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35 三種同盟

「これは何の冗談か?」


多尾狐からの緊急会議の召集を受けて馳せ参じた半魚族の長、魚正宗は不快感を滲ませながら言い放った。見れば黒狼族の長であるウルフェンも似たような顔をしている。

その理由は、彼らの前に座ったのが五尾姫の紅葉ではなく、別の多尾狐だったからだ。


「悪いね。五尾姫こと紅葉はカイザー・ゴングとの戦に恐れを為して逃亡したよ」


「バカなことを申すな」


魚正宗は鼻で笑い飛ばした。

あの高飛車な雌狐が逃亡?

有り得ない。


「大した問題じゃないさ。多尾狐には六尾となった僕、白葉がいるからね。新しい族長として、挨拶でもしようか?」


「ほう。お前が五尾姫の弟で、魔族の小飼いとなった多尾狐か」


ウルフェンもまた、白葉に鋭い視線を向けた。白葉の後ろに控える三尾の多尾狐が青い顔をしている。


「<魔獣>になった者が族長だと?

 笑わせるなよ。我らの不文律を忘れたのか」


原初の大森林に棲むインテリジェンス・モンスターたちは互いに勢力争いをしてはいるが、どこかの勢力には属さないという暗黙の了解があった。それは、彼らの主が真の魔王と呼ばれる存在であるという忠誠心の現れである。


魔族が自分と契約し、<魔獣>となればチカラが増すことは承知している。しかし族長クラスが<魔獣>になるということは、一族すべてがその配下に下るという意味でもある。

それは真の魔王に対する裏切り行為であり、反逆に近いと考えられていたのだ。


しかし、


「真の魔王なんてお伽噺、まだ信じているのかい?」


白葉は事も無げに言い放った。

その言葉に魚正宗とウルフェンから殺気が滲み出る。


「貴殿、いま何と・・・ぐうっ!?」


たまらず魚正宗が立ち上がろうとするが、凄まじい<威圧>を受けて抑え込まれる。

威圧の主は、言うまでもなく白葉である。


「真の魔王なんて呼ばれているけど、300年も前に勝手に突然姿を消したんだろ?

 その頃を知る者は竜種ぐらいだろうけど、眉唾物じゃないのかい。魔族はおろか、ニンゲンや半妖種まで別け隔てなく接し、支配したなんてさ」


「我らの魂には、あの方の記憶が確かに残っている。かの王を愚弄するな!」


「ああ、君たち黒狼族は過去の記憶を引き継げるんだっけ?」


「ぐああっ!」


ウルフェンに対するプレッシャーが強くなる。


「でも、それもどうだろうね。いくら魂に刻まれているからって記憶が劣化しないわけじゃないだろう?

 伝承と記憶を混同している可能性は高いと思うけどな」


「ふ、ふざけるなよ。きさま・・・」


「あはは! 流石は族長クラス。かなり強い威圧を叩きつけているのに、まだ話せるんだね。

 まあ、昔にいたかもしれない真の魔王なんて、この際どうでもいいんだよ。偉大なハッシュベルト様すらも従える魔王。その方が僕たちの王となるのだから、真の魔王様は新たに現実のものとして降臨するのさ。そして僕は原初の大森林を統べる存在となるだろう」


なにを言っているのだ、こいつは?

魚正宗は本当にレックスの言っている意味が理解できなかった。ただ、白葉が三種族の同盟を破り、自分達を従えようとしていることは分かった。


「手始めに無能な猿共を粛清してあげるよ。この戦、全面的に僕が指揮をとるからね」


ばかな!


魚正宗は口に出せないが、心の中で絶叫した。五尾姫なら各種族との連携を密にし、指揮についてはウルフェンに任せただろう。

これだけの規模の戦である。軍隊のように統率がとれ、<魂の継承>により豊富な知識と経験を引き出せる黒狼族が最も適任だ。


大将を多尾狐に据えるのは異論無い。

しかし全軍の指揮という点では、個体の優位性で活動してきた多尾狐には不向きな役割だ。


「誰からも反対は出ないね。じゃあ、よろしく」


<威圧>で黙らせ、満面の笑みを浮かべて白葉は一人納得するのだった。





H28.7.27

前話までの内容に合わせて修正しました。

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