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42 戦争の真実

「あの二体が、こうもあっさりと・・・」


「何者なのだ、あのニンゲンは・・・」


半魚族と黒狼族の族長は開いた口が塞がらないようだった。

とはいえ余裕をかましているが、俺も内心では驚いていた。相手の未熟さもあるのだろうが、ここまで圧倒するとは思っていなかった。流石はウチのツートップである。


しばらく呆然としていた半魚族の族長、魚正宗だったが、はっと気が付いたように慌てた様子で俺の前まで来た。


「助力、かたじけない。しかし今は緊急事態。

 礼は後にし、某たちはすぐにでもサラサ湖に帰りたいのだが、いかがか?」


「とりあえず族長だけなら、俺の転移魔法でサラサ湖まで連れていってやるから慌てるな」


「な、なんと!?」


「で、そっちが黒狼族の族長で良いのか?」


「あ・・・ああ。私が黒狼族の族長、ウルフェンだ。我に何か用か?」


「クレイジー・モンキーたちは三日ほど動けなくなるから、連中が野良モンスターに襲われないように守って欲しいんだよ」


「我らがサル共を守るだと? 笑えない冗談だ」


「そこを頼む」


「・・・理由を聞こう」


黒狼族は長年、クレイジー・モンキーたちと縄張り争いを続けていた。まさしく犬猿の仲というやつで、しかも黒狼族はクレイジー・モンキーたちに棲みかを追われてきている。


そんな相手を守れと言われても、納得できないだろう。

しかし多尾狐はそういった役目が苦手だし、半魚族は早くサラサ湖に帰りたいだろう。黒狼族が一番適任なのだ。


「理由は簡単だ。あの二匹がハッシュベルトとかいう魔族に唆されて、今回ことが起きているのは分かるよな?」


「・・・ああ」


「ハッシュベルトの目的は、この原初の大森林で大量のインテリジェンス・モンスターを殺し、その魂を集めることにある」


「魂を?」


「ああ」


「そんなことをして、どうする?」


「前魔王ヴァルヴァーレを復活させたいらしい」


『なんだと!?』


ウルフェンだけでなく、魚正宗や紅葉も声を上げた。


俺がハッシュベルトの目的を阻止したい理由。それは奴が魔王の復活を狙っていると知らされたからだ。

ガーランドを<魔獣>とし、キング・オーガに<暴走>を付与したのは、比較的安全地帯である北東部を掻き回すためである。今回のカイザー・コングと三種同盟の戦いの後、撤退した黒狼族の逃げ場を塞ぐ目的もあったのだろう。


サーベルトも俺も、奴が原初の大森林の勢力を取り込もうとしていると考えた。

しかしそれなら、サーベルタイガーのように少ない群れで活動している種族を狙うのは妙だ。しかも北東部は魔族領から一番離れている。そんな勢力を取り込んでも意味は無いのである。チャーリーさんが指摘した『致命的な誤り』というのは、このことだった。


では、ハッシュベルトは何を狙っているのか?

奴はゴブリン・ハーフの村を襲撃してきた時に「あの方」と言っていたらしい。これを聞いて俺たちはハッシュベルトが魔公の手の者であると思った。だが、それなら何故「あの方」などと回りくどい言い方をするのか?

魔公の名前を口にすれば誰の配下であるか明確になり、主の名前を広めることができるのに、だ。


そうしなかったのは、ハッシュベルトの主がこの世にいないからではないか、という仮説をチャーリーは立てた。口にしなかったのではなく、口にできなかったのである。

ではハッシュベルトよりも上位の存在で、この世にいない者として可能性が高いのは誰か?


前魔王である。


ハッシュベルトがもし、前魔王ヴァルヴァーレの名前を高らかに宣言していれば、さすがに<魔獣契約>をしたガーランドでも疑問を持っただろう。すでに存在していない者の配下になったと言われれば、士気が下がるのは目に見えている。だから名前を出すことができなかったのである。


魚正宗が震える声で俺に問い掛けた。


「し、しかし、魔王は50年前に勇者の手で倒されているはずだ」


「だから、それを復活させるんだとよ。

 精神体があれば、数千の魂を生け贄にアンデッドとして復活させることができるらしいな」


「そんなことが可能なのか?」


信じられない、という顔で魚正宗がウルフェンを見た。

ウルフェンは少し考える素振りを見せた後、


「確かに、そういった<スキル>が死霊術にあるらしいが、それはニンゲンや魔族のような存在の魂に限られるのではないか?」


「インテリジェンス・モンスターの魂なら代用できるらしいぜ。ただし、ニンゲンの五倍は必要らしいけどな」


「そんなことが・・・」


ウルフェンも驚きを隠せないようだ。


<魂>とは何か?

俺達がいた世界では抽象的なモノだったが、この世界には<魂>が確実に存在する。

それは自己を形成するものであり、あらゆる存在の源となるエネルギーであるらしい。


故に自己の確立が明確で雑じり気の少ない人間や魔族の<魂>は純度が高い。対して魔物のように<魔素>という魔力のカスに影響を受けて誕生する生物は自己の確立が薄く、本能に従って生きているので<魂>の純度が低い。

インテリジェンス・モンスターや半妖種はこの中間に位置し、<魂>に魔素が少なからず混じっている。このため純度は低いが、代用は可能なのだという。


「人間の魂なら三千程度、この儀式に必要らしい。

 だがインテリジェンス・モンスターの場合は、約五倍は必要になる計算らしいな。

 だからインテリジェンス・モンスター同士を争わせて、<魂>を集めようとしているんだ」


・・・はっきり言おう。俺には理解不能である。

だがハッシュベルトたちの目的は理解できる。ウルフェンや紅葉も理解したらしい。


魔族が魔王の復活を企み、そのために三千の<魂>を欲したとしても、それは不可能だ。

先ず<魂>は保存できない。一日と持たずに<世界>に溶けて消えてしまう。儀式に使いたいなら、その場で<魂>を確保しなければならない。


無警戒な町でも襲えば三千人分の<魂>は集まるだろう。しかし、魔族が町を襲えば人間は黙っていない。今はガスパリアとブリトニアの対立があるので魔族は放置されているが、彼らが現状で人間に弓を引けば滅ばされる可能性すらある。

しかしインテリジェンス・モンスターなら、そんな心配は要らない。秘密裏に魔王を復活させ、力を蓄えることができる。


「そんな・・・そんな理由で、魔族は我らに戦争をさせたと言うのか!?」


紅葉が激昂する。


「だから俺は、連中の思い通りに<魂>を回収させたくない。ここにいる誰の<魂>でも、だ」


自分達とは別のところにある思惑で命が危険に曝される。

状況は全く違うが、異世界に召還されて戦争に巻き込まれそうになっている俺達に似ていなくもない。


それに魔王なんてものが復活してしまったら、あいつらクラスメイトたちが戦う理由ができてしまう。打倒魔王という大義明文が。それは避けたかった。


俺はウルフェンの目を真っ直ぐに見た。ウルフェンもまた、真っ直ぐに見返してくる。

数秒は、そうしていただろう。やがてウルフェンは溜め息を一つついた。


「・・・にわかには信じがたい話だ」


「ウルフェン。妾からも頼む。

 この男は、瀕死だった妾を救っている。行動にも一貫性がある」


「信じないとは言っていない」


そう言うと、ウルフェンは遠吠えを上げた。おそらく彼のユニーク級スキル<黒狼の咆哮>だろう。

声を聞いた黒狼族が続々と森に入っていく。


「すまん。助かる」


「我らは一族の損害を無くしてくれた御仁に借りを返したいだけだ。亊の顛末は見届けさせてもらう」


おそらく、自分も半魚族についてサラサ湖に行くという宣言なのだろう。

こちらとしても、都合が良い。ハッシュベルト本人に説明してもらった方が事の真相が明らかになるはずだ。


「多尾狐よ! 妾は、いま少し留守にする!

 黒狼族を助け、猿供を守れ! 一匹も死なすでないぞ!!」


紅葉が【エコー】の魔法で多尾狐たちに指示を出した。


「黒狼族を信用しないわけではないが、手は大いに越したことはないじゃろう?」


「ああ。助かる」


種族同士の話し合いは済んだみたいだな。


「なら、そろそろ行くぞ。いい加減、半魚族の族長が何か言いたそうにしているからな」


身体をそわそわさせていた魚正宗は頷いた。そして彼は紅葉に頼み、【エコー】で半魚族に指示を出す。


「某は一足先に、彼らとサラサ湖に戻る! 全軍、サラサ湖に戻れ!」


この声で、静かだった平原は慌ただしく動き始めた。


「さあ、いくぜ。【ゲート】オープン」


俺は魔法【ゲート】を発動した。

門のようなものが出現し、その向こう側はマーブル色の空間が広がっている。


空間転移魔法【ゲート】は俺の【オリジナル・スペル】で、マーキングした場所を転移門で繋げることができる。一度行った場所にしか転移できないが、数名を転移させることができる便利な魔法だ。もちろん開発者はチャーリー先生である。


「さあ、クライマックスといこうか」


俺はゲートに向かって歩き出した。




H28.7.27

前話までの内容に合わせて修正しました。

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