30 オーガ姫の涙
「マスター!?」
俺が倒れると、慌ててアクアが駆け寄って来た。
「大丈夫、大丈夫。ちょっと疲れただけだから」
パタパタと手を振りながら起き上がり、無事なことを伝えると、アクアは安心したように微笑んだ。
「貴殿はメチャクチャだな」
桜花も隣に立っている。
「いやあ。アンタの親父さん、強かったぜ」
「・・・殺したのか?」
「いんや。付与されていた<暴走>の状態異常が解除されて、動けなくなってるだけだ」
「そうか」
オーガ姫は手にした大剣を握りしめると、キング・オーガに歩み寄った。
「さらばです。父上」
そして大剣を振り下ろそうとする。
「何すんだよ?」
その手を俺が止める。
「なぜ止める?」
「質問したいのは俺だ。なんで殺す?」
キング・オーガを殺すならチャーリーを<解析>に回す必要は無かった。燃費は悪いが、<魔剣:新月>を使えば一瞬でカタもついただろう。キング・オーガに死なれると困るから、こんな苦労をしたんだ。
「父は守るべき一族の者達を傷つけたのだ。粛清されて当然だろう」
「だが誰も死んでない」
「それは結果論だ。貴殿も里を見ているだろう。瀕死の重症を負った者もいた」
「あの時も言ったが、オーガには再生能力があるだろ。死ぬことはなかったはずだ」
桜花の腕に力がこもるが、俺は手を離さない。
「しかし魔物に襲撃を受ければ、どうなっていたか分からん」
「お前たちがキング・オーガの討伐に拘らず、里を守っていれば問題なかったはずだ。それにオーガの里を襲うような魔物はいないだろ」
俺が引かないと悟ったのか、オーガ姫は俺を真っ直ぐに見据える。
「これはケジメの問題だ」
「なら、そのケジメとやらは魔族のハッシュベルトに取らせるべきだ。奴がキング・オーガに<暴走>の状態異常を付与したことが原因だからな」
「<暴走>?」
「理性を飛ばして、モンスターみたいに暴れ回るようにする状態異常だ。オーガ達を傷つけたのは、キング・オーガの本意じゃない」
「そんな綺麗事でカタがつくと、本気で思っているのか?」
「なら<暴走>状態のキング・オーガから攻撃を受けて、里に死者が出ていないのは何故だ?
無謀に挑んだお前たちが殺されていないのは何故だ?」
桜花が答えに詰まる。
「キング・オーガが何とか残った理性で手加減したからだろ。
普通、できるもんじゃないらしいぞ。大した精神力だ」
俺は続ける。
「霊峰シルバーピークに向かったのも偶然じゃない。噂に聞く神龍王なら自分を殺せると思ったんだろ。意識を保てる内に、被害を最小限にするためだったんだよ」
桜花はキング・オーガを見た。
「・・・そうなのか、父上」
キング・オーガは答えない。
「こんなリーダー、なかなかいないぜ?
良い奴だろ。そんな奴を殺すのか? それがケジメなのか?」
桜花は答えない。
しかし―――
「無理するなよ。本当は、泣くほど嫌なんだろ?」
そこで初めて、桜花は頬を伝う涙に気がついたようだった。
「姫様・・・」
彼女に付いてきた三体のオーガも、固唾を飲んで見守っている。
「そのニンゲンの言葉には、説得力があります」
「我らは・・・良き長を持ったと誇りに思います」
「ですから、無理はなさらないで下さい」
桜花が大剣を落とした。
キング・オーガの攻撃を受けても手放さなかった大剣を。
「父上・・・私は・・・」
溢れる涙を止めることもできず、桜花はキング・オーガに寄り添った。
キング・オーガは静かに頷いた。
「うわああああああっ!!」
桜花が堰を切ったように泣き出した。彼女もハッシュベルトが付与した<暴走>によって、リーダーとしての重責を背負わされていたのだろう。
ひとしきり泣いた後、落ち着いたのを見計らってポーションを渡してやった。
キング・オーガも回復する。
「・・・世話をかけた。ニンゲンよ」
「気にするな。俺も俺の都合で動いただけだ」
回復した途端、頭を下げるキング・オーガ。
「・・・一つ、聞いてもよいか?」
「なんだ?」
「なぜ我らを助けた?」
「言っただろ。ハッシュベルトとかいう奴の思惑を阻止するためだ」
「だとしても、このような面倒を背負うことは無かったはずだ。死の危険を犯してまで為すべきことだったのか?」
そう言われると、確かに疑問だな。
「しかも単独でオーガの最上位種である我を素手で圧倒するなど、噂に聞く勇者ですら難しいはずだ」
そうなのか?
「勇者なら、魔物を助けるようなことはしないだろうが、な」
う~ん。
その辺りの事情を説明するのは、ちょっと面倒なんだよな~。
答えに窮していると、キング・オーガの方で勝手に解釈したようだ。
「貴殿は・・・まさか・・・」
・・・ん?
この流れ、なんか前にもあったような・・・。
「まさか・・・魔王様、なのか?」
やっぱりぃぃぃぃぃ!!
いや、桜花!
はっとして顔を上げた後に熱っぽい視線を向けるのを止めろ!
待て!
待て!!
そこの三体、膝まついて頭を下げるな!
さっきまで空気だっただろ!
Report.
オーガ、ならびにキング・オーガより<眷属化>の申請を受け付けました。
「親愛なる魔王よ。我らを、オーガ一族を、何卒貴方様の配下に・・・」
何故だ?
何故、こうなる!?
俺は天を見上げ、どうにもならない状況に溜め息をついたのだった。
H28.7.26
前話までの内容に合わせて修正しました。




