04 異世界転移
ホワイトアウトした視界が徐々に晴れ、視力が回復してくる。
まず目に飛び込んできたのは、白い壁だった。染み一つ無い、真っ白な壁。
「・・・?」
視線を移すと、大きなステンドグラスの窓が見えた。
そして、その前に立つ一人の少女。
年齢は俺と変わらないぐらいだろう。淡いスカイブルーの長い髪に、きらびやかなティアラを身に付けている。
着ているものは彼女の髪よりも薄いブルーのドレスで、ファンタジー作品でよく見るような、お姫様か貴族に見えた。
強い意思を感じさせるが、どこか悔しさも滲ませた瞳。欧米人に近い印象を受けるが、何かが違うような気がする。
「ここは・・・?」
視力が戻り、周りを見渡す。俺は一人ではなく、周囲には文化祭の準備であの教室に集まっていたクラスメイトたちが同じように辺りを見渡していた。
三島や一条、委員長に・・・間違いない。俺を含めた16人、全員がいる。
「どこだよ、ここ・・・?」
誰かが誰に尋ねるでもなく呟いた。それはここにいる全員が抱いている疑問だろう。
俺は自分の置かれている状況を確認するために、素早く周りを見渡した。
白く丸みのある壁。天井を見上げ、その形状からドームのような建物の中にいるのだと推測した。
出口は目に見える範囲で一つ。かなり広い建物で、何かスポーツの大会でも開催できそうな総合体育館並みの広さがある。
しかし、それより問題なのは壁沿いに並んで立っている完全武装の男たちだ。
白い鎧と赤いマントに身を包み、親の仇でも見るような険しい目付きをしている。腰に下げている剣が本物であるなら、俺達は完全武装の男たちに包囲されていることになる。
状況は全く理解できないが、自分達が危機的な状況に置かれていることは理解できた。
「勇者さま方!」
凛とした声が響く。
先ほどのお姫様が声を発したのだ。
彼女は祭壇らしき場所から降り、俺達の目の前まで来ると膝をついて祈りを捧げるように手を組んだ。周囲がざわめく。
「突然のことに戸惑われていることでしょう。私の名はリーゼロッテ=ヴァン=ブリトニア。我がブリトニア王国の王、クリストファー=ヴァン=ブリトニアの娘にございます」
彼女の優雅な動作とは裏腹に、周りを囲む男たちは右往左往している。
「そして、皆様をこの世界、アークノギアに呼び寄せた召喚師でもあります」
場が凍り付いた。
俺達は相変わらず状況が飲み込めず混乱しているが、あちらさんは別の意味で混乱しているようだ。リーゼロッテと名乗る姫君の行動に、いちいち動揺している。
「私たちが皆様を召喚させていただいたのは───」
「控えよ、リーゼロッテ」
荘厳で低く、有無を言わせない迫力のある声だった。
祭壇らしき高めの台とは別の高台に腰掛けていた壮年の男が冷徹な目で俺たちを見下ろしていた。
「事後の説明についてはゲルオグ将軍の担当であるはず。出過ぎた真似をするな」
「・・・失礼いたしました」
「良い。召喚の儀を行い、そなたも魔力を使い果たし疲れているであろう。下がるがよい」
「いえ、わたくしは・・・」
「余は下がれと申している」
「はい」
お姫様は数人の男たちに囲まれ、奥へと引っ込んでいった。どうやら見えている出口とは別の出口があるようだ。
「ゲルオグ将軍」
「はっ!」
名前を呼ばれ、他の男たちとは見るからに鎧の装飾品が多い中年の男が前に出てきた。
あの美少女が姫様ということは、あの椅子に座っている男は国王ということか。
「私はブリトニア王国軍将軍ゲルオグ=ロングゲートである! 諸君の状況について説明する!」
先程の姫様と違い、彼の声は大きく威圧感があった。
「先ず諸君が現在いる場所は、ブリトニア王国に設けられた“召喚の間”である! 我らは先程の姫君、リーゼロッテ様の秘術により諸君を我らの住む世界、アークノギアに召喚した!」
誰かの息を飲む声が聞こえた。そして何人かが俺を見た。
異世界召喚なんてファンタジーだし、そんなことを信じる年でもない。
だが俺たちの状況は、それを否定できない。
何人かのクラスメイトが俺を見たのは、俺が漫画家を目指しており厨二病だと思われているから何となく頼ろうとしたのではないかと思う。
検討違いだけどな。俺にしても混乱してることに変わりはない。
「君たちを召喚した理由は、ただ一つ。アークノギアが魔王によって滅びの際に立たされているからだ!」
なんというテンプレな理由だ。
「諸君ら異世界人には、我らよりも特異で希少なスキルを持つ者が多い。また高い身体機能を持つと言われている」
またまたテンプレな。誰かが「何のゲームだよ」と呟いた。まったくの同意見だ。
「つまり諸君は魔王を倒すための切り札、勇者だ! 今後は軍部に所属し、訓練を積んで来るべき戦いに備えてもらう。以上だ! 何か質問はあるかね?」
つまり俺たちは軍隊に所属し、戦いのための訓練を受けることになるわけか。
RPGなら「行け! 勇者よ!」みたいな感じで送り出されるのだろうが、現実はそういうわけにはいかないということか。
しかし、何か違和感を感じるな。
「あの・・・」
静まり返るクラスメイトたちだったが、委員長が挙手した。
「た、戦いって、モンスターとか、そういうのと戦うってことでしょうか?」
「そうだ」
ゲルオグ将軍の言葉に、委員長は目に見えて青冷めた。
「そ、そんな! 私たちは只の高校生です! そんなことできません!」
「こうこうせい?」
余裕なく叫ぶ委員長に対し、ゲルオグ将軍がピクリと頬を動かした。
そういえば異世界の人間と普通にコミュニケーションが成立している。俺たちの世界では、国どころか民族や地方単位で言葉に差違があるが、会話が成立しているのは何故だ?
固有名詞で通じない部分もあったみたいだが・・・
取り乱す委員長の肩を叩き、三島が一歩前に出た。
「三島順平と申します。発言しても?」
「許可する」
「ありがとうございます。彼女の言ったことを簡潔に述べますと、僕たちはしがない一般市民です。しかも争いのほとんど無い平和な世界から来た成人もしていない学生です。それでも戦わなければなりませんか?」
「・・・諸君の年齢は?」
「高校2年生―――いえ、16から17才です」
「この世界の成人は遅くとも14才だ。諸君は立派な成人と言える」
なんとなく予測していたが、設定は中世のヨーロッパに近いのか?
「平和な世界から来たというのは考慮するが、この世界は魔王の脅威に晒されているため戦時体制にあると思ってほしい。気持ちは汲むが、我らの世界の理に従ってもらおう」
「それは女子も同様ですか?」
「この世界の兵士は男が多いが、女であっても戦える者は戦力だ。例外はない」
女子たちが言葉を失う。
「ふざけるな!」
声を上げたのは三島ではない。男子生徒の一人だった。
あれは天堂光輝じゃないか。
「勝手に拉致しておいて危険な戦いに参加しろだって? お前たちに何の権利があって、そんなことを言っている!?」
天堂は生徒会の副会長をしていたな。正義感の強い奴だが、あいつの熱血な部分が俺は少し苦手だ。
「権利、ときたか。諸君に、そんなものがあるとでも?」
「なんだと!?」
「兵役は市民の義務だ。それに我々は諸君の命を救っているのではないかな?」
「・・・どういうことだ?」
「異世界召喚できるのは、誰でも良いと言うわけではない。命の危機が迫り、世界との繋がりが薄くなっている者でなければならない。心当たりは無いか?」
「それは・・・」
そうだ。
俺たちは地震で倒壊した校舎の中にいた。もし異世界に召喚されていなければ、今頃はあの世で再会していたことだろう。
「心当たりがあるようだな」
「けど・・・!」
「天堂。落ち着け」
三島が天堂をなだめる。
「先程も言いましたが、僕たちは一般市民です。戦い方を知りません。そんな僕たちが魔王と呼ばれるような存在を倒せるとは思いません」
「それについては、先に説明した通りだ。諸君は戦いに適した<スキル>を所持しているはずだ」
「その<スキル>というのは【魔法】のようなものでしょうか?」
「【魔法】の概念を知っているのか。【魔法】は存在するが、<スキル>は別物だ。言葉で述べるよりも見せた方が早いか」
ゲルオグ将軍は部下に目で合図した。部下たちは口々に何かを呟くと、
「【ボム】!」
力強い言葉を発し、それと同時に火の玉が飛び出し別の部下に着弾。爆発した。
「ひっ!」
女子が小さく悲鳴を上げるが、煙が晴れると無傷の部下が立っていた。
「今のが【魔法】だ。魔力を素に魔法陣と呪文の詠唱により奇跡を起こす秘術だ。ちなみに火球を防いだのも【魔法】による障壁だ。次!」
「はっ! <天馬>!」
別の部下が叫ぶと、彼は何もないはずの空間を蹴り、天井まで上がって降りてきた。俺達は口を半開きにしたまま固まっている。
「今のが<スキル>だ。【魔法】と同じく魔力を素にしているが、効果をイメージするだけで発動できる分、【魔法】よりも使い勝手が良い」
正しくファンタジーである。
「諸君も同じような<スキル>を所持しているだろう。我々よりも、もっと強力なものをな」
「し、しかし、どんな<スキル>を使えるのか、私たちは知りません」
「それについては問題ない」
ゲルオグ将軍は半透明の板のようなものを取り出した。
「これは<ステータスプレート>という魔道具だ。誰が、どういった<スキル>を所持しているか、どの程度の強さなのか数値化して確認ができる」
便利アイテム来たよ。
「これで各人のステータスや<スキル>を確認し、訓練してもらう」
「・・・拒否した場合は?」
ざわり、と周囲の空気が変わる。
「・・・諸君は国家機密に相当する。よって軟禁に近い形で拘束させてもらう」
再び声を上げようとする天堂を三島が制止する。
「逆に従うのであれば衣食住と身分の保証を与えよう。まあ行動に制限は伴うし、王宮で生活してもらうことになるのは変わらんがな」
「わかりました」
三島は皆の方を見た。
「みんな、ここは彼らの言う通りにしよう」
「正気か、三島!?」
「なら天堂。お前、右も左も分からないような世界で、どうやって生きていくんだ?」
「それは・・・」
「先ずは情報を集めよう。そして、生きていけるだけの技術を身につけるんだ」
「・・・」
みんなは三島の話を黙って聞いていた。
「そして元の世界に帰る方法を皆で探そう。全員で帰るんだ」
その真っ直ぐな視線に、クラスメイトたちはウンウンと頷いていた。
さすが三島だな。こいつが勇者だったとしても、みんな納得するだろう。
修正
次話は、明日投稿します。
しばらくは、月・水・金の週3回投稿にしてみます。
ストックが少なくなったら、また検討。
方向性がブレブレですいません。




