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43 焦るハッシュベルト

ハッシュベルトを加えた魔公たちは、一様に口を開けたまま茫然とモニター画面を見ていた。

これから戦争が始まろうという寸前、インテリジェンス・モンスターたちはフリーズしたように動かなくなった。しかし数分後には騒ぎ始め、現れた一人の人間に二万匹のクレイジー・モンキーたちが戦闘不能にさせられた。次いでその配下らしき精霊と半妖種によって、戦争を先導していた多尾狐と金色のクレイジー・コングが簡単に倒された。

そうこうする内に彼らは男が発動したと思われる門のようなものに入り、消えてしまった。


『・・・・・・・・・』


その光景に、誰も口を開けようとはしなかった。数分の時間をおいて、議長であるロンダークが一言、


「なんだ、あの人間は?」


そう呟いた。

それで魔公たちも我に帰る。


「キャハハハハハハハッ! なにあれ、失敗したわけ!?」


「レイティアス、笑いすぎだ」


「だって、何よアレ!? 意味わかんないじゃん!」


楽しそうに言うレイティアスをギリアムが諌めるが、彼にしても事態を飲み込めないでいた。

そんな中、


「どういうことだ、ハッシュベルト?」


怒気を含んだグランゼルフの言葉がハッシュベルトに突き刺さった。


「なんだ、あの人間は!?

 戦争はどうした!?

 お前の仕込んだモンスター共は、役に立ってすらいないではないか!?」


「そ、その・・・えっと・・・あ、あれ?」


会議前は余裕を見せていたハッシュベルトだったが、目に見えて狼狽している。


「キャハハハハハハハ! ハッシュベルト、キョどり過ぎ!」


「黙れ、レイティアス!

 もうよい。役に立たなかったクズは放っておいて、私のアンデッド軍団が半漁族共を葬る様子を映せ!」


「は、はい!」


慌てふためくハッシュベルトを見て、レイティアスが更に爆笑している。



今回の作戦はハッシュベルトが提案したことになっているが、裏で糸を引いていたのはグランゼルフである。他の魔公たちはもちろんそのことを把握しており、レイティアスの機嫌が悪かったのは、それが原因だった。それが失敗したので今度は楽しくて仕方がないのである。

彼らの目論見通り魔王ヴァルヴァーレが復活すれば、一番の功労者として二人が台頭するのが目に見えていたからだ。


「早くせんかっ!」


「は、はい! ただいま!」


グランゼルフは高位の死霊術士である。この作戦は、彼らが<死魂玉>というマジックアイテムを手に入れた時に始まった。この<死魂玉>には前魔王ヴァルヴァーレの精神体が封じられており、二人に今回の作戦を伝えてきたのである。


ハッシュベルトは魔公には及ばないものの、レアなスキルを複数所持していた。これを用いてオーガ族を壊滅し、サーベルタイガーを手懐ける。そして同じく手に入れた<頂へと至る果実>でクレイジー・コングの一匹を<皇帝種>に進化させ、多尾狐は姉に劣等感を抱いていた四尾を<魔獣契約>によって<魔獣化>し内側に潜り込ませた。

そうすれば北東部は瓦解。

多尾狐をはじめとする三種同盟とクレイジー・モンキーたちは互いに潰し合う。生き残った黒狼族はサーベルタイガーに始末させ、半漁族はグランゼルフの死霊術で操ったアンデッドたちが始末する。

こうして大量に溢れ出た魂を喰らい、魔王ヴァルヴァーレが復活する。そういうシナリオだったはずだ。


それが一人の人間に止められ、彼らは笑い者にされているのである。計画の中心を担ってきたハッシュベルトは、全く計算外の事態に思考が追い付いていなかった。


「え、映像、出ます」


かくなる上は、自身の操るアンデッド軍で半漁族の棲みかを蹂躙し、少しでも失態を挽回するる。そう思って画面を見ていたグランゼルフは、映し出された映像に驚愕した。




「放てぇぇぇぇぇ!!」


見たこともない半妖種。グランゼルフは知らないが、ゴブリン・インテリジェンスの族長エルゼフである。彼の号令で、ゴブリン・インテリジェンスの大群が矢を放った。

矢は雨のようにスケルトンやグールといったアンデッド軍に降り注ぎ、爆裂して葬っていく。


「な・・・なんだ、こいつらは?」


更に森の中ではサーベルタイガーたちが縦横無尽に走り回り、アンデッドたちを蹴散らしていた。


「ゴブリン・インテリジェンスたちに遅れをとるな! 速やかに殲滅しろ!」


あれは獣人か?

サーベルタイガーたちに指示を出し、的確に迫り来るアンデッドたちを土に返している。


「ぬははははっ! もう一発だ!」


こちらは、もっと酷い。

ラルヴァほどの大男が足を地面に打ち付ける度、隆起した大地がアンデッドたちを呑み込んでいく。


王牙である。


彼は単騎で何百匹というアンデッドを相手にしていた。


「貴様らぁ! 一人あたりのノルマは忘れておらんだろうな!?

 チャーリー殿が勘定している故、誤魔化しは効かんぞ、んん~~?」


大男の言葉に、大型の半妖種たちの動きが止まった。いずれも歴戦の戦士のような風格を持つ彼らが青ざめ、ピタリと止まったのだ。しかしそれは一瞬のことで、次の瞬間には獅子奮迅の如くアンデッドたちに襲い掛かり、我先にと殲滅していく。


「カーカッカッカッ!

 ほれほれ、のんびりしておると、ワシが全て喰い散らかしてしまうぞ!」


王牙は天高く飛び上がると、隕石のようにアンデッド軍の中心に落ちていった。途端に地面が爆砕し、先ほど以上のアンデッドたちが粉々になって宙を舞う。その様子に鬼人族から悲鳴が上がる。

喝采ではなく、悲鳴である。


「族長! 何してくれるんですか!?」


「ノルマ、ノルマがぁ!」


「ひいぃぃぃっ! もう半分も残ってないぃ!」


「あっはっはっ! 地獄だ、地獄が待ってるんだ」


「オレ、族長のシゴキに耐えられたら結婚するんだ」


「やめろ! その言葉は何故か危険な気がする!!」


この映像に音声は無い。だが大型の半妖種たちは何かを諦めたような表情をしながらもアンデッドを刈る手は加速していた。

みるみる内に数を減らしていくアンデッド軍。サラサ湖に辿り着くどころか、押されて近づくことすらできない。


「な、なんだと言うのだ・・・」


グランゼルフはフラフラとハッシュベルトに近付くと、その首を締め上げた。


「なんなのだ! あの半妖種どもは!?」


「ひ! あ、あのような者達は見たこともなく・・・」


「言い訳はいい! なんとかしろ!!」


「は、はい!」


ハッシュベルトはグランゼルフから解放されると、A級スキル<長距離転移>を発動させて姿を消した。

あとには肩で息をするグランゼルフの息づかいが会議室に響く。


「・・・ロンダーク、どう思う?」


「・・・」


ジースの問いにロンダークは応えない。じっとモニターを凝視している。


「まさか、な・・・」


誰に聞かせるでもなく、ジースは一人呟くのだった。



H28.7.27

前話までの内容に合わせて修正しました。

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