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03 放課後の厄災

昼休みを終えると、5・6限目の授業があって放課後になる。


5限目の古典は、やはり寝てしまった。

古典の担当教師は60手前の爺さんで、頭の丸さと薄さからマメ球のアダ名で親しまれている。

一本調子で読み上げられる古語は子守唄にしか聞こえず、昼食直後の授業では眠りにつく者が続出する。俺もその中の一人になったわけである。


放課後になると周囲は慌ただしくなる。今は文化祭の時期なので、いつにも増して活気がある。

クラスの出し物を準備する者、クラブ活動に出る者、いろいろだ。


ウチのクラスではケーキをメインにした喫茶店をすることになっている。

食べ物を扱う出し物についてはチェックが厳しい。衛生上の問題があるからだ。


だいたいは単一で管理のしやすい出店形式の出展が多いが、喫茶店という性質上、冷蔵庫は必須。

しかも屋内を希望したため、俺たちのクラスは別校舎にある家庭科調理室で出店することになっている。

やや文化祭の中心地からは外れるものの、その分落ち着いた雰囲気を演出できると女子からは人気だった。


ちなみに別校舎は三階建てで、昔は一年生が利用していたらしい。

しかし少子化の影響で生徒数が減り、新校舎ができてからはそちらで基本的に授業をすることになった。

それが20年ほど前の話で、それ以降は文化系のクラブが部室に使用したり、副教科の教室に使用されたりしていた。

しかし一昨年にクラブの部室棟ができてからは副教科の教室も本校舎に移っており、別校舎は来年に取り壊しすることになっているそうだ。


そんなこともあって、別校舎は俺たちのクラスが独占していた。他のクラスの連中は準備を本校舎でしているし、文化系のクラブは部活棟で活動している。

それならばということで、遠目からも分かりやすいよう看板は大きいものを作り、三階から下げるということになった。

俺はその看板に描く絵と文字のデザインを頼まれ、画用紙に描いたものを以前に渡している。


「どうだい?」

「う~ん」


俺は目の前にある看板を目にして唸っていた。俺が描いたデザインだが、かなり簡略化されている。

確かに、こんなバカデカイものに描くのだから、複雑な線までは手が回らないだろう。加えて色もペンキで塗っているので微妙な色の違いが出せていない。

キャンパスに描くのとは違って、もっと単純にした方が良かったのだろう。


俺は、そういった類いのことを一条に説明した。


「いま完成しているところまでを基本にして、デザインし直してみる。すまんが、作業を中断させておいてくれ」


俺は看板が見渡せる場所に陣取り、完成しているところまでをキャンパスに再び描いていく。そして今度は複雑にならないよう、単純な色で表現できるように仕上げていく。

一条や看板製作の生徒と何度か打ち合せし、デザインを決定。完成していた部分を手直ししつつ、仕上げていった。

看板の製作が遅れていたこともあり、徐々に作業を手伝う人数が増えていった。俺も作業が気になったし、細かい打ち合わせも必要だったので、その後の作業にも参加した。


数日が過ぎ、明日が文化祭という日に完成した。

三階から吊り上げ、外から確認する。うん、自分で言うのも何だが、まあまあの出来映えである。ひとしきり感想を述べ合い、片付けのために三階に戻る。もう陽が傾いていた。


「みんな、お疲れ!」


そこで委員長たちがケーキを差し入れに持ってきてくれる。明日から売り出すレアチーズケーキである。

試食ということで、最後まで作業を手伝っていた全員がケーキを口にする。


「スッキリとした甘さで美味いな」

「ああ。委員長を含めて、女子の間でお菓子作りが流行っているらしい。それで出し物を喫茶店にしたらしいな」

「お菓子作りか・・・」

「どうした?」

「いや、ちょっとな」


少し遠い目をした俺に、三島は訝しげな視線を送っている。


「はいは~い、ちゅうも~く!」


一条が大きな声で周囲の注目を集める。ガヤガヤとしていた教室が一時的に静かになった。


「ありがとう、冴ちゃん」


委員長が一歩前に出る。


「いろいろ大変なこともあったけど、無事に明日の準備も終わりました! 明日、明後日と忙しくなると思うけど、みんなで協力して―――」


―――ん?

なんだ、いま―――揺れた?

そう感じた次の瞬間、


「っ!?」


下から突き上げるような衝撃。次いで激しい揺れを感じた。


「きゃああああああああ!!」


誰かの悲鳴が聞こえた。

何が起きているのか理解できず、その場にしがみつくように皆が動けなくなる。

揺れは続いていた。たったの数秒が、何十分という時間に感じる。


「じ、地震だ! みんな、外に・・・!」


三島が声を張り上げたが、周囲の悲鳴や物が倒れる音で誰の耳にも届かない。

そして俺は、その瞬間を目にした。



ピシッ!



俺たちがいる教室。その床に亀裂が走るのを。



ピシッ!

ピシピシッ!



亀裂は細かいものだったが、次第に数を増やしていく。その間も揺れは止まらない。


(おいおい。マズイぞ、これ!)


かつて感じたことのないような揺れ。

危機感を抱きながらも、動けないし声すら出ない。

亀裂は細かいものが合わさって大きなものに変わり、同じ教室内にいるにも関わらず高低差が発生していた。


・・・ちょっと待ってくれ。


ここは三階だ。もし床が崩れたら、洒落にならない。

俺は今朝のニュースを思い出して戦慄した。全国の学校で校舎の耐震化が必要になっているというニュースだ。

その間にも亀裂は大きくなり、揺れは続いていた。そして―――



ガガガガガガガガガ!



凄まじい轟音が鳴り響き、床が動いた。

窓が割れ、壁が崩れて天井が落ちてくる。

校舎が傾いているのだと、何故か直感した。


(これは助からないな)


そして同時に分かってしまう。自分の命が、ここで終わるのだと。

周りには泣き叫ぶ者、呆然とする者、なんとか逃げようとする者と様々だった。


(くだらない人生だったな)


何を成すこともなく、何も残せず。俺は自分の人生の感想を抱くと、静かに目を閉じた。


死ぬのが怖くないわけじゃない。ただ死にそうになるのが初めてでなかっただけの話だ。


俺は自分の命を諦めて―――そして気がついた。

いつまでたっても、痛みどころか衝撃も来ない。

うるさかった音が消え、静かになっていた。逆に暖かい温もりと、奇妙な浮遊感に包まれている。


「え・・・?」


目を開けると、俺は―――いや、俺達は真っ白な空間の中にいた。


もう死んだのか?


三島と目が合うが、言葉が出てこない。周囲のクラスメイトたちも同じような感じだった。

そして突然、本当に唐突に巨大な門が現れた。門は勝手に開くと、俺たちを吸い込んでいく。


「っ!?」


成す術なく、その門に吸い込まれた後、まばゆい光に包まれ俺の視界はホワイトアウトした。

その時、俺は確かに聞いた。

機械的だが優しい声を。



WELCOME HOME. My MASTER.





第一部が完了するまでのストックがあります。

トラブルがなければ、連載できる・・・はず。

週1回程度の更新で、じっくりやっていければと考えています。

よろしくお願いします。

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