20 作戦実行
CAUTION!
敵性反応イエロー。
サーベルタイガーの群れです。
来たか。
リンに助けを求められて約2日。
なんとか準備は整った。
先ずアス湖にいたヒュージ・スライムたちを呼び寄せた。
サーベルタイガーは物理攻撃に特化しているらしいので、スライムとは相性が悪い。
レベルもヒュージ・スライムたちの方が上回っているし、大量にポップしておけば南側入り口の守りは気にしなくて済むだろう。
「次は、こいつだ」
俺はエルゼフたちに一本の矢を見せた。
「これは?」
「矢じりの先端に何か付いていますね」
「あんまり触るなよ。爆発するぞ」
『ええっ!?』
「まあ見てなって」
俺は弓を借りると、岩に向かって矢を放った。
岩が爆発し、粉々になる。
「おおっ!」
ゴブリン・ハーフたちにどよめきが走る。
「命名<爆裂の矢>だ。対象に当たると【ボム】ぐらいの小規模な爆発を起こす」
【ボム】は火炎系の初級魔法だ。
「た、確かに素晴らしい武器ですが」
「この程度の威力では・・・」
「これでサーベルタイガーを倒せるなんて思っちゃいないさ。塀を越えてきた奴を撃ち落とすことが目的だからな」
「撃ち落とす、ですか」
ちなみに村を囲う塀を高くするように指示は出してある。
塀は魔力で強化されているので、サーベルタイガーの攻撃程度では倒れない。
塀を高くするための木材は、タイラント・ドラゴンが暴れて薙ぎ倒されていた木々をヒュージ・スライムに運んでもらった。
ちなみに加工はアクアに任せた。
無数の触手を駆使し、木々を一瞬で加工していく様子は職人に見せられないな。
あと補足すると、ゴブリン・ハーフは狩猟が得意らしく、剣や槍のスキルより弓スキルの方が高いので、ちょうど良いのである。
「で、塀の内側には、こいつを仕掛けておく」
俺は瓶からネバネバした物質を指に絡めて見せた。
「なんですか、それは?」
「命名<トラトラホイホイ>だ。論より証拠だな。向こうに立ってみてくれ」
訝しく思いながら、俺の指差した方に歩いていったレブンが、なんの前触れもなく前に倒れる。
あまりにも無様な倒れ方に仲間たちが失笑するが、
「う、動けん! 何だこれは、助けてくれ!」
レブンの焦った声に慌てて仲間たちが駆け寄るが、皆一様に足を取られ、転倒して動けなくなる。
「これは一体・・・」
その光景を呆然と見つめるエルゼフ。
俺が指を一つパチンと鳴らすと、全員が動けるようになった。
「粘着力のある液体で、一度くっつくと離れない。獲物を捕らえて動けなくしておくには、もってこいだろ?」
「た、確かにそうですが、何故このような罠を?」
「サーベルタイガーはリーダー以外、殺さない」
もちろんモンスターとはいえ生き物を殺したくないとか、前のような理由じゃない。
チャーリーによればサーベルタイガーはもともと誇り高い種族で、『森の番人』とも呼ばれている。小物は狙わず、レベルの高い大型の魔獣を集団で狩ることが多いらしい。地竜タイラント・ドラゴンですら狩ることがあるという。
つまりサーベルタイガーは森の生態系の一端を担っているのである。
彼らが大型獣を狩ってくれているお陰で、ゴブリン・ハーフのような比較的弱い半妖種がこの森でも何とか狩りをして生きていけるのだ。
それを20体も全滅させてしまうと、どうなるか?
生態系が崩れる可能性がある。サーベルタイガー自体、それほど多い個体ではないらしいからな。
基本的にサーベルタイガーはリーダーが倒れれば降伏するらしいし、全滅させるメリットが無い。そもそもサーベルタイガーがゴブリン・ハーフのような種族を襲うこと自体が不自然なのだ。
おそらく名前を与えられた魔族の影響ではないかということだった。
「と、いうことだ」
「し、知りませんでした」
ゴブリン・ハーフたちはサーベルタイガーの真実に驚きを隠せない様子だった。
「しかし、このような魔法具まで、どうやって調達を・・・?」
「秘密だ」
これらは全て、A級スキル<錬金>と<錬成>によって作成したものだ。
チャーリーに「こんなの作れる?」と聞いたら、「可能です」と答えが返ってきた。あとは素材をスライムたちに取り込んで来てもらえば、<無限収納>の中でレンジでチンするかのごとく簡単に作り出すことが出来た。材料なら原初の大森林に豊富にある。<神格化>のおかげで、失敗することも無い。
チャーリーさんも<神格化>も、マジでチートすぎる。
「塀を越えてくる奴は<爆裂の矢>でゴブリン・ハーフたちが撃ち落とせ。
撃ち落とせば<トラトラホイホイ>で動きを止められる。
南側の入り口はヒュージ・スライムたちに任せておけばいいし、北側はアクアと俺で十分だ」
そう作戦を伝え、実際に作戦を実行する時が来た。
H28.7.24
『爆裂の矢』と『トラトラホイホイ』ですが、
『スライムの<分解><精製>によって作った』という設定から、
『主人公の<錬金><錬成>によって作った』という設定に変更しました。




