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23 目覚めの朝

朝日に照らされ、俺は目を開けた。差し込む光に目を細め、身体を起こす。


「おはようございます」


眠気眼で声をかけられた方を見る。褐色肌の美人が微笑を浮かべて立っていた。


「お食事の用意をして参りますね」


美女はそう言うと、うやうやしく一礼をして部屋を出ていった。


「・・・」


ベッドの脇にはアクアが目を閉じて、何をするわけでもなく立っている。水の玉が周囲をふよふよと浮かんでいた。


「・・・」


俺は無言で天井を見上げると、自分に問いかけた。



どうして、こうなった?



ゴブリン・ハーフたちをサーベルタイガーの襲撃から守ったあの日。

俺はゴブリン・ハーフたちと、その敵であるサーベルタイガーから<眷属化>の申請を受けた。


<眷属化>とは、要するに俺の<眷属>―――つまり部下になることを意味する。忠誠を捧げ、魂のレベルで繋がり合うことなのだという。


普通ならば「あなたに従います」と言っても、口約束で終わってしまう。しかし魂のレベルで繋がり合うことにより、裏切ることはできなくなる。

双方の合意があれば解除できるらしいが、<眷属化>した者が主を裏切ると、<魂>に傷を負うことになるのだという。

この<魂>が何を指すのか不明だが、魔力の根元となるのだそうだ。<魂>に傷を負うと、最悪は魔法やスキルを扱えなくなる。それはこの世界において、自殺行為に等しい。


もちろん、普通は<眷属化>なんてできない。<眷属>とは主と<魂>の繋がりを持つ存在であり、<魂>を転結させる<スキル>が必要になるからだ。

悲しいかな、俺は<魂>を連結させるユニーク級スキル<魂の系譜>を所持している。彼らを<眷属化>することは可能だった。


ちなみに<従魔契約>との違いだが、<従魔>にできるのはモンスターだけらしい。半妖種や魔族、獣人、人族や亜人種、そしてインテリジェンス・モンスターに有効なのが<眷属化>なのだそうだ。

また<従魔>には俺自身の魔力を分け与えるが、<眷属>は<魂>を連結しスキルの効果を及ぼすことができる程度である。それでも強いチカラを得ることにはなるのだそうだ。


あ、インテリジェンス・モンスターというのは<魂>を持つモンスターのことらしい。見分け方としては、人語を解して意思の疎通ができるかどうか、とのこと。サーベルタイガーはインテリジェンス・モンスターなのである。


で、結論から言うと、俺は彼らの願いを聞き入れた。理由はいくつかあるが、決して魔王になるためではない。

もう一度言う。

魔王になるつもりは無い。

大事なことなので2回言わせてもらった。



さて、彼らを<眷属化>した理由は大きく二つだ。


一つは俺の事情。

“俺たちの”と言った方がいいかもしれないが、召喚されたクラスメイト達を匿える場所が欲しかったのだ。

仮にブリトニア王国から彼らを助け出したとして、その後が問題だ。おそらく俺たちは追われ、利用しようとする者たちに翻弄されるかもしれない。

そうならないよう、そして安心して元の世界に戻る方法を探すことができる拠点が必要になる。原初の大森林は、そういった意味で打ってつけの場所だ。王国も高レベルモンスターが徘徊する大森林には、おいそれと手出しできないだろう。

そのための協力者が多いに越したことはない。


もう一つは、ゴブリン・ハーフやサーベルタイガーたちのためでもある。

今回の襲撃事件だが、黒幕であるハッシュベルトなる魔族は姿を見せていない。

しかし自身が<魔獣契約>したガーランドが倒されたことは知れているはずである。となれば、半妖種を嫌っているという話からも報復行動に出る可能性があった。

ゴブリン・ハーフたちを<眷属化>すれば、<魂の系譜>の効果で<念話>が使用可能になる。そうすれば危機的状況になった場合の対応も迅速にできるだろう。サーベルタイガーたちが報復対象になるとは考えにくいが、100%ではない。彼らがゴブリン・ハーフたちを守ってくれるなら、俺も動きやすい。


これらの理由から、俺は彼らを<眷属化>することにした。

もちろん俺が異世界人であることや、配下にする理由などは事前に説明している。

それでも彼らの意思は変わらなかった。


そういうわけで<魂の系譜>を通じ、集落にいたゴブリン・ハーフ全員と、20匹のサーベルタイガーたちを<眷属>にした。

新しいサーベルタイガーのリーダーは予想通りガーランドの息子であるサーベルトになった。

甘い処分と言われるかもしれないが、ガーランドの罪を息子に押し付けるのは筋が違う。それに彼はサーベルタイガーのリーダーが所持するユニーク級スキル<剣虎牙>を所持している。リーダーになるのは当然の流れだ。


俺がガーランドを殺したことについても、


「父はサーベルタイガーの誇りを見失っていました。

 一族の名に泥がつく前に決闘で果てたのですから、私が主を恨む通りはございません」


と言ったので素直に信用することにした。


さて、ゴブリン・ハーフとサーベルタイガーを<眷属化>したわけだが、いくつか誤算があった。


一つは<眷属化>すると、<神格化>の効果が<魂の系譜>を通じて<眷属>全てに及ぶことだ。

そして<神格化>の効果の一つに、<種族進化>がある。


モンスターは<魂>を持たない種族なのだそうだ。<魂>の代わりに<魔素>と呼ばれる魔力の塊が核となって生命活動をしているらしい。

人種や亜人種、魔族は純粋な<魂>を持つ存在である。しかし半妖種やインテリジェンス・モンスターは<魂>に<魔素>が混ざっているらしい。

この<魔素>を浄化し、より<魂>のチカラを高める効果がS級スキル<神格化>にはある。<魂>の純度が上がると、より上位な存在へと<進化>することが出来るのだそうだ。


小難しい理屈を説明したが、要は俺の<眷属>となった半妖種やインテリジェンス・モンスターは<進化>する可能性があると言うことだ。


まずゴブリン・ハーフたちだが、彼らは種族として<ゴブリン・インテリジェンス>に進化した。

緑色で痩せこけ、手足のヒョロ長い姿から完全に人間種に近い出で立ちになった。肌は褐色で耳は尖っており、言われなければダークエルフと見分けがつかないらしい。違いといえば額から小さな角が出ているぐらいだろう。

ちなみに先ほどの褐色美女はエルゼフとレブンの妹で、名前をカーラというらしい。

俺の世話係りということになっていた。


次にサーベルタイガーたちだが、彼らは種族的な<進化>をしなかった。

<進化>に必要な純度に<魂>が至らなかったそうだ。ただし、新たなA級スキル<獣人化>を得た。

これより普段は人の姿で過ごすようになり、以前のような獣っぽさは無くなっている。話すのにも便利になり、彼らは今ゴブリン・インテリジェンスの集落に住んでいる。

で、俺もアス湖の洞窟から住まいをゴブリン・インテリジェンスの集落に移していた。

ちなみにヒュージ・スライムたちは棲家であるアス湖に帰っていった。彼らは水辺が好きなのだそうだ。


久し振りにベッドで寝ることができ、熟睡して昼前まで眠ってしまったようだ。


これらが嬉しい誤算である。


しかし目論見が外れたこともあった。アクアのように<先祖帰り>をした個体がいなかったことだ。


アクアは<原種>という特別な個体だったようで、それが<先祖帰り>の要因となった。

またヒュージ・スライムたちは俺に従っているが、正確には俺の<従魔>であるアクアに従っているのだ。アクアがチカラを増したことで彼らにも影響があるようだが、サーベルタイガーほどではないしゴブリン・ハーフのように<進化>したりはしていない。



現状の整理としては、こんなものだろう。


俺はカーラが用意してくれた遅めの朝食を終える。なかなか美味かった。

食事を終えると、エルゼフたちが俺を待っていると教えられた。慌ててエルゼフの家に向かう。

そういえば、今後のことを話し合いたいとエルゼフに言っていたのだった。


「待たせてすまない」


エルゼフの家には、レブンとサーベルトも待ってくれていた。

サーベルトは筋肉質で大柄な青年になっている。頭の耳が虎のもので尻尾もあるが、それ以外は人間と大差ないように見える。なるほど獣人だ。

エルゼフとレブンは30代後半の精悍なオッサンという感じだった。


「お疲れですか? よろしければ日を改めましょう」


「いや、大丈夫だよ。寝過ごして遅刻とか、本当に申し訳ない」


「もったいないお言葉です」


エルゼフが頭を下げる。

いや、頭を下げるのは俺なんだけど。

そうしている内に、カーラがお茶を運んでくれる。


「カーラが失礼をしていませんかな?」


「むしろ食事の世話をしてくれたりしてくれているから助かってるよ」


「ありがとうございます」


カーラが頭を下げた。

だから頭を下げるのは俺の方だろう。


「遅れて申し訳ないが、早速本題に入っていいか?」


三人は背を伸ばし、肯定の姿勢を見せてくれた。




H28.7.26

前話までの内容に合わせて修正しました。


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