02 学校での一コマ
その日は暖かく、快晴で過ごしやすい日だった。
我が亜久通高校の文化祭は10月の下旬にある。暑すぎず、寒すぎずの季節。寒くなると手が動きにくくなるし、暖房費がかさむので大変だ。
いつものように授業を受け、クラスメイトたちと談笑しながら休み時間を過ごす。
4限目が終われば昼休みである。購買部にダッシュするやつ、机を並べて一緒に食事をするやつ。いろいろだ。
俺は弁当持参なので教室で食べることが多いが、大抵は三島が来て一緒に弁当を食べる。
三島は2年生にしてサッカー部のキャプテンを務めている。ウチの高校は公立なので別にサッカー強豪校というわけじゃない。
しかし誰の目から見ても、三島が他のメンバーより上手いのは明らかだった。
しかも勉強ができて成績優秀。更に性格も明るくて交遊関係も広い。
・・・なんで、俺と一緒にいるんだろう?
こう言っては何だが、俺はクラスでも少し浮いている。
別に無視されたりイジメられたりしているわくではない。しかし俺が一人暮らしをしていることや、その事情。更に漫画家を目指しているという理由から、遠巻きにされている印象はあった。
加えて俺は社交的な性格でもないので、進んでクラスの輪に飛び込むようなことはしない。この距離感は、ある意味で俺にとっては都合が良かった。
しかし三島だけは、そういったことを気にせず俺の領域に踏み込んでくる。自然と、そこにいるのが当たり前のように。一度、不思議に思って聞いてみたことがある。
「お前、なんで俺なんかと一緒にいるの?」
「変なこと聞くんだな。まあ強いて言うなら、落ち着くからかな」
ちょっと身の危険を感じた瞬間だった。
三島には特定の彼女はいないし俺といることが多いので、二人は“そういう”関係なのではないかと噂されていることを俺は知っている。
しかし奴とは高校に入学してからの付き合いだが、そんな素振りは見せたことがない。たぶん、ノーマルな奴だと思う。たぶんだけど。
「大地は進路、やっぱり漫画家なのか?」
三島が尋ねてきた。
「将来の職業として考えているが、まだ先の話だ。第一希望は今のところ、美大への進学だな」
俺の夢は漫画家になることだ。昨日もオリジナルの作品を仕上げるために夜遅くまで机に向かっていた。
「意外だな。お前なら、すぐにでも出版社に持ち込みして連載させてくれとか言い出しそうじゃないか」
「親との約束で、大学卒業までは学費を出してもらえることになってる。どちらかというと、今は本格的に絵の勉強がしてみたい」
「あんなに上手いのにか?」
俺はコンテストに応募する作品を何度か三島に見せたことがある。まあ佳作にすら入らなかったが。
「漫画の技法だけじゃなく、ちゃんと絵について知っておきたいんだよ。ひょっとしたらアシスタントをすることになるかもしれないだろ。
俺は漫画家を目指しているが、別に焦ってる訳じゃない。自分の描いた漫画がアニメになったら結婚の約束をしている声優志望の美少女もいない」
「それ、なんか聞いたことのある話だな」
三島が作品名を思い出せそうになかったので、教えてやった。「そうそう、それだよ」と言いながらパックの牛乳を飲み干していった。
こいつはパンだろうが米だろうが、食後に牛乳を飲む。カルシウムは大事なんだとさ。
「そういうお前は、どうするんだ?」
「まだ将来の目標が決まっていないが、とりあえずK大の法学部を受けてみようと思ってる」
K大って、かなり偏差値高かったよな。
「ま、お前なら余裕だろ」
「おいおい。これでも俺は努力の人なんだぜ?」
「さよか」
俺は弁当を食べ終え、弁当箱を洗うために席を立った。水洗いしておかないと臭いが移るからな。