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19 ガーランド

「ふん。逃げなかったのか、半妖種め」


少し小高い丘の上から、ゴブリン・ハーフの村が見渡せる。

武装したゴブリン・ハーフたちが緊張した面持ちで待機しているのが見えた。


「クックック。我らに蹂躙される道を選んだか。それも良かろう」


そう話すガーランドは愉しそうに笑った。


「・・・父上。本当に、あの村を襲うのか?」


乗り気ではない。

そういう思いを込めて、若いサーベルタイガーはガーランドに言った。

彼の息子で、名前をサーベルトという。


「当たり前だ。ハッシュベルト様の警告を無視したのだ。当然だろう?」


「しかし、あのような弱い者達を狩るなど、誇り高いサーベルタイガーのすることだろうか?

 それに、堕天の魔王との盟約にも反することだ」


既に何度目かになる問答だったが、未だにサーベルトは納得していない。


「息子よ。我らの主はハッシュベルト様となったのだ。そ

 の言葉は絶対だ。主に忠誠を捧げることこそ、真の誇りと知れ」


そうだろうか?

弱者をいたぶり愉悦に浸るあの魔族を、彼は主と認めたく無かった。


「父上。いま一度、思い直せないだろうか?」


「くどい! それ以上、意見するなら反逆とみなす!」


彼は仲間達を見た。

みな一様に、諦めたように首を振る。

ハッシュベルトという魔族と<魔獣契約>をして以降、父は変わった。


以前は先陣を切り、竜種にすら立ち向かう誇り高いリーダーだった。しかし<魔獣>となって以降、自分よりも格下の相手を追い詰めて弄び、危険な相手には部下を当てることが多くなった。

極めつけは、あのゴブリン・ハーフたちの集落を襲ったことだ。

ハッシュベルトが半妖種を嫌っているという理由だけで村を襲い、イタズラに破壊を繰り返した。殺すなという命令を受けていたが、奴の要求を聞いて吐き気がした。怪我人を足枷にして、いたぶるつもりなのだ。

それを嬉々として受け入れる父には失望しか無かった。

彼を中心とする若いサーベルタイガーたちも同じ意見だったが、リーダーの言うことは絶対というのが彼らの鉄則だ。はじめは諫める者も多くいたが、今では意見するのも彼一人だけだった。


「行けっ! 半妖どもをなぶり殺しにしろ!」


父の命令を受け、サーベルタイガーたちは走る。

その走りに力強さは無かった。

なぜゴブリン・ハーフたちは逃げてくれなかったのだろうか?

力の差は歴然。

彼らが村を捨ててくれれば、サーベルタイガーたちの誇りも、これ以上堕ちることは無かったのだ。


・・・いや、それは違う。


力だけを求め、あのような魔族に忠誠を誓った時点で誇りは地に堕ちたのである。サーベルトもまた、サーベルタイガーとしての誇りを諦めた。



ゴブリン・ハーフの集落が迫る。

せめて苦しまないよう、短時間で終わらせてやろう。

そう思った。


以前に来た時よりも、外周の塀が高くなっている。


浅知恵だ。


あの程度の高さなら、サーベルタイガーの跳躍力で飛び越えられる。

先陣を切った一匹が塀を飛び越えた。

蹂躙が始まる。

誰もがそう思ったが、


「射てえ!」


飛び上がった一匹に無数の矢が飛んでいく。

しかし矢などでサーベルタイガーの強靭な身体に傷を与えることなどできない。

そう思っていた。

矢が爆発するまでは。


「ぎゃっ!?」


矢はサーベルタイガーに命中すると、大きな爆発を起こした。

それは空中を飛んだサーベルタイガーを撃ち落とす。

なるほど、矢に火薬を仕込んでいるのか。

だが無駄なことだ。

あの程度の爆発では大したダメージにならない。

だが、


「な、なんだ!? 身体が動かない!?」


・・・どういうことだ?

何匹かが塀を越えようとするが、爆発する矢に撃ち落とされ、倒れた地面で動けなくなってしまう。


「くっ! なんだ、このネバネバしたものは!?」


「外れない!」


「うわあああっ! 動けば動くほど、まとわりついてくる!」


何かの罠か。

少しは抵抗できるようだ。


「何をやっている!? 門から入れ!」


ガーランドの怒声が響く。

集落の入り口はニヶ所だ。

北と南である。

サーベルタイガーたちは二手に別れることにした。

しかし、南には───


「なぜここに、ヒュージ・スライムがいるんだ!?」


南の入り口を守るように、ヒュージ・スライムの大群が待ち構えていた。


「スライムごときが!」


サーベルタイガーたちはヒュージ・スライムたちを自慢の爪で切り裂いた。

しかしスライムは倒れることなく、ダメージをうけた様子もない。


「核を狙え!」


スライムを倒すには常套手段だが、ヒュージ・スライムの大きさに比べて、彼らの爪も牙も短すぎた。

勇敢にも踏み込んだサーベルタイガーの一匹は、核を壊せずスライムの体内に取り込まれてしまう。


「うわあああああ!!」


攻撃のターンを与えられているのはサーベルタイガーだけではない。

ヒュージ・スライムたちにも攻撃のターンは与えられている。

自在に伸縮し、襲いかかるヒュージ・スライムたちは次々とサーベルタイガーたちを体内に取り込んでいった。


「ひ、引け! 塀を越えるぞ!」


しかし、それは先ほどの状況と代わりはない。

塀を越えようとしたサーベルタイガーたちは爆裂する矢に弾かれ、地に落ちて身動きがとれなくなった。

中には塀に体当たりをして崩そうとする者もいたが、ただの木でできているはずの塀はビクともしない。

そして、文字通り動けるものは一匹もいなくなったのである。



一方、北の入り口を目指したサーベルタイガーたちは、一匹の魔物に手も足も出せずにいた。

北の入り口に居たのは、全身が青い水でできた少女だった。

その姿はスライムを連想するが、精霊に近い存在感を放っている。


「邪魔だ!」


見た目が少女だからだろう。

彼女の危険性に気が付かず、一匹のサーベルタイガーが飛び掛かった。

そして瞬時に横へ吹き飛ばされる。

有り得ない光景にサーベルタイガーたちの動きが止まる。

少女は欠伸をしていた。


「きさま、何をした!?」


更に一匹が飛び掛かる。

そして彼らは見た。

少女から伸びた触手が巨大な拳を作り、飛び掛かったサーベルタイガーを殴り飛ばす光景を。

残されたサーベルタイガーたちは、この規格外の化け物に近寄ることすら許されなかった。


「なんだというのだ・・・」


ガーランドは信じられないものを見ていた。

圧倒的な力で蹂躙するはずだった小さな集落に、精鋭のサーベルタイガーたちが手も足も出せずにいる。


なんなのだ、あのスライムの群れは。

なんなのだ、あの精霊のようなモンスターは!?


三日前には、確かに居なかったはずだ。

それが村を守るように集まり、入り口に向かった同胞たちを返り討ちにしている。

しかも北側にいる少女のようなモンスターは見るからにヤバい。

サーベルタイガーの群れを相手に一歩も動かず、欠伸すらしているではないか。


「こんなはずでは・・・」


魔族ハッシュベルトと<魔獣契約>したことで、今までに無い力を感じた。

自分は何でもできると思った。

そう思うと、誇りだのというのが煩わしくなった。

破壊を繰り返すことが楽しくなった。

どうして、こうなったのだ?

ガーランドは呆然と村を見ていた。

彼の息子が自分を見ていた。

その目は敗けを受け入れていた。

たが自分には認められなかった。

そして、一人のニンゲンが表れた。


「リーダーはどいつだ?」


サーベルタイガーたちが自分を見る。


「お前か」


「なんなのだ、キサマは?」


「俺か? そうだな、ゴブリン・ハーフたちに雇われた用心棒みたいなものだと思ってくれ」


「用心棒だと? ならばキサマがスライムたちを用意したのか!?」


「ああ。アイツらは俺の仲間だよ」


「卑怯な罠を仕掛けよって・・・ニンゲンごときが! 誇りは無いのか!?」


「誇りだと? 自分達より弱い相手をいたぶって悦に浸る奴には使ってほしくない言葉だな」


ガーランドの息子であるサーベルトは顔を上げ、少年を見た。

よもや、自分と同じ思いをニンゲンに口にされると思っていなかったのである。


「黙れ! 矮小なニンゲンごときが!

 我が牙を受ける勇気がキサマにあるか!?」


「いいぜ。そっちから言ってくれるとは驚きだね」


父はニンゲンを相手に一騎討ちを仕掛け、逆転を図ろうとしているようだった。

相手の実力を図れないほどに堕ちたらしい。


「ニンゲンが! 後悔するがいい! <剣虎牙>!」


ガーランドがニンゲンに迫る。

その鋭い牙で噛み砕くために。

しかし必殺のはずの牙は、ニンゲンの両手によって簡単に止められていた。

しかも素手である。


「ば、ばかな!?」


「あの世で反省してろ」


「ま、待て! 私に手を出せば魔族のハッシュベルト様が黙っていないぞ!」


「それがどうした?」


「なに!?」


「最後の最後まで、惨めな奴」


閃光がガーランドを貫いた。





H28.7.24

インテリジェンス・モンスターですが、初期から名前を持っている設定に変更しました。

また<名付け>によるパワーアップ設定を無くし、

新たに魔族には<魔獣契約>というユニーク級スキルがあり、

それによって<魔獣>となることでパワーアップしていると設定を変更しました。

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