28 戦いの予感
オーガ姫が里を出た後、俺とアクアも彼女たちの後を追って里を出た。もちろん、キング・オーガのところに案内してもらうためだ。
霊峰の麓でキング・オーガがタイラント・ドラゴン四体を圧倒したことには舌を巻いたが、桜花の戦い方はいただけなかった。あの魔剣は強力なようだが、明らかに使いこなせていない。
まあ見た感じ、魔法には不馴れみたいだし当然と言えば当然か。
あっという間にボロボロになってしまう。
たぶん放っておいても止めを刺されることはないと思うが、念のためだ。オーガたちに恩を売っておくのも悪くない。
そんな思惑もあり、岩壁にめり込んだ桜花を守るようにしてキング・オーガの前に立つ。後ろで桜花が何やら喚いているが、アクアが黙らせていた。
アクアが防御魔法を展開する。
これで後ろは気にせず戦えそうだ。
グッジョブ、アクアさん。
俺はキング・オーガに歩み寄りながら、そのステータスを確認した。
個体名:王牙
種族名:キング・オーガ
レベル:101
危険レベル:オレンジ
状態:暴走
いつぞやのタイラント・ドラゴンと同じ、状態異常の<暴走>が付属されている。
おそらく、これが魔族ハッシュベルトの力なのだろう。スキル<暴走付与>というらしい。
理性と引き換えに爆発的なステータスの上昇を与える。
いわゆるバーサク状態に近いそうだ。
この状態になると破壊衝動が抑えられなくなり、手当たり次第に暴れまわる。解除する魔法は無く、一度この状態になると丸二日は暴走状態が続くそうである。
しかも暴走状態が終わると、三日間は反動で動けなくなるらしい。
つまり、このキング・オーガの未来は、暴走状態で誰かに倒されるか、暴走状態が終わった後に動けなくなったところをモンスターに殺されるかのどちらかである。
おそらく、それがハッシュベルトの思惑なのだろう。この森で最も厄介な戦力の瓦解を狙ったのである。
ならば、そんな思惑は叩き潰す!
俺はキング・オーガの目の前に立った。
「ガアアアアアアアアッ!」
雄叫びを上げて拳を降り下ろすキング・オーガ。
おそらく手加減されているであろうその一撃を、俺は片手で受け止めてやった。
自分の力を示すために。
案の定、驚いた顔をしている。
隙だらけの腹に<閃光拳>を叩き込んでやった。<吹き飛ばし>の効果を付与するのも忘れない。
キング・オーガは数百メートルほど吹き飛んでいった。
今の内だな。
チャーリー、頼んだ。
ALL Right.
ステータス異常<暴走>の<解析>に入ります。
私のサポートが無くなりますが、本当によろしいですか?
構わない。
ALL Right.
お気をつけて。
さて、戦りますか。
チャーリーにはキング・オーガにかけられた<暴走>の解除を頼んでいる。スキルの<解析>や<複製>ができるなら、<解除>も出来るんじゃないかとチャーリーに聞いたところ、「可能です」という回答が返ってきた。
しかしスキルの<解析>作業を開始すると、他の作業―――つまり俺の戦闘をサポートすることができなくなるらしい。
これは確かに痛手だが、逆に考えるとチャンスかもしれない。
いつでもチャーリーがサポートしてくれる状況であるという保証はない。チャーリーという便利スキルが当たり前になるのは、俺にとってプラスなことばかりではないのだ。
過ぎたるは及ばざるが如し。
これは言うならばチャーリーから卒業するための試験のようなものだと言える。チャーリーのサポートなしに、きちんと戦えるのか。
守りたいものを、きちんと守れるように。
それが最強種と呼ばれるインテリジェンス・モンスター、オーガ族の長が強化された状態であったとしても、だ。
「かかって来いよ。理不尽」
俺は意識を戦いに集中させた。
H28.7.26
前話までの内容に合わせて修正しました。
ギング・オーガの名前を『王牙』に変更しました。




