる。白葉は応えない。その呼吸が小さくなっていく。
「嫌じゃ、嫌じゃ、嫌じゃあああああっ!」
「ちぃっ!」
俺達もこんな様子を黙って見ていたわけじゃない。
ハッシュベルトが無差別に放ってくる魔力弾から俺は紅葉と白葉を、アクアはカイザーとサーベルタイガーたちを、桜花は魚正宗とウルフェンを守っていて余裕が無いのである。
だが、そんなことを言ってる場合じゃない!
「どけ!」
俺は二匹を守るように立つと、白葉にポーションを二本同時に振りかけた。白葉の身体が光り、傷が癒えて呼吸が楽になっていく。直後、俺に魔力弾が降り注いだ。
「マスター!」
「ダイチ様!」
アクアと桜花が叫ぶ。
「くははははははははっ!
あの人間、狐を庇って自滅しよった・・・なに!?」
魔力弾の煙が晴れた後には、無傷の俺が立っていた。やっべー、上手くいって良かった。
俺は背中に向けて<防御壁>を発動させていた。通常は前に発動するスキルなので上手くいくか不安だったが、何とかなりました。
喰らっても死にはしないが、ダメージはあるからね。痛いのは嫌いなんで。
「大丈夫か?」
俺は呆然とするハッシュベルトを無視し、紅葉に聞いた。
「そ、そなた、何故そこまで・・・」
「助けられる命があるなら、助けるさ。っても敵には容赦しないけどな」
俺はハッシュベルトを睨む。
しかし白葉は、よく助かったな~。ポーション凄すぎじゃね?
死にかけのやつまで蘇生するとか、神じゃん。
Answer.
大袈裟です。
急激な魔力低下による魔力枯渇により低活動状態になりかけていただけで、死ぬわけではありませんでした。
・・・。
え、なんだって?
Answer.
ですから・・・
聞こえない聞こえない聞こえないぃぃぃぃぃぃ!
なんだよ、さっきの感動を返せよ!
Answer.
しかし事実を誤認していたままでは、今後の活動に支障をきたします。
ああ、まったくその通りだよ、コンチクショウ!
なんだ、この例え用のない怒りは。
「ちっ。しぶとい奴らだ」
あ、ハッシュベルトが立ち直ったみたいだ。おお、ちょうど良いところに怒りをぶつける相手がいたぞ。
「アクア!」
「了解」
呼び掛けだけで察したアクアが紅葉や白葉、桜花たちを水球に包み、自分の下に引き寄せる。そして桜花と二人で、彼らを守るように立った。
流石だね。優秀すぎて俺には勿体ないよ。
「それがどうした!? くらえ!」
ハッシュベルトは手を高々と上げ、特大の魔力弾を準備する。空に浮いてるからって、隙だらけですよっと。
俺はA級スキル<短距離転移>でハッシュベルトの眼前に移動すると、驚いた顔をしているアホの顔面に全力の一撃を叩き込んでやった。
「ぴぎゃっ!?」
変な声を出して吹っ飛んでいくハッシュベルト。おー、1キロ先ぐらいまで飛んでいって、地面に衝突した。
まあ死んでないだろう。地獄を見せるのは、これからだからな。
H28.7.27
前話までの内容に合わせて修正しました。




