21 襲撃の結末
で、作戦は、それはもう上手くいった。
サーベルタイガーの半数以上を無力化し、北側に回ってきた連中はアクアに手も足も出ない。
そこでゴブリン・ハーフ以上に弱い人間が代表として出てくれば、話しに聞いている通りの奴なら必ず一騎討ちを申し出てくれると思った。
「リーダーはどいつだ?」
実質的に群れを率いていた若いサーベルタイガーに問いかけると、残ったものたち全員が後ろに控えていた大きな個体を見た。
そいつは他のサーベルタイガーと違い、真っ黒な毛並みをしていた。
魔族のユニーク級スキル<魔獣契約>で配下となったモンスターに見られる特徴だ。
「お前か」
「なんなのだ、キサマは?」
「俺か? そうだな、ゴブリン・ハーフたちに雇われた用心棒みたいなものだと思ってくれ」
「用心棒だと?
ならばキサマがスライムたちを用意したのか!?」
「ああ。アイツらは俺の仲間だよ」
「卑怯な罠を仕掛けよって・・・ニンゲンごときが! 誇りは無いのか!?」
「誇りだと? 自分達より弱い相手をいたぶって悦に浸る奴には使ってほしくない言葉だな」
先程の若いサーベルタイガーが俺を意外なものでも見るような視線を送ってくる。
「黙れ! 矮小なニンゲンごときが! 我が牙を受ける勇気がキサマにあるか!?」
はい、予想通り。
チャーリーと立てた作戦とはいえ、ここまで上手くいくと拍子抜けである。
「いいぜ。そっちから言ってくれるとは驚きだね」
「ニンゲンが! 後悔するがいい! <剣虎牙>!」
サーベルタイガーのリーダーは、一気に俺との間合いを詰めてきた。
なんの変鉄もない噛み付き攻撃である。いや、魔力は込められているのか?
しかし舐められてるな~。
怖くて動けないとか思ってるんだろう。こんな奴には強化スキルも勿体ない気もするが、俺は<金剛>を発動し素手で必殺の牙を止めてやった。
「ば、ばかな!? 我の<剣虎牙>を素手で!」
「あの世で反省してろ」
「ま、待て! 私に手を出せば、魔族のハッシュベルト様が黙っていないぞ!」
「それがどうした?」
「なに!?」
「最後の最後まで、惨めな奴」
ショートアッパーで顎を浮かせ、ガラ空きの腹に向かってA級スキル<閃光拳>を放った。
A級スキル<閃光拳>は魔力を純粋な破壊エネルギーに変えて拳からレーザーのようにして放つスキルである。威力のほどは、ガーランドというサーベルタイガーの腹に空いた大きな穴を見れば分かるだろう。
勝負は一瞬でついた。
俺は<トラトラホイホイ>に捕まっているサーベルタイガーたちを解放してやった。あまりにも呆気ないリーダーの最期に、呆然となるサーベルタイガーたちに向かって言う。
「リーダーは俺が殺した。まだやるか?」
「父───いや、ガーランドは一騎討ちで敗れたのだ。何も言うことはない。我らの敗北だ」
さっきの若いサーベルタイガーはリーダーの息子だったのか。なんか父親とイメージが違うな。
まあ魔族と<契約>して、父親の方が変わってしまったのかもしれないな。
「そうか。なら帰れ。もう、ここに用は無いだろう? それとも・・・」
俺は<覇王の威圧>を彼らに向けた。
「まだやるか?」
「っ!?」
ここまで実力差を見せておけば、復讐とか考えないだろう。俺は村に戻ろうとサーベルタイガーたちに背を向けた。
彼らは無言で俺の背を見送り・・・そして、森の奥へと消えていった。
村に戻った俺とアクアを出迎えたのは、膝を着いて首を垂れるエルゼフたちゴブリン・ハーフの面々だった。
リンまで頭を下げている。何事だ。
「何してんの?」
「此度の戦い、お見事でした」
「ああ。お前らも、よく働いてくれた」
「いえ。貴方様の庇護を得ず、我らだけであれば戦いにすらなっていなかったでしょう」
確かに。
ゴブリン・ハーフは、ゴブリンの<魂>から<魔素>が浄化された存在らしい。
半妖種などと言われているが、ゴブリン・ハーフ以外に半妖種と呼ばれる種族はいないのだそうだ。
彼らはモンスターであるゴブリンよりも人間に近く、武器の扱いなどは上手い。魔法も使おうと思えば使えるらしい。
だがゴブリンよりも強い種族だからと言って、サーベルタイガーたちには手も足も出なかっただろう。
「とりあえず、魔族と契約したガーランドとかいう<魔獣>は倒した。残った連中も、元の役割に戻るだけだろう。
ハッシュベルトとかいう魔族のことは気がかりだが、今まで通り暮らせるよな?」
「恐れながら申し上げます」
口を開いたのはレブンだ。
「魔族と我ら原初の大森林に住まう半妖種とインテリジェンス・モンスターには、大古に交わした盟約がございます。
それは互いに不干渉とし、相手の領域を犯さないというものでした。
しかし魔族がインテリジェンス・モンスターを<魔獣>とし、この集落を襲ったことから、この盟約が破棄された可能性があります」
・・・え?
そうなの?
Answer.
半妖種もインテリジェンス・モンスターも、<堕天の魔王>と呼ばれるルシファーが原初の大森林を平定した時に誕生した種族です。
彼らは<堕天の魔王>が失踪した後も、同じ主を持つ配下として不可侵の盟約を結んでいました。
ほう。つまり?
Answer.
彼らは今、魔族の脅威に晒されていると言っていいかと思います。
またインテリジェンス・モンスターたちにも、何かしらの問題が起きていると推察されます。
ということは、このまま彼らを放っておくと、また危険に晒されるかもしれないってことか?
しかしクラスメイトたちのこともある。
俺一人で何ができるわけでも無いと思うが・・・
「ダイチ殿。ヒュージ・スライムや古代種すらも従える貴方様を、我らは新たな<魔王>様と思っております」
・・・はい?
俺はエルゼフの言葉に絶句した。
「ちょっと待て。なんで、そうなる?
俺は人間で、魔族ですらないんだぞ」
「300年前に原初の大森林を平定した<真の魔王>ルシファー様も魔族ではありませんでした。堕天使と聞き及んでおります。
彼の方も強大なチカラを持つ古代種を従え、様々な祝福を原初の大森林にもたらしたと言われております。
まさに―――ダイチ様は、その伝説を体現されておられる」
古代種はアクアのことか。間違ってないけど。
様々な祝福って、<トラトラホイホイ>と<爆裂の矢>のことか?
祝福って呼ぶようなモノじゃないだろう。
「いやいやいや、偶然だから。俺は<魔王>じゃないから」
「我らゴブリン・ハーフを、貴方様の配下にお加えください。微力ながら、必ずお役に立って見せます」
Report.
ゴブリン・ハーフの集団から<眷属化>の申請を受け付けました。
うおい!?
俺は困って視線を彷徨わせ、不意に顔を上げたリンと目が合った。
他のゴブリン・ハーフたちは頭を下げている。
リンは俺を―――畏れと期待のこもった眼差しで見ていた。
原初の大森林に、何らかの異変が起きているとチャーリーは言っている。
それなら、今後もリンに危害が及ぶ可能性があるわけだ。
不意に、過去の凄惨な光景がフラッシュバックした。
俺はまた―――見過ごすのか?
助けを求める妹を前にして、動けなかったように。
ふざけんじゃねぇ。
理不尽と戦う勇気を。
理不尽に折れない心を。
俺は持つと決めたんじゃなかったか。
目の前で理不尽に晒される存在を前にして、立ち向かわずに動けないことはしたくないと、心に刻んだはずじゃなかったのか。
俺はまた―――加奈を見捨てるのか?
そんな目で―――そんな目で、俺を見るな。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」
俺は咆哮した。
ゴブリン・ハーフたちが驚いて顔を上げる。
リンは、もっと驚いた顔をしていた。
魔王になるつもりなんて無い。
けど、目の前で理不尽に晒される彼らを守るチカラが―――今の俺には、ある。
俺が口を開こうとした瞬間だった。
Report.
ここより西の方角800m地点に、脅威反応オレンジを確認。
<暴走>の状態異常が付与されています。
なに?
俺の目の前に半透明のマップが表示された。
・・・なるほど。
確かに―――ゴブリン・ハーフを助けるなら―――こいつらも放っては置けないな。
H28.7.24
ガーランドを倒した後にサーベルタイガーとゴブリン・ハーフが<眷属化>の申請をしていましたが、
ゴブリン・ハーフのみが申請したことに変更しています。
サーベルタイガーは敗走。
また、第一部について、次話で終了としております。
一話増やしました。
 




