24 原初の大森林
「確認しておきたいのは、魔族のハッシュベルトについてだ。サーベルトは何か知らないか?」
「・・・断片的なものでよろしければ」
「かまわない」
「では。おそらく、<魔公>の配下ではないかと」
「魔公?」
聞きなれない言葉だ。
「王は魔族について、どこまでご存知か?」
「魔族か・・・」
そもそも魔族とは何か?
高い魔力を持ち、【魔法】という万能の力で約500年前までアークノキアを支配していた者たちである。
透けるような白い肌が特徴らしい。
彼らは神の子孫を名乗っており、世界の支配者として君臨していた。
その頃は人種も亜人種も魔族の奴隷だったらしい。
しかしそれを見かねた<神>が魔族以外の種族に<スキル>の力を与えた。
<スキル>の存在により【魔法】は万能性を失い、魔族は他種族に対する圧倒的なアドバンテージを失った。そして解放戦争が起こり、当時の魔王を勇者が倒したことで人類や亜人たちは独立を勝ち取った。その後、魔族は幾度となく人類に戦争を仕掛けているが、勇者によって返り討ちにされている。
現在、魔族は大陸の南西部を支配地域にしているが、帝国が隣接していることもあり勢力は抑え込まれているため、減退の一途を辿っているとのことだ。
近年では<魔王>と呼ばれる強力な個体も現れていないのだという。
<魔王>に脅かされているというブリトニア王国の話しは、全くのデタラメなのである。
「こんな感じか?」
「概ね合っております。ただ魔王について、やや不足している部分がございます」
うん?
「我らインテリジェンス・モンスターにとって<魔王>様とは、圧倒的な力で魔族はおろか半妖種や魔物ですら従え、祝福を与えてくださる絶対的な存在です」
エルゼフとレブンが頷いている。
「そういった意味で真に<魔王>と呼べるは、300年前に降臨された<堕天の魔王>ルシファー様ぐらいでしょう」
「今は魔族全体を統べる者を<魔王>と呼びますがね」
「・・・それが<魔公>と、どう関係があるんだ?」
「先代の魔王が勇者に倒されたのが50年前です」
サーベルトが答える。けっこう前だな。
「魔王が倒された後、しばらくすると何名かの有力な魔族が<魔王>を名乗り始めました」
・・・うん?
「何名かの?」
「はい」
「・・・それって、いま魔王が何人もいるってこと?」
「そういうことです」
いいのか、それ。
「しかし<魔王>を名乗るには力不足な者たちばかりでして。それ故に<魔公>と呼ばれているのです」
「なるほど。つまりハッシュベルトは、<魔公>の手先ってわけか」
「奴が何度か“あの方”と言っておりましたから、おそらく」
う~ん。
正直、ブリトニア王国と対立する前に魔族と事を構えるのは得策ではないと思っていたが、そこまで気にする必要はないか?
「ハッシュベルトが魔公の手先だとして、狙いは何だと思う?」
「私は原初の大森林にある勢力の取り込みかと考えております」
やっぱりか。
俺もそう思った。
「原初の大森林には、国とは呼べぬものの、知性を持つ魔物―――インテリジェンス・モンスターが集落を形成しております。
我らサーベルタイガーは定住の地を持ちませんが、ほかのインテリジェンス・モンスターは組織的に動いている者も珍しくはありません。その者たちを配下に加えることができれば、他の魔公に差をつけることができましょう」
なるほど。
チャーリー、どう思う?
Answer.
サーベルトの推測には、大きな見落としがあります。
え、そう?
Answer.
はい。
おそらくハッシュベルトの狙いは―――
・・・おう。
マジか~。それはマズイな~。
仕方ない。
「現在、原初の大森林で大きな勢力を持っているのは、どんな連中だ?」
「まず多尾狐でしょう。炎魔法と幻術を操る厄介な種族です」
まずサーベルトが答えた。
「数という点ならばクレイジーコングが厄介です。
大森林で最も多く生息しているとされるクレイジーモンキーを従えております」
これはエルゼフだ。
クレイジー・モンキーって、俺が初めて戦ったモンスターだよな。
「個体の純粋な強さで言えば、オーガ族が厄介です。
一匹に対し、我らサーベルタイガーが集団で当たっても危ういでしょうな」
それってタイラント・ドラゴン以上ってことか?
すげーな。
「あとは黒狼や半魚族、純粋なモンスターということであればヒュージ・スライムなどですが・・・」
チラリと俺を見るエルゼフ。
ヒュージ・スライムって、そんな大きな勢力だったのか。
「最も注意を払うべきは神龍王でしょう」
「神龍王?」
「最古の神龍と呼ばれる龍で、原初の大森林の奥深く、シルバーピークに棲むらしいとのことです」
「神話とか、噂話とかじゃないのか?」
「真偽のほどは計りかねますが、厄介なのは、その娘です」
龍に娘がいるのかよ。
「我らは竜巻龍と呼んでおりますが、姿を現しては大きな被害をもたらす厄介な娘です。本人は遊んでいるつもりのようですがね」
あ~、ヤバい系だな。
触らぬ龍に祟りなしとしておこう。
「以上です」
最後はエルゼフが締めくくったな。
ふむ。
ハッシュベルトの目的がチャーリーの推測通りだとすれば、放置はできないか。
だとすれば一番大きい勢力の多尾狐かクレイジー・コングあたりが狙い目か?
Answer.
多尾狐、クレイジー・コング、オーガの三種族に対し、同時に仕掛けているはずです。
わお。
すると現状なら動きのある方を抑えるべきか。
そんなことを考えていると、
「ん!? お待ちください。部下からの緊急連絡です」
サーベルトが声を上げた。おそらく念話だろう。
「なに!? 王よ、村の近くで手負いのオーガを4体発見したとの報告です」
おっと、早速か。
俺はマップを開いて確認する。
確かにオーガが俺の配下を示すプルーに囲まれている。
だがオーガの反応はグリーンだった。
ふむ?
「王よ、いかがなさいますか?」
「俺が行く。配下には手を出さないよう伝えておいてくれ」
『御意!』
H28.7.26
蜥蜴人族を半魚族に変更しました。
 




