40 アクアVS白葉
「この僕に楯突いたことを後悔させてやる!」
白葉は<狐火>を発動した。
多尾狐族のユニーク級スキル<狐火>は【魔法で】はない。攻撃スキルなので魔力は消費するが、詠唱無しで発動できる強力な攻撃手段だった。
しかし無数の<狐火>はアクアに届くことは無かった。
アクアが既に展開している【ウォーターシールド】によって無効化されたからだ。
「ちっ! やはり水の精霊か!」
勘違いされることが多いが、外見が似ているだけでアクアは精霊ではない。スライムの<先祖帰り>である。
しかし面倒くさがりのアクアは訂正することをイチイチしない。最近は精霊でもいいやなどと思い始めているぐらいらしい。
「ふふん。水の精霊が僕に勝てるわけないだろう。甘いんだよ!」
言うまでもないが、火属性と水属性は相性が悪い。相反関係と言って、対立する属性なのである。
水は火を消し、火は水を枯らす。
土は風に触れることはできず、風は土の恵みを知らない。
光は闇を照らすが、闇は光を閉ざす。
つまり互いに弱点となる属性であると言うことなのだ。火属性を相手に水属性の攻撃が有効であるように、水属性の相手には火属性が有効なのである。
ただし火属性は攻撃に特化しており、水属性は守りに特化しているという点が特長的である。火属性を得意とする白葉と水属性のアクアは相性が最悪の組み合せなのだが、強力な魔法攻撃を有する火属性の自分が有利だと白葉は考えてるようだ。
その自信がどこから来るのか、小一時間ほど問い正したい。いや、面倒だから、やっぱりしたくない。
「くらえ! 【フレイムランサー】!」
十数本の炎の槍がアクアに向かう。
炎の槍は【ウォーターシールド】を突き破るが、アクアに辿り着く前には消滅した。【ウォーターシールド】を何層にも傘ね掛けし、威力を殺したのである。
「ちっ! ならば特大の魔法で障壁ごと消し飛ばしてやる!」
そう言って白葉は詠唱に入り、完全に無防備な体制になった。
やっぱり阿呆だ。そんな隙、見逃すわけがない。
アクアは周囲に浮かべていた水の球を噴射するように伸ばし、槍のようにして白葉を攻撃する。白葉は詠唱を中断して回避に追われた。
「くっ! 大人しくしていればいいものを!」
黙って殺されるバカがどこにいる?
なんというか救いようがない。
「ならば、これでどうだ!?」
<狐火>を発動させる白葉。<狐火>は発火と同時に爆発し、周囲に爆煙を撒き散らした。
煙幕か。考えたな。
白葉は転移して距離を取ると、詠唱を完了させた。
「これで終わりだ! 【フレイムブラスター】!」
熱線が火を吹き、アクアの立っていた位置を吹き飛ばした。
確かにあの威力なら、【ウォーターシールド】も突破できたかもしれないな。そこにアクアが立っていればの話しだけど。
「あはははは! 欠片も残さずに蒸発した―――ぐはあっ!」
高笑いしていた白葉が吹き飛んだ。横から飛んできた大きな拳に殴り飛ばされたのだ。
「な、なん・・・ごはあっ!」
更に拳は白葉に襲い掛かる。一発、二発、三発って、大丈夫か?
「ごふお!」
数十発の拳が嵐のように、白葉の身体を滅多打ちにする。
止めとばかりに決められたアッパーで白葉の身体は宙を舞い、地面に叩き付けられた。白目を剥いて、ピクピクしてる。なんとか生きてるみたいだ。絶妙な瀕死具合だな、おい。
「白葉!」
紅葉が白葉の元に駆け寄った。その傷を見て真っ青になる。そして暴虐の限りを尽くした相手を見上げる。
アクアのことを。
「水の精霊よ、こやつはもう死に体じゃ!
後生じゃから止めは刺さんでやってくれぬか?」
っ!?
弟を前に立つ紅葉の姿が、母さんを思い出させた。
「ん。もともと殺すつもり、ない」
「本当かえ?」
「マスターの命令だから。【アクアプリズン】」
アクアの力ある言葉に従い、水球が白葉を包み込んだ。
「でも抵抗できないように、閉じ込めさせてもらう」
「十分じゃ。すまぬ」
紅葉は俺の方を見た。
「ダイチ殿も、かたじけない。本当にすまぬ」
「いや、別に構わねーよ」
なんとなく紅葉を直視出来なかった俺は、視線を逸らしながら言った。
しかしこの時、俺は気が付いていなかった。紅葉の畏れとは違う熱っぽい視線に。
H28.7.27
前話までの内容に合わせて修正しました。




